掲載日 : [2018-10-04] 照会数 : 12271
【寄稿】韓国「進歩・統一運動」団体の総連「朝鮮学校」賛美
◆「民族の国宝1号」!?
朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」によると、朝鮮新報社とWeb統一評論、韓国のインターネットメディアである民プラスの共催による討論会「4・27板門店宣言と私たちの役割」(後援=6・15共同宣言実践日本地域委員会、6・15共同宣言実践南側委員会)が8月9日、東京で開かれた。討論会に参加するために来日した16人の韓国側関係者は前日の8日に東京朝鮮中高級学校を訪問、「民族教育」のすばらしさに驚いたという。民プラスのチョ・ホンジョン理事長は「民族の国宝1号は朝鮮学校だ」とまで絶賛した(「朝鮮新報」8月24日「春夏秋冬」欄)。
これまでも、総連傘下の朝鮮学校を題材にした映画「ウリハッキョ」を制作した韓国の映画監督が「ウリハッキョは、在日だけの宝物ではなく、南と北の宝物であり、世界の平和を愛する多くの人々の大切な宝物です」などと述べていた。
◆実態は「金日成民族教育」
朝鮮学校の「民族教育」が「金日成民族教育」であることは、在日同胞にとっては周知の事実だ。北韓当局が教科書をはじめ、すべての教育方針を決めている。金日成・金正日・金正恩3代を「わが民族の偉大な太陽」「民族の最高尊厳」などと称し崇拝させ、生徒たちを北韓独裁と総連のために忠実に貢献する人材に育成、奉仕させる「金日成民族教育」を「民族の国宝1号」「世界の平和を愛する多くの人々の大切な宝物」などと称賛・支援する韓国の「進歩・統一運動」団体・関係者の言動には、強い違和感を覚える。
韓国「進歩派」の人たちの「感動」は嘘・偽りのないものだったのかもしれない。だが、朝鮮学校の教育実態をよく知る在日同胞の認識および評価とは、あまりにも違う。在日同胞社会の発展および南北の真の融和・統一推進のためにも、反民主的な全体主義体制(金日成王朝)を支持・礼賛する教育に対しては、その廃止を求めこそすれ、礼賛して支えるようなことはあってはならない、と私は考える。
「祖国とは異なる在日のための民族教育を」。「民族教育フォーラム<民族教育の今日と明日>参加者一同、東京朝鮮中高級学校新校舎建設委員会」は、1998年12月に「民主主義民族教育事業を改善強化することについて」と題した要望書を総連中央本部宛に提出。北一辺倒の教育内容の抜本的改善を求めた。だが、20年後の今日においても、「真の祖国・朝鮮民主主義人民共和国の海外公民」として「金日成王朝体制無条件擁護」を使命とする教育にはいささかの変化もない。
「南北一方に偏る教育ではなく、統一祖国を年頭に置いた同胞子弟のための真の民主主義民族教育を」という日本各地での父兄たちの要望や提案はことごとく、総連中央によってつぶされてきた。このため、朝鮮学校に児童・生徒を通わせる同胞は年々目に見えて減ってきている。今後、朝鮮学校生はさらに減りこそすれ、増えることはないだろう。総連は各級学校の生徒数の統計数字を公表していないが、神奈川県川崎市川崎区内の同胞集住地にある川崎朝鮮初級学校の今年の新入生は1人だったという。
それもかかわらず、総連中央は金日成を神とあがめ、金日成・金正日・金正恩3代を崇拝させ、唯一絶対思想をもとに、その他いっさいの価値観を認めない。歴史事実の歪曲・ねつ造をやめず、全体主義体制を賛美・擁護する「金日成民族教育」を最重点事業として、その維持に力を注いでいる。
◆独裁者に忠誠を誓う平壌「迎春公演」
金正日・金正恩父子の指示に従い「わが民族」を「金日成民族」と呼ぶ総連中央は、平壌での「学生少年たちの迎春公演」に毎年、日本各地の朝鮮初級・中級学校から選抜された児童・生徒らからなる「在日朝鮮学生少年芸術団」(100人前後)を派遣。北韓要人を含む多数の観衆を前に金日成王朝3代への「変わらない忠誠」を表明させている。
86年12月31日の迎春公演から始まった朝鮮学校生代表の参加は、昨年12月末の公演で31回目になる。「永遠なるおひさまの国」と題した2012年の公演では、児童・生徒らが「将軍様(金正日)の遺訓を守り、金正恩先生だけを固く信じ、ついていきます。敬愛する金正恩先生、どうかお元気でおられることを願います」と永遠の忠誠を誓う歌劇を披露。30回目の16年12月末公演では「偉大な大元帥様たち(金日成・金正日)と敬愛する元帥様(金正恩)の愛は民族教育の生命水です」と歌い上げた。
金永南最高人民会議常任委員長、朴奉珠首相らが観覧した昨年12月末の公演でも「私たちには父なる元帥様が率いる母なる祖国があります」「あ~あ、父なる金正恩元帥様。新年もどうか末永く安寧でありますように」と合唱した。こうした「迎春公演」は動画共有サイト「ユーチューブ」で見ることができる。
◆嘘で固められた高校「歴史教科書」
朝鮮学校の歴史教科書は、「民族教育」が、金日成一族への忠誠心を植え付けるために歴史を歪曲・ねつ造し、誤った歴史観を刷り込む「洗脳教育」であることを示している。
朝鮮高級学校(高校)で使用されている歴史教科書「現代朝鮮歴史」は、1945年8月の北韓地域の解放が旧ソ連の軍事力によってなされ、金日成はスターリンの目にかない北韓の指導者となったことを隠し、金日成が日本軍を降伏させ祖国を解放・凱旋したかのように強調している。
金日成の命令で38度線全域での電撃南侵により開始され3年余り続き、同胞だけでも数百万人が死亡、国土の荒廃化に加えて南北分断を固定化させ、1000万離散家族を生んだ6・25韓国戦争(朝鮮戦争。1950年6月~53年7月)については、「米帝のそそのかしのもと、李承晩が開始した」と責任を転嫁している。それどころか、「祖国解放戦争」と美化、休戦協定が調印された7月27日を「米国から勝利を勝ち取った勝利記念日」と称して大々的に祝ってきた。
また、83年10月に全斗煥大統領一行を狙って引き起こしたラングーン爆弾テロ事件は記述せず、88年ソウル五輪妨害のために実行した87年11月の大韓航空機爆破事件については「南朝鮮旅客機失踪事件」と称し、「南朝鮮当局」によるでっち上げだと教えている。
総連の民族教育の頂点にある朝鮮大学校の朴三石教授は、『知っていますか、朝鮮学校』(岩波ブックレット、2012年)で朝鮮学校の朝鮮歴史教科書の特徴として、「朝鮮歴史にかんする教科書の第二の特徴は、日本にありながらも朝鮮半島の北と南、海外にいる朝鮮民族が読んでも理解できる『民族統一教科書』を目指して記述されていることである」などと説明していた。だが、当時も現在も、そのような教科書でないことは、現物を一読すればわかる。
金日成絶対化と金日成王朝維持のために、歴史を都合よく改ざんし嘘で塗り固められた朝鮮学校生徒用の歴史教科書は、在日同胞にとってはもとより、南北の相互理解・融和を通じた民主・先進化統一推進にとっても百害無益であり、速やかに破棄されなければならない。
◆「6・15実践南側委員会」饒舌と沈黙
韓国の「進歩・統一運動」団体・人士は、総連の「民族教育」が北韓独裁の統制下で進められている「金日成民族教育」であることを承知の上で、絶賛し、継続支援を呼びかけているのか。総連の推進している「金日成民族教育」が「在日同胞の望んでいる真の民族教育」であり、「南北の架け橋となり統一推進にも寄与しうる」と、本当に信じているのだろうか。そうであれば、その理由・根拠をぜひ聞きたい。
「民族の国宝1号は朝鮮学校だ」と絶賛してやまない民プラスのチョ・ホンジョン理事長は、討論会「4・27板門店宣言と私たちの役割」を「6・15共同宣言実践日本地域委員会」とともに後援した「6・15共同宣言実践南側委員会」の常任代表でもある。同「南側委員会」は北側委員会、海外側委員会とともに05年12月に「6・15共同宣言実践民族共同委員会」(6・15実践共同委)を構成している。
「6・15実践共同委」は「6・15南北共同宣言(2000年)を実践して民族の和解と団結、平和と統一を成し遂げることを使命とする全民族的な統一運動連帯組織であり、統一運動の先鋒組織」だとし、同共同委への南・北・海外同胞の結集を呼びかけている。その実態はどうか。
北側委員会は、北韓当局の代弁人に他ならない。そして海外側委員会の中心をなす「日本地域委員会」は、北韓当局の日本における忠実な代理・代弁人である総連中央と、その別働隊である韓統連(在日韓国民主統一連合)によって運営されている。日本地域委員会の議長は孫亨根韓統連議長で、副議長は総連中央の徐忠彦国際統一局長らである。
南側委員会は、北側委員会に終始同調してきた。6・15共同宣言の最大のキーワードである「わが民族同士」の「わが民族」について、北側が6・15共同宣言以後も「わが民族=金日成民族」だと主張し続けていることに対し、これまで異議を唱えることなく黙認。北側の前近代的・非民主的「民族・統一」論を承知の上で、北側委員会と行動を共にし、「統一推進への参与・結集」を内外同胞に呼びかける「共同宣言」などを発表してきた。行動を共にするには、「わが民族」・「南北統一」など最重要な言葉や字句の定義や認識での一致が不可欠だ。
「6・15宣言発表7周年記念民族統一大祝典」(07年、平攘)では、「総連に対する支持と声援は民族統一運動の重要課題」との認識で一致。南側委員会は総連の大会・行事などに連帯の祝電を送り続けている。のみならず、これまで来日した南側委員会の常任代表らは、東京での講演会などで、「韓半島の緊張を高めているのは常に米国だ」と北韓の核開発・実験を擁護するとともに、韓国の民主化推進の必要性を強調しながら、「北の民主化」の必要性には一言も発していない。
自由民主体制下の韓国国民とは対照的に、「北の同胞」には自由な意思の表明は、過去はもとより現在も一切認められていない。独自の思考は危険視され、「最高尊厳」批判は即政治犯収容所送りだ。世界最悪の人権状況にある「北の同胞」は24時間監視され、金日成王朝への絶対的服従を強いられている。そのことについて、韓国の「進歩・統一運動」団体・代表らは、意図的に言及を避けることで、人権・自由・平等尊重の対極にある全体主義的独裁体制の継続・保証に手を貸してきた。
ちなみに総連は機関紙などをつうじて、北韓があたかも「人権先進国」「人権大国」であるかのように虚偽宣伝をくりかえしている。昨年6月16日付「朝鮮新報」は「朝鮮政府は人民の人権を保護、増進させることを国策とし、その実現のために努力の限りを尽くしており、全人民が真の人権を思う存分享受しているのがこんにち、わが国の現実である」とする、北韓代表団の国連人権理事会第35回会議での発言(6月7日)を大きく掲載した。
そもそも総連は、北韓を「南北すべての人民の総意によって建設された唯一正当な主権国家、唯一の祖国」と定め、「すべての同胞を『共和国』のまわりに総結集させる」ことを使命としている。朝鮮労働党の指導下にある総連の唱える「自主統一」とは「金日成王朝下統一」にほかならない。
総連中央の許宗萬議長は、今年5月の総連第24回全体大会でも、「金正恩様を全同胞(民族)の希望の中心」として「天地の果てまで戴き仕え」「敬愛する元帥様だけを信じて従う」ことを呼びかけている。15年の第23回全体大会での報告では金日成・金正日を「民族の永遠の太陽」として戴くことを確認するとともに、「敬愛するする金正恩元帥様をわが祖国と民族の最高指導者に高く戴く」ことを力説していた。なお北韓は、13年4月の憲法修正で序文(前文)に「金日成主席と金正日総書記が生前の姿で安置されている錦繍山太陽宮殿は首領永生の大記念碑であり、全朝鮮民族の尊厳の象徴であり永遠なる聖地である」と追加・明記している。
「北の同胞」の人権と自由を徹底的に抑圧する北韓独裁の忠実な代理人として「金日成王朝への無限の忠誠」を誓い、核実験・ミサイル開発継続を終始支持・擁護するとともに、「朝鮮戦争=米帝の侵略戦争」、「韓国=米帝強占(占領)下の植民地」との虚偽・謀略宣伝をいまだに続ける総連への「支持・声援」が、どうして「民族統一運動の重要課題」になるのか。やはり、南側委員会が北韓独裁政権の「民族・統一」論を容認しているのでなければ、考えられないことだ。
◆真の団結・民主統一推進に逆行
南北の統一問題に強い関心を持つ在日同胞は、総連中央の唱える「(朝鮮)民族」とは「金日成民族」であり、「自主統一」とは「金日成王朝下統一」であることを知っている。
在日同胞は民団、総連系を問わず、韓半島の平和確保と南北交流・協力・発展を通じての民主的統一の推進を願っている。在日同胞が切望してやまない祖国の統一は、早期に南北自由往来および離散家族再結合を実現、「南北社会の等質化」(経済発展と平和・民主・人権・法治などの価値観共有)をめざすものだ。「民主的先進国家への発展的統一」であり、朝鮮労働党指導下の総連中央が使命としている反動的な「金日成王朝の南地域への拡延統一」ではない。平和・民主統一の実現には、非核化を通じた南北間平和体制の制度化に加えて、北韓自身の改革・開放を通じた経済の再建・発展と民主化推進が不可欠だ。
南側委員会は、6・15共同宣言を実践するための「韓国内の民間統一運動団体の結集体」だと表明している。韓国内の真に自立した統一運動団体ならば、わが民族、同胞、国民を愚弄してやまぬ北側の「金日成民族」主張および民主的統一推進とは真逆の「金日成王朝下統一路線」に対して態度を鮮明にし、その撤回を北側に対して強く主張してしかるべきだ。だが、これまで一度も行っていない。韓国戦争や大韓航空機爆破事件などはもとより、北韓同胞の劣悪な人権状況についても不問に付している。また、そうしたことについての説明もない。
韓国の「進歩・統一運動」団体・関係者に改めて問う。
①なぜ、「金日成民族教育」が実施されている「朝鮮学校」が「民族の国宝1号」に値するのか②北側の「金日成民族」主張に反対せず、その即時撤回を求めないのはなぜか③韓国の民主化推進・拡大を継続主張しながら、北韓独裁体制の民主化の必要性については主張していないのはなぜか④北韓の朝鮮労働党規約や憲法などに明示されている「金日成王朝下統一論」に反対せず、沈黙を続けているのはなぜか⑤最終的にどのような「南北統一国家」を目指すのか、どのような統一国家であろうとしているのか「統一国家像」を一度も提示していないのはなぜか。
韓国国民のみならず、在日同胞もかねてから抱いている、このような疑問に対して、なぜ、これまで説明してこなかったのか。韓国国民に対してはもとより在外同胞にも、今こそ明らかにすべきである。
朴容正(元民団新聞編集委員)