掲載日 : [2006-11-01] 照会数 : 8872
理解と寛容の精神で再団結を 5.17に対する見解
[ 熱心に「見解」を読む地方団長たち(10月30日) ]
5・17事態の清算は急務
北韓の核実験強行によって、韓半島と東北アジアの平和と安定に重大な脅威が発生し、在日同胞の生活もおびやかされかねない状況となりました。日本の北韓に対する追加制裁の実施に続き、今後、国連安全保障理事会の制裁決議の履行に伴って、緊張が高まることが予想されます。民団は在日同胞の生活者団体として、同胞の生命と財産を守る責任があります。在日同胞への悪影響を最小限に食い止めなければなりません。民団はまず、北韓に対する抗議声明を発表し、朝鮮総連に対しても北韓に核放棄を要求するよう促しました。非核化と平和擁護が在日同胞の立場であることを表明したのです。今後はこの立場で広く協調を推進し、日本社会での共生努力をいっそう前進させなければなりません。何よりも、民団の団結強化を急がなければなりません。民団を一時危機に陥れた、さる5月17日の民団・総連共同声明に伴う混乱事態について、その清算が急務であります。
5・17事態そのものは、先の第50回臨時中央大会で終息しました。全国の民団幹部・団員が自発的に展開した民団を救う運動と、一人ひとりの民団正常化を求める署名が、局面を転換させたからです。民団の底力を示した壮挙であり、これが今後の民団再生の力の源泉であります。しかし、5・17事態を清算する組織決定はまだ行われておりません。ここに、5・17事態に対する組織的統一見解を提示し、これを基準に全国の幹部・団員が再び団結を固めるようよびかけます。なお、事態の事実経過と真相については、臨時中央大会で設置が決議された調査委員会の作業と検討に委ねます。
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破綻した政治的謀略 人道・人権には背けない
5・17声明の4つの重大な過ち
1、情勢を考慮しない安易な取り組み
在日同胞全体の同族情愛の回復のために、わが韓国民団と朝鮮総連の中央本部レベルの和解と交流・協力を図ることは、宿願であります。
しかし、いかなる重要事も情勢を考慮して取り組まねばなりません。5・17共同声明が突然発表された当時、情勢は劣悪でありました。
今年3月、日本人拉致幇助の疑いで総連傘下の大阪朝鮮商工会が日本警察の捜索を受け、同元理事長が事情聴取されました。朝鮮総連系機関と人物による拉致幇助の疑惑が一挙に高まったのです。加えて5・17直前には、北韓からの海上麻薬密輸の実行犯として在日同胞と暴力団組長らが逮捕されました。朝鮮総連に対して在日同胞社会は不信を強め、日本世論は険悪となっていたのです。
5・17共同声明は、北韓‐朝鮮総連の黒い疑惑に民団を巻き込む結果となりました。極めて安易で愚かな取り組みであります。
2、在日同胞の主体性と民団の自主性の放棄
民団と総連との交流は、地方では大幅に増えました。しかし、双方中央本部の交流はごくわずかしかありません。
中央本部レベルの交流が実現した最初は、1991年の千葉・世界卓球選手権大会で本国南北が統一チームを構成した際の共同応援であり、これがまた最後であります。その後は、対話の窓口維持に留まりました。本国の事情で成功した以外は、一過性の対話に終わりました。総連に対する北韓当局の指示が厳しいことも判明しました。
その上、難しい条件があります。総連が民団の地方参政権運動に継続して反対していることです。さらに、民団中央本部との対話の前提条件として、2003年以来の「脱北者支援民団センター」の活動中止と、総連系同胞母国訪問団事業の中止を要求してきたことであります。
総連との和解と交流・協力は、在日同胞の主体性と民団の自主性に立脚して取り組まなければなりません。
ところが、民団前執行部は今年4月、「脱北者支援センター」の活動を中止し、同事業に大打撃を与えました。これは人道と人権理念の普遍性を否定したものです。人道と人権は誰にでも適用される理念です。在日同胞と民団はこれを根拠に人権・差別撤廃運動を推進してきました。この理念を適用しない例外をつくるのでは、人権運動は根拠を失います。これはまた、民団が共生理念を掲げ全国で長年にわたり必死の努力で積み重ねてきた地方参政権運動の成果を、一挙に掘り崩すものであります。
まさに、これらが、5・17声明直後から全国の民団幹部・団員が抗議と反対の行動を巻き起こした原因でありました。
さらに、共同声明の最も具体的な合意事項は、わずか1カ月後に迫った光州市での「6・15統一祝典」に駆け込み参加するという異常なものでありました。
5・17声明は、在日同胞と民団の必要性とは縁遠い政治的思惑によるものとみなすほかなく、在日同胞の主体性と民団の自主性を放棄した無責任なものと断定するほかありません。
3、日本人との共生の基盤を大きく損傷
5・17共同声明はまた、北韓による拉致事件に幇助の疑いがある総連に向けた日本国民の怒りと、拉致被害者とその家族の痛みを考慮しませんでした。5・17声明は日本国民の目には、拉致被害者とその家族の人道と人権には顔をそむけたものと映ったのです。
在日同胞は長年にわたって民族差別と闘って相当な改善を達成しましたが、それは多くの心ある日本国民の理解と支持があったからこそ可能でした。在日同胞は今や子々孫々日本に永住し、日本国民との共生を求めています。同じ住民、市民として痛みも喜びも共有できてこそ、共に生きてゆくことができます
5・17声明は、在日同胞が長年の努力で築いてきた日本人との共生の基盤を、大きく傷つけたのです。
4、民団規約の背反と組織破壊
民団は創団以来60年の間、自由と民主主義の理念に立脚して、組織運営における公開と透明性、言論の自由と民主的な組織決定手続、これらの規範としての規約順守の伝統を築きました。
ところが前執行部は5・17事態において、これらの伝統と、なかんずく規約に対して、数々の重大な蹂躙と違反を犯しました。
総連中央本部との対話の進め方や共同声明の文言について中央執行委員会での検討や議決もなく、独断専行で全く秘密のうちに強行しました。重大な規約違反であります。
それに先立つ「6・15宣言実践日本地域委員会」への提議書提出も、明白な規約違反です。同委員会の実質最高責任者が1970年代の民団破壊行為を理由に民団から除名され、その後何らの反省の表明もない事情を無視し、除名解除手続を飛び越えたからであり、同委員会の実体である「韓統連」の前身「韓民統」に対する敵性団体規定解除の手続も省略したからです。
これら数々の規約違反と組織決定手続の違反は、民団の自由と民主主義の理念の否定であり、組織秩序の破壊行為であったと断定せざるを得ません。
なぜ、このような破壊行為が強行されたのか。その事情は、「韓統連」の実質最高責任者が4月27日ソウルで韓国のメディアと行ったインタビューに明白に示されています。
つまり、事前に民団団員の全く知らないところで作られた脚本によって、「6・15統一祝典」への参加を急ぎ、ついで南北と海外の代表団を招き東京で民団・総連・韓統連共催による大々的な8・15祝祭を開催するという日程を強行するためのものだったのであります。5・17事態は、生活者団体である民団を特定の政治的思惑に利用しようとした謀略の産物であります。
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民団の再団結を急ごう
排除より参与を優先 生活者団体の理念基準に
われわれは5・17事態の傷を早急に治癒・克服して、民団の団結回復を急がなければなりません。
5・17事態は、民団に次のような教訓を残しました。
1、日本人との共生に軸足を
まず民団は、従来の基本方針を踏まえた上で、特に、在日同胞と日本人との共生の推進にいっそう強く軸足を置くべきだということです。
5・17事態は軌道を踏み外した暴挙でしたが、半面、このたった1回の暴挙で日本世論が民団までも疑惑視し、営々と築いてきた日本社会における民団の信用が失墜したのです。
民団は創団以来の差別撤廃運動に始まり、在日同胞と日本人が共生する日本社会づくりを進め、地方参政権運動を推進してきました。
ところが、その基盤はまだまだ弱いことが、5・17事態で明らかになりました。民団は、日本人との共生にしっかりと軸足を置かなければなりません。まず失った信用の回復に総力を挙げなければなりません。
2、堅持すべき民主的組織運営
次に、民主的組織運営の伝統が民団の真の力量を蓄積したことを、目の前で確認したことであります。重ねていって、5・17事態の危機から民団を救う力がここから生まれました。今後もこれが民団発展の原動力を生み出す基盤であります。ことに、排除の論理ではなく、参加と包容の論理を優先させて、意見の異なる人とも充分にコミュニケーションを図ってきたことが重要であります。
民団はいっそうこの伝統を守り、発展させなければなりません。
3、生活者団体として 理解と寛容の精神で
さらに、われわれは民団が在日同胞の生活者団体であるとの認識と自覚をいっそう強めなければなりません。5・17事態の傷を治癒・克服する過程においても、民団は政治団体でも特定権益団体でもなく、広く同胞生活者の団体であることを充分に踏まえ、生活者団体の理念と立場を基準として、同胞生活者を一人でも大切にしなければなりません。
組織的過ちは過ちとして明確に処するものの、民団団員全体が本来の調和を取り戻すよう、全国の幹部・団員が力を尽くさねばなりません。
われわれは理解と寛容、そして忍耐の精神を発揮して、ひとこぼれもなく民団の全力量の再団結を図らなければなりません。
こうした再団結を図る上で、在日同胞や韓半島をめぐる情勢、また在日同胞と民団の歴史および民団の役割について、充分な研修と討論を行う必要があります。韓半島の激動が予想され、在日同胞社会にも激動が及ぶ可能性があります。
われわれは、それを乗り越えて在日同胞の生活を守り、在日同胞社会の発展を図り、日本での共生を進展させ、韓半島と東北アジアの平和と安定の確保にも寄与しなければなりません。
(2006.11.1 民団新聞)