屈辱・苦痛の歴史に学ぶ平和
「丙子の役」と呼ばれる朝鮮王朝史上、最も熾烈だった47日間を描いた黄東赫(ファン・ドンヒョク)監督の歴史大作「天命の城」(配給=ツイン)が6月22日からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開される。同作は、作家金薫のベストセラー歴史小説『南漢山城』を映画化。清の大軍に完全包囲された状況の中、存亡を賭けて論争を闘わす男たちにフォーカスしている。黄監督に同作への思いを聞いた。(インタビュー構成)
政治家にも観てほしい
数年前にこの小説を映画化したいという制作側からのご提案をいただいた時に読んだことで、仁祖や丙子の役についても詳しいことを知ることができました。
1637年1月、仁祖が南漢山城から出て漢江のほとりの三田渡に設置された清軍陣営に出向き、降伏の礼を行わされたのは屈辱の歴史であり、苦痛の歴史であり、悲惨な歴史の瞬間ではあったけれども、この中から学ぶことも多いのではないかと思って映画にしました。
吏曹大臣の崔鳴吉と礼曹大臣の金尚憲は忠実な家臣で、王に対しても国に対してもそうだし、一般の民衆に対する愛も持っていたと思います。
南漢山城に閉じ込められいる状況の中でどんなふうにこの難関を克服していったらいいのかという方法とか考え方は違ったとしても、心の中の理想はしっかり2人とも持っていたし、誠意も志もあったでしょう。ただ進もうとしている道が正反対なだけです。
お互いが本当に取っ組み合いの喧嘩をするんじゃないかってくらいに論争も激しかったのですが、2人とも心の奥底にはお互いを思いやる気持ち、尊敬の気持ち、尊重の気持ちがあったからこそ対立していても、相手のことが分かりあえたと思うので、その部分も描きたかったんです。
少し前までも韓半島では戦争の危機が叫ばれていました。北韓が核ミサイルを開発して日本にもいつ飛んでくるか分からないハラハラした状況があったと思います。
日本も戦争を経験していますので、東アジアの平和が大切だということを改めて考えて、その気持ちを共有してくれたらと思っています。
そして政治家にも観てもらいたいと思いますし、国民にとっていい政治家を選ぶことが本当に大切なことだというのも知ってもらえればと思います。
「天命の城」で描かれていることはすでに事実としてあった事件ですが、戦争を繰り返さないためにもこの映画を作る意義があると考えました。楽しい映画だったら気分良く観られますけど、こういった映画の中にむしろ知らなければいけないこと、知るべきことも含まれていますし、何か教訓になることもあるのではないでしょうか。
戦闘シーンに苦労
撮影過程で物理的にも精神的にも1番大変だったのが、北門の闘いのシーンです。数百人のエキストラにも出てもらわないといけないし、数十頭の馬も火薬も必要でした。難易度の高い撮影が続いていて、しかも長時間撮らなきゃいけないのに馬をコントロールできないという問題もありました。
戦闘シーンは一日の出来事として撮らなければいけなかったのでつながりも大事だったんですが、撮影に10日間もかかってしまったのは、雪が降るのを待って、さらに日が沈むのを待たなければいけなかったからです。北門の闘いのシーンは、今まで撮ってきた映画の中で最もつらい撮影でした。
◆ものがたり◆
1636年(仁祖14年)、清が朝鮮に侵入し「丙子胡乱」が勃発し、王と朝廷は南漢山城に隠れるが、敵軍に完全包囲され、冬の厳しい寒さと飢えが押し寄せる絶対絶命の状況の中、清との和平交渉を突き通す史曹大臣の崔鳴吉(イ・ビョンホン)と大義と名誉を重んじて、徹底抗戦を貫く礼曹大臣の金尚憲(キム・ユンソク)。対立する2人の大臣の意見に王、仁祖(パク・へイル)の葛藤が深まる。抗戦か降伏か。未来のために下した王の決断とは。
(2018.05.30 民団新聞)