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家電品の納入で あわや
丁寧な説明で落着へ

  まだ駆け出しだったころ、原子力関係者のミーティングを通訳したことがある。今なら「原子力」と聞いただけで丁重にお断りするが、当時、仕事を選ぶ立場になかった私は、ろくな準備もできないまま本番を迎えた。

  案の定、交わされる会話の内容はまるで宇宙人の会話で、さすがに途中で泣きを入れるしかなかった。幸い双方が英語でコミュニケーションできたのでミーティング自体は成立したが、後にも先にも、途中で投げ出してしまったのはこの時だけで、今思い出してもぞっとする。

  いい思い出もある。日本の某家電工場でクレーム処理に立ち会ったときのことだ。韓国メーカーから納入されたテレビが不良品だらけなので担当者を呼んで話し合うのだという。

  日本側は「キャビネットに傷がある」と指摘するのに対して韓国側は「傷などない」と非を認めない。ミスを認めないことに日本側はご立腹だが、韓国側も一歩も引き下がらず一触即発状態になった。

  韓国側とじっくり話してみると、「工場でチェックしたが問題なかった。今ここで現物を見ても傷などないじゃないか」と主張する。私が、「日本側はこれを傷だと称している」と、かすかに擦ったような跡を指して説明すると、「それが傷?あり得ない…」とショックを受けていた。多分、「眼」では見えても「脳」は認識していなかったのだろう。

  事態を理解した韓国側は改善を約束し、日本側も韓国側に誠意がなかったわけではないことを納得しその場は収まった。双方から感謝され、その夜は皆でカラオケスナックで盛り上がりに…。後日、問題は解決したそうだ。結局、コミュニケーション不足で「モノ作り」に対する感覚の違いに気づかなかったために生じたトラブルだった。 「通訳次第で戦争を起こすことも防ぐこともできる」というのは言い過ぎだが、言葉にはそれだけの力があり、通訳たる者、それくらいの覚悟が必要だということを認識させられた経験だった。

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 朴輝(パク・フィ)

  1955年8月京都市生まれの在日2世。ソウル大学校経営大学卒業後、82年4月から韓国民団中央本部に勤務。その後、在日韓国青年会京都本部勤務を経て、85年8月株式会社KJサービスセンター(翻訳・通訳・出版等)設立に参加(取締役)、91年9月に独立しリップス(翻訳・通訳)を設立(代表)現在に至る。

 
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