<寄稿>戸田志香…共に歌って「花は咲く」
若い響き 広がり願い
8月8日、ソウルの世宗文化会館で音楽会が開かれます。「歌 ひとつ 響」。日本と韓国の高校生10人が日本の、韓国の、イタリアの歌曲を演奏するこの音楽会は、世宗文化会館(ソウル・鍾路区)と昭和音楽大学(神奈川・川崎市)が主催です。
昭和音楽大学は「高校生のための歌曲コンクール」第14回目の今年、入賞者の副賞をそれまでのイタリア短期研修から韓国での演奏会出演にしました。
韓国人声楽家の世界を舞台にした活躍は日本の声楽界では周知のことですが、前身が声楽専門学校であり、藤原オペラ団と同じ屋台骨の昭和音楽大学にとって、その関心は並大抵ではなかったようです。
日韓の高校生による音楽会開催を考えた大きなきっかけは、一昨年の「高校生のための歌曲コンクール」本選会に特別審査員として韓国から招かれた〞永遠のテナー〟安亨一さんでしょう。
◆テナーに魅了、そうだ韓国へ
コンクール終了後のレセプション会場に安亨一さんが歌う「女心の歌」が流れました。85歳の歌声です。音大声楽科の教授たちは安さんの伸びのある若い歌声に拍手喝采。韓国に心を開いた瞬間でした。
さあ! 韓国に行っての準備です。
韓国の音楽教育関係者、マスコミの事業部関係者、ホール関係者たちは口を揃えて言いました。「コンクールの何よりの賞品は演奏の場」
出演する韓国の高校生は韓国音楽協会主催の国際学生コンクール入賞者3人と、全国に40近くある芸術高校から仙和芸術高校の生徒2人の5人です。会場も決まっていきました。
準備をしながら気づかされたことは、この音楽会の主役は高校生ではなく、これに携わる私たちの意識だということです。「何のための日韓高校生の音楽会なのか」。見えない意識が共鳴し合い、形として今回の音楽会が生まれたのでしょう。
「歌は生きています。歌う人が発する言葉は、分厚くさえぎる壁さえなければどこまででも伝わります。ここで芽生えた若い響きは必ずや『平和』の響きとなってアジアへ、世界へと広がって行くことでしょう」
これがこの音楽会に託した主催者のメッセージです。
6月9日の「高校生のための歌曲コンクール」本選会の特別審査員李建さん(作曲家。ソウル市オペラ団団長)と全起弘さん(バリトン。ソウル市立大教授)の講評は「高校生らしい声と歌で良かった」でした。
日韓の高校生10人は音楽会の最後に東日本大震災支援ソング「花は咲く」を日本と韓国、2つの国の言葉で歌います。人と出会って、歌と出会って、言葉と出会って、ひとつの歌を一緒に歌う。
その響きに包まれることが、会場の誰もの喜びになることを願いながら準備を進めています。
戸田志香(とだゆきこ) 国立音楽大学声楽科卒業。元二期会合唱団団員。1984年度韓国政府招聘留学生として漢陽音大大学院に留学。呉鉉明教授から韓国歌曲を学ぶ。著書「わたしは歌の旅人 ノレ ナグネ」(梨の木舎刊)。
(2013.6.26 民団新聞)