1923年9月1日の関東大震災から間もなく90年。節目の年を迎え、在日韓人歴史資料館(鄭進理事長・姜徳相館長、韓国中央会館別館)は第9回企画展「関東大震災から90年、清算されない過去‐写真・絵・本からみる朝鮮人虐殺」を31日から企画展示室で開催する。犠牲者を追悼しながら、今日の経済不況を背景として高まる民族排外主義の原点がどこにあるのかをともに考える。同館の企画展は2年ぶり。
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当時の写真、本、絵で…在日韓人歴史資料館企画展
民族排外主義の原点浮き彫り
今回の企画展は現存する写真や絵、本からの転用が中心。朝鮮人虐殺が疑いようのない事実であることを直接、視覚に訴えるのが狙い。
展示品は東京都復興記念館所蔵『東京市本横小学校大正震災記念画帳』(1923年)から子どもたちの絵124点(複写)、および、『大正震災画集』(絵巻研究会編、1926年)から25点、萓原白洞作「東都大震災過眼録」(1924年、複写、国立民俗博物館所蔵)、竹久夢二が都新聞に掲載した東京災難画信(1923年9月14〜10月4日)など、合わせて約200点。
東京市本横小学校の児童の1点は、警官と自警団らしき一団が、千葉県市川市で朝鮮人とおぼしき黒い服の人を捕まえようようとしている光景を絵にした。デマに踊らされた当時の官憲と民衆の狂気が伝わってくるかのようだ。
竹久夢二の挿絵「自警団遊び」(9月19日付掲載)は、子どもたちが大人をまねして竹や棒切れを振り回し、たまたま通りかかった萬ちゃんを「君の顔はどうも日本人ぢやないよ」といって困らせているもの。「子供達よ。棒切を持って自警團ごっこをするのは、もう止めませう」といさめている。
「真相究明と謝罪求める」
「標(しるべ)1923♯1」と題した作品は、関東大震災での犠牲が確定された49人の氏名を記した角取明子さんの作品(2008年)。いわれなく虐殺された犠牲者の無念の声なき声が伝わってきそうだ。
今回の企画展の実務を担当した在日韓人歴史資料館の学芸員、李美愛さんは、「事件の真実はいまだに隠されたまま。放火したとか、井戸に毒を入れたといった在日同胞の汚名は晴らされてはいない。名誉回復には真相究明、そして国としての謝罪が必要」と訴えている。
展示は12月28日(10〜18時開館)まで。観覧無料(ただし、常設展示室は有料、大人200円、学生100円)。
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生き証人が告白…呉充功監督の2部作
「払い下げられた朝鮮人」「隠された爪跡」…いまもロングラン上映続く
関東大震災当時の朝鮮人虐殺をテーマとした呉充功監督の記録映画「隠された爪跡‐関東大震災と朝鮮人虐殺」(83年)と、「払い下げられた朝鮮人‐関東大震災と習志野収容所」(86年)が、完成から30年近く経ついまも各地で息長く上映されている。両映画は、虐殺を自分の目で目撃し、体験した韓日の生き証人がカメラを直視している点で貴重だ。
「隠された爪跡」は、呉監督が横浜放送専門学校(現在の日本映画大学の前身)で学んでいた当時、若い日本人の仲間と2年間アルバイトを重ねて取り組んだ自主製作作品。ちょうど、関東大震災から60年を前にした年だった。
映画には被害当事者の仁承さん(83、当時)が中心人物として登場する。さんは1923年9月1日の夜、東京・墨田区の荒川土手に避難していたところ、消防団員によって同胞15人と一緒に縄で縛られた。翌朝、旧四ツ木橋から寺島署まで連行される途中、自警団による朝鮮人虐殺に巻き込まれてしまい、トビ口でふくらはぎを刺された。
一命はとりとめたものの一緒にいた従兄を失う。さんも足を引きずる後遺症を負った。このさんの証言をもとに当時の状況を再現した。
一方、さんの証言を裏付ける日本人側の証言集めは困難を極めた。あるときはゲートボール試合に興じる古老たちの仲間入りをしたり、ときには銭湯に一緒に入り、交流を積み重ねながら証言を集めた。
荒川土手で騎兵連隊が朝鮮人を機関銃で銃殺する光景を目の当たりにしたという元青年団のAさんは、複雑そうな表情で語る。「その当座は、朝鮮人がなにやられて殺されてもしょうがねえなと思いましたけれど。後で、だから、それがデマであったんだなんて聞いたときは、なんともいえない変な気持ちになりましたよ」。
一方、「払い下げられた朝鮮人」は、さんが虐殺の恐怖におびえながら、寺島警察署から千葉県の陸軍習志野朝鮮人収容所に送られたことから、第2作として取り組んだ。
千葉県では陸軍が保護収容した人物を選別して殺害。さらに、村役場を通じて収容所付近の自警団に「朝鮮人をくれるからとりに来い」と命じて15人を密かに葬っていたこともわかった。これは市民グループ「千葉県における関東大震災と朝鮮人犠牲者追悼・調査実行委員会」が自警団の書き残した日記を発見してわかった。殺害現場はなぎの原と呼ばれる村の共有地。
同市民グループは98年、警察、消防署、保健所関係者立ち会いのもと、旧高津区の区民有志や観音寺住職らとともに卒塔婆の下で75年間眠っていた遺体6体を掘り起こした。これらの遺体は翌99年、韓国から85年に寄贈された「慰霊の鐘閣」の隣りに改葬された。
呉監督は、「東京・新大久保や大阪・鶴橋で繰り返されている激しいヘイト・スピーチデモを見るにつけ、90年前の朝鮮人虐殺は決して過去の問題ではないのだと思う」と話している。
横浜で特別上映
「よこはま若葉町多文化映画祭2013」の関東大震災慰霊特別上映として、「隠された爪跡」と「払い下げられた朝鮮人」の2本が上映される。
9月1日10〜11時50分。会場はシネマ・ジャック&ベティ(℡045・243・9800)。横浜市中区若葉町3‐51‐3 ビクセル伊勢佐木町。一般1500円、大専1200円、小中高、シニア、外国人1000円。チケットは9時30分の劇場オープンと同時に販売する。
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各地の慰霊・追悼企画
■東京
▽「関東大震災殉難同胞追悼式」9月1日11時30分〜韓国中央会館8階大ホール。引き続き12時30〜『ネットと愛国』の著者安田浩一さんによる講演会。民団東京本部(℡03・3454・4711)
▽「朝鮮人犠牲者追悼式」9月1日11時、墨田区横網町公園内「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」前。日朝協会東京都連合会(℡03・3230・2382)
▽「関東大震災90周年記念集会」8月31日10時、明治大学駿河台キャンパスリバティホール1階。鎮魂の舞、研究発表など。資料代1000円。同実行委員会(℡080・9414・0901)事務局担当・田中さん
▽「韓国・朝鮮人犠牲者追悼式‐ほうせんかの夕べ」9月7日14時30分、墨田区の荒川河川敷。15時30分から李政美、朴保ほか出演による「ほうせんかの夕べ」。カンパ有り。ほうせんか(℡/FAX03・3614・8372)。
■神奈川
▽「宝生寺関東大震災慰霊祭」9月1日11時30分、横浜市南区堀ノ内の宝生寺。民団神奈川本部(℡045・316・0815)
▽「追悼の会」9月1日10時、久保山墓地(JR保土ヶ谷駅東口)。同実行委員会(FAX045・942・7728)山本さん。
■千葉
▽関東大震災被殺同胞慰霊祭。9月1日11時30分、民団千葉・船橋支部3階会議室。民団船橋支部(℡047・424・2775)
▽「朝鮮人犠牲者追悼・慰霊祭」9月8日14時、八千代市高津・観音寺境内「慰霊の碑」前。追悼・調査実行委員会(℡/FAX047・438・1757)平形さん。
■埼玉
▽「長峰墓地慰霊追悼式」9月1日9時、本庄市内の長峰墓地。本庄市役所(℡0495・25・1111)
▽「関東大震災朝鮮人犠牲者慰霊祭」9月1日10時15分、児玉郡の安盛寺。上里町役場(℡0495・35・1221)
▽「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式」9月1日13時30分、熊谷市内のメモリアル彩雲。熊谷市役所(℡048・524・1111)。
■群馬
▽「関東大震災朝鮮人犠牲者慰霊祭」8月31日14時、藤岡市・成道寺。1000円。日朝県民会議(℡0272・61・3333)。