掲載日 : [2019-04-17] 照会数 : 8498
置き去り もう一つのハンセン病史…在日3世が掘り起こし
[ 著書を手にする金貴粉さん ]
金貴粉さん 14年の研究成果を著書に
在日同胞3世の金貴粉さん(国立ハンセン病資料館学芸員)が図書出版クレインから『在日朝鮮人とハンセン病』を出版した。在日ハンセン病患者・回復者が生きた証は当事者自身の回想録や研究者らによる聞き書きなどでうかがい知ることはできるものの、トータルな歴史の流れのなかで客観的に検証したのは珍しい。日本のハンセン病史において置き去りにされてきた「もう一つのハンセン病史」といえる。
全国のハンセン病療養所に入所する在日同胞の人数は一般社会よりも割合が高いとされる。かつては全体の1割を占めるところもあったという。
「なぜ、そういう立場に置かれたのか。全体像を示したい」と金さんは各地の療養所を訪れ、在日のハンセン病入所者・回復者からそれぞれのたどってきた道のりと生きざまを聞き取り調査してきた。
面談した対象者は30人以上を数える。患者団体や各療養所が発行したガリ版刷りの機関誌などの記録にも丹念にあたり、それぞれの記憶の隙間を埋めていった。
前半の「ハンセン病対策と朝鮮人」では発病に日本の植民地統治が深く関わっていることを指摘した。構造的な差別のなかで生活に困窮したことが多くの罹患者を生み出したのだ。
個人史ではハンセン病へのいわれなき偏見と国籍が異なることからくる二重の差別に抗って精いっぱい生きようとした4人の個人史を紹介した。このうちの3人はすでに鬼籍に入った。金さんは登場人物の一人、国立多磨全生園で入所者自治会会長も務めた金相権さんの通称名を挙げ「佐川さんが元気なときに見てほしかった」と目を伏せた。
金さんが5年前、在日韓人歴史資料館「土曜セミナー」に講師として招かれ講演したときのこと。講演を聞いていた図書出版クレインを主宰する文弘樹さんが「先人の歴史を残す必要がある」と執筆を勧めた。韓昌祐・哲文化財団から助成を受けられたことも金さんの背中を押した。
金さんは東京学芸大学大学院教育学研究科で美術教育を専攻修了した。専門は「朝鮮半島の書芸史」。たまたま、大学の教育授業で国立多磨全生園を訪れたとき、金相権さんと出会ったことで14年前から国立ハンセン病資料館に勤務し、研究するようになった。
税別2000円。問い合わせは図書出版クレイン(042・228・7780)。
報道機関対象に初セミナー開く…ハンセン病資料館
国立ハンセン病資料館(成田稔館長、東京都東村山市)は12日、東京都内で報道関係者を主な対象とする初のセミナーを開いた。「ハンセン病患者・回復者に対する偏見・差別、排除の解消と名誉回復」という使命を担う同学芸部社会啓発課が企画した。
同館学芸員の金貴粉さんは「入所者が少なくなり病気への関心が薄らいでいくなか、次世代にどう課題を語り継いでいくのか。ここはマスコミの皆さんの力を借りたい」と呼びかけた。
社会啓発課では教員らを対象とした「夏期セミナー」のほか、小中高等学校などの教育機関、人権担当教員・職員研修会などに講師を無料で派遣している。国立ハンセン病資料館(042・396・2909)。
(2019.04.17 民団新聞)