掲載日 : [2006-10-04] 照会数 : 5825
読書
[ コバウおじさんを知っていますか ]
[ (左)チャングムを旅する54話、(右)韓くに、風と人の記録 ]
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コバウおじさんを知っていますか 風刺漫画がえぐる韓国史
幼い頃から漫画家になることが夢だった女性が、「漫画を勉強するなら日本へ」という両親の勧めもあり、96年当時、日本で唯一漫画を教えているという京都精華大学に留学した。
大学では新たに漫画専攻の博士課程が設置され、漫画を描くという実技だけでなく、論文も書くことになった。論文のテーマに選んだのが、韓国の東亜日報に45年間4コマ漫画「コバウおじさん」を連載した金星煥である。副題に「新聞マンガにみる韓国現代史」とあるように、漫画を通して激動の現代史を掘り下げていった。
何度も金氏にインタビューを試み、韓国の政治や社会状況を批判、風刺する作風に迫っていった。そこで見えてきたものは…。
一口に45年と言うが、当局の締め付けにもめげずに毎日連載を続けるというのは、至難のわざである。それが可能だったのは、物言えぬ名もない多くの国民の支持があったからこそであろう。
著者も指摘するように、惜しまれるのは、第2の金星煥がいまだ出現していないということ、氏の実績が韓国では研究対象になっていないということだ。
今年3月、著者は本書に収められた論文と風刺漫画で世界初の「漫画博士号」を取得した。それは、初めて金氏研究が世に出たことでもある。
チョン・インキョン著
草の根出版会2400円+税
電話03(3943)9393
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チャングムを旅する54話 背景や文化を丹念に
NHKテレビで現在放映中の韓国時代劇ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」は、中年男性をも巻き込んで絶大な人気を得ているという。韓流が日本の老若男女を飲み込んだという格好だ。
本書は「チャングム」にはまった著者が、京畿道楊州市にある大長今テーマパークや数々のロケ地を実際に訪ね、ドラマの背景にある韓国の歴史や文化を丹念に解説したもの。本書を読めば、単なるミーハーの域を超えて、ちょっとした韓国通になれるかもしれない。
また、著者自身が韓国料理専門のフードジャーナリストというだけに、ドラマで出された豪華な宮中料理を実際に楽しむことができるお店の紹介に加え、出演俳優へのインタビューやドラマのエピソードを盛り込むなど、ファンにはたまらない構成になっている。「在日ならでは」と言える韓国への愛情が、行間からあふれ出ているのも好感が持てる。
全54話のドラマは9月30日放送分で47話を終え、いよいよクライマックスに突入、チャングム親子や師のハン尚宮の仇だった崔一族の命運やいかに、といった展開になっていく。
ドラマを観てから本書を読むか、読んでからドラマを観るか。それともゆかりの地に旅に出るか。そう迷わせてくれる一冊。
高美著
明石書店1600円+税
電話03(5818)1171
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韓くに、風と人の記録 韓国の原風景写した37年
時代を写し撮った写真や映像は、「時代の証言」として後世への貴重な資料となる。本書は1969年から37年にわたり、韓国の原風景を収めた写真の集大成として刊行された。
69年初の韓国取材で訪れた名刹の取材を最後に、「韓くにの旅」は終わるはずだった。だが一人の韓国人美術評論家との出逢いから、「この国を理解したい」という衝動にかられて以来、ほぼ毎年のように韓国を訪れ農村、市場、民俗祭や、在日韓国・朝鮮人集住地区の一つである大阪・猪飼野へと取材対象を広げながら、その地で生きる庶民・風景を収めてきた。
巻頭で紹介されるのは昨年10月、ソウルに復元された清渓川のほとりに憩う人々の姿だ。その屈託のない笑顔や高層ビル群から、韓国の繁栄と人々のゆとりが見て取れる。だが撮影を開始した4年前の65年には韓日条約の調印式が行われ、80年には光州事態が起こるなど、現在の繁栄を勝ち取るまでに激動期をたどった韓国の歴史を、人々の心のなかから忘失させてはならないだろう。
本書は、故人で作家の司馬遼太郎や金達寿、彫刻家の岡本太郎など、各界著名人17人の韓国に関わる貴重な文章を収録した。37年間にわたって韓国の紆余曲折とともに歩んだ著者の眼差しと重ね合わせて、読みたい1冊だ。
藤本巧編・写真
フィルムアート社2500円+税
電話03(3357)0283
(2006.10.4 民団新聞)