民団「在日への愛情に感謝」
朴大統領「貢献は国の誇り」
同胞生活向上に全力…呉団長、本国との連帯さらに
朴槿恵政府が出帆(2月25日)して初めての要路訪問に、民団は26人の代表団(名簿別掲)で臨んだ。公式日程は8月27日から29日まで。メーンは28日、青瓦台での朴大統領による代表団接見だ。
接見室に現れた朴大統領はにこやかに、代表団一人ひとりに言葉をかけながら握手。緊張気味だった代表団の表情も一気に和んだ。着席後、最初の語りかけも「民団代表団を心から歓迎する。皆さんには心の中でいつも感謝している」との、温かみのこもった言葉だった。
次いで、「在日同胞は祖国の危機に際して全力で支援してくれ、困難克服と国力回復に大きく貢献してくれた」と切り出し、こう続けた。
「6・25韓国戦争時の学徒義勇軍派遣では犠牲者も多かった。セマウル運動支援、88ソウル五輪時の誠金、IMF危機時の外貨送金、焼失した南大門の再建募金、その他にも国防誠金や各種災害への支援金など、どれも忘れられない。異郷にあって生活が楽ではない中での、こうした貢献は国の誇りだ。同胞が日本で安定した基盤をつくり、海外同胞社会の手本になるうえで、民団の果たした役割は大きい。今後も民団が中心となり、在日同胞社会が継続発展することを願う。政府としても積極支援する」
こまやかさに代表団も感激
なかでも、代表団が感嘆したのは、大統領が南大門再建募金にまで言及したことだ。国宝第1号の南大門(崇礼門)の焼失は08年2月、李明博第17代大統領の就任式を間近に控えていた時だった。その事件の渦中に訪韓していた鄭進団長(当時)ら民団幹部は、衝撃を抑えられず、早期の再建を願って募金活動の展開を決意した。
しかし、その後の韓国では米国産牛肉の輸入をめぐるBSE(牛海綿状脳症)騒動が「李明博大統領退陣」を叫ぶ政治的騒乱に発展し、国政基盤が揺らぐまでになった。再建募金の動きは窒息し、その後も韓国で社会的な話題になったことはない。民団はそれでも組織募金を続け、同年10月には募金約5億9000万ウォンを関係先に伝達、再建の一助とした。
これはいわば、陽の当たらない貢献事業だったと言えるだろう。それだけに、朴大統領が再建募金にも触れたこまやかさに、在日同胞のよき理解者であることを改めて感じ入ったのだ。しかも、自分たち在外国民も投票して誕生した初の大統領でもある。親近感を一気に膨らませた瞬間だった。
ちなみに、昨年は在外国民選挙の実施元年であった。民団は第19代国会議員選挙(4月)と第18代大統領選挙(12月)に、ひとりでも多くの在日国民を参与させるべく総力を傾けた1年だったといって過言ではない。代表団一行には、その労苦が報われたとの思いが交錯したはずである。
感激の面持ちであいさつに立った呉公太団長はまず、「今日この瞬間は、これまでの人生で最も光栄だ。一生忘れられない」と語り始めた。団長はこの言葉で、自身を含む全団員の心情を代弁したといっていい。
「在日同胞と大統領の縁には深いものがある」と述べた団長は、故・朴正熙大統領が在日同胞に注いだ愛情、民団に寄せた温かい配慮に触れ、一体となって祖国近代化に尽くした歴史を想起するとともに、その経緯をつぶさに見てきた朴槿恵大統領だからこその感懐を込め、自叙伝に在日同胞への格別な思いをつづってくれたことに感謝した。
団長はそのうえで、「民団の抱える諸問題とその対処姿勢について率直に申し上げたい」として、次の4項目をあげた。
▽韓日関係が冷え込むなか同胞の生活を脅かすヘイト・スピーチ(憎悪表現)が横行している。関係改善と人権擁護に最善を尽くす▽小学校児童から大学生までの母国研修など、次世代育成に努めているが、先行きに不安がある。より確固としたシステムを築く▽遺憾にも民団の傘下団体・韓商連に対する執拗な分裂策動がある。内外の困難を打開するためにも、全同胞の一致団結を目指す▽新規定住者で構成する韓人会が正常化した。民団としては在日の統合へ前向きに対応したい。
まとめとして団長は、「厳しい状況はあっても、李丙駐日大使とも力を合わせ、豊かで活気ある同胞社会建設にいっそう努力する。民族主体性を守りながら、政府と歩調を合わせ、韓日関係の改善、祖国の発展と平和統一に、与えられた役割を全うしたい」との決意を披瀝した。
次世代育成と統合を重点に
意見交換に入って金漢翊議長は、民団が3年後に創立70周年を迎えることを紹介、「主流世代が3・4世になるにともない、価値観が多様化してきた。新たなビジョンの策定を追求している」とし、「組織運営の効率化と財政健全化に努め、朝総連離脱同胞や新規定住者、日本国籍取得同胞など、すべての同胞を民団中心に大統合すべく努力する」と言明。同胞の実生活向上のための生活相談センター充実、子弟の結婚・就職の後押しと合わせ、韓国からの留学生に対する就職支援にも取り組む考えを示した。
韓在銀監察委員長は、日本社会における歴史認識の後退、ヘイト・スピーチの増殖などを鋭意注視しつつ、韓日関係の早期修復へ架橋的役割を果たすと表明。続いて、「開城工団や離散家族再会問題の進展は、大統領が提唱する韓半島信頼プロセスの起点になる」と高く評価する一方、「南北関係が好転しても北韓の基本路線が変わらない限り、堅固な安保体制が不可欠だ」と強調、国家保安法と国家情報院の重要性に言及し、一部にある国情院無力化の動きに懸念を呈した。
最後に、呉英義副団長が次世代育成と慰霊事業に絞って発言した。東京韓国学校初等部の第2学校設立など民族学校の充実と、オリニ・ジャンボリーなど次世代育成のための母国研修への支援を訴えたほか、現在、建立を推進中の「長崎韓国人原爆犠牲者慰霊碑」について、故・朴正熙大統領が沖縄の「韓国人慰霊碑」に揮毫した先例を示しながら、「犠牲者の魂を慰め、在日同胞の位相を高めるためにも、大統領に揮毫していただきたい」と要望した。
各意見を逐一メモに取っていた大統領は、まず韓日関係について、「心配をかけている。だが、国民同士は信頼のすそ野を広げており、若者たちは韓流や文化交流を通じて相互理解を深めている。日本の一部政治家による歴史認識発言が葛藤を持続させていることを残念に思う」と苦渋をにじませた。
韓日は共同の利益の追求も
続いて、「日本の指導者がドイツの例にならい、過去の傷を刺激することなく、治癒するために勇気あるリーダーシップを発揮することで、両国が共生と協力の未来志向的な関係になれるよう望んでいる」と述べ、「歴史認識は正されるべきだが、韓日は共同利益の追求も忘れてはならない」と強調、「韓日関係はいずれ回復に向かうだろう。民団の役割はこれまで以上に大きい」と期待を込めた。
また、ヘイト・スピーチを念頭に「右翼団体の反韓言動は合理化できるものではない。我が政府も日本政府に問題の深刻さを伝え、解決を促している」と明らかにし、「大多数の日本国民が(反韓言動を)快く思っておらず、これへの反対デモもある」と指摘、日本社会が自律的に解決する問題でもあるとの見解を示した。
大統領はまた、「海外同胞社会の最も大きな関心事は子弟教育と民族主体性の涵養にある」とし、「在外同胞教育を最初に始めたのが在日であるだけに、東京第2韓国学校が建設され、次世代民族教育の模範になるよう望む」と語り、「政府は新時代教育に力を入れている。主体性を維持しながら21世紀に即した人材が育つよう支援する計画だ」と明らかにした。
大統領はオリニ・ジャンボリーについて、助けになるよう対処すると約束し、長崎の原爆犠牲者慰霊碑については関心を持って対応すると言明した。民団の宿願とも言える地方参政権獲得に関しては、「日本の実情からして当分は難しいが、日本政府に継続要望していくので、民団の引き続きの努力に期待する」と述べた。
大統領は最後に、「在日社会には世代交代、新規定住者や帰化者の増加などで価値観の多様化がある。民団が和合と団結の求心点となることを願う」と強調、「政府も在日同胞の生活向上のために、民団を積極支援する」と重ねて約束した。
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「支援継続は当然」
関係重鎮ら温かい激励
民団代表団は2泊3日の限られた日程のなか、青瓦台訪問以外にも多数の関係要路と公式会合を持った。
27日=黄祐呂会長ら韓日議員連盟の幹部▽姜昌熙国会議長▽朴炳錫国会副議長▽李君賢国会予算決算特別委員長▽圭理事長ら在外同胞財団幹部。28日=金守漢会長ら韓日親善協会中央会幹部▽徐南洙教育部長官▽尹炳世外交部長官▽韓東禹会長ら新韓金融持株会社役員。29日=安鴻俊国会外交統一委員会委員長(会合順)。
この他にも、複数の有力国会議員らと会合し、公式的な要望(別掲)に関連するものだけでなく、韓日関係の修復問題など民団と在日同胞が抱える懸案について、幅広く意見を交換した。民団側の意見はほぼ次の通り。
「韓日関係の悪化は在日同胞の生活にも影を落としている。特にヘイト・スピーチの横行は、在日にとってばかりか今後の日本にとっても由々しき問題だ。こうした動きを封鎖していくためにも、韓国側が日本社会を不必要に刺激することは自制して欲しい。民団は持てる力をフルに発揮し、韓日関係改善に努める考えだ」
本国サイドも、在日の置かれている状況を懸念しつつ、韓日関係の改善に意欲を見せた。しかし、「かつては政府間関係が冷え込んでも、それをカバーする力があった。今は対話チャンネルが減った」との現実がある。関係者は、「それだけに、民団の橋渡し役に期待したい」と、こう口をそろえた。
「日本には良質な勢力がかなり存在する。ヘイト・スピーチについても、人権擁護と表現の自由との狭間で苦慮する有力政治家も多い。良質な勢力と連携を強めたい。歴史認識で正論を貫くために、すべてを犠牲にすることなく、両国とも国内の反発を抑えながらでも、正常化に動くべき時は動かねばならない」
在外国民支援金についても、関係機関や有力議員らから「他の海外同胞団体と違って、民団は特別な存在。支援継続は当然だ」との好意的な反応があった。また、韓商連問題について、「一般社団」側が虚偽事実を流布している事実を踏まえ、民団の対応が規約に基づいた正当なものであり、分裂策動は絶対許さないとの決意を伝え、韓商連を紛糾団体規定から解除するよう求め、理解を促した。
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代表団メンバー
団長=呉公太
議長=金漢翊
監察委員長=韓在銀
常任顧問=鄭進 金宰淑 辛容祥 丁海龍 許孟道
副団長=呂健二 朴安淳 金昭夫 呉英義
副議長=梁東一 李秀夫
監察委員=金豊成 金春植
事務総長=河政男
東京本部団長=金秀吉
大阪本部団長=鄭鉉権
婦人会会長=余玉善
体育会会長=崔相英
軍人会会長=李奉男
青年会会長=徐史晃
韓信協会長=呉龍夫
民団新聞主幹=朴得鎮
本国事務所所長=高漢碩
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民団の要望事項
本国要路への要望事項は骨子次の通り。
▽在外国民選挙制度における選挙人登録申請の郵便受付制度および旅券不所持者に対する代替制度の導入
▽在日韓国人の日本地方参政権早期実現への協助
▽在日同胞の民族主体性堅持に関連し1,在日韓人歴史資料館への支援2,各種社会教育および東京韓国学校初等部の第2学校建設をはじめとする民族学校の施設充実など次世代育成事業支援
▽本国国民に対する海外同胞理解教育の実施
▽民団と在日同胞の歴史的特殊性を勘案し、在外国民支援金の継続
▽会員組合の合併を推進する在日韓国人信用組合協会に対し、優先出資として政府資金50億円程度の支援。