掲載日 : [2020-01-29] 照会数 : 8918
韓国伝統の仮面劇、タルチュムの魅力<下>
[ 韓国伝統の仮面劇(写真=韓国文化財庁) ] [ 河回別神クッタルノリ ]
タルチュムは、安東の河回別神クッタルノリ、江原道の江陵別神クッタルノリ、ソウル・京畿一円の松波山ノリ、楊州別山台ノリ、また鳳山タルチュム、康翎タルチュム、殷栗タルチュム等の北韓黄海道の海西タルチュム、洛東江の東側が野遊、西側が五広大等、全国に広く分布している。農村型タルチュムである慶尚北道の「河回別神クッタルノリ」と都市型仮面劇である黄海道の「鳳山タルチュム」について紹介する。
●河回別神クッタルノリ●
高麗時代に形成され、河回村(慶尚北道)に伝わる「河回別神クッタルノリ」は、現存する仮面劇の中で最古のものと言われている。日帝時代の1928年の祭祀を最後に途絶えてしまうが、73年に河回村及び安東市の若者たちがもう一度再生しようと保存会を作り、77年に復活、80年に韓国の重要無形文化財69号に指定された。
河回村には河回タル製作に関連した「許氏伝説」が語り継がれている。昔、河回村に住んでいた許氏が神の啓示を受けてタルを製作していたが、彼を慕う娘が戒律を破ってその光景を覗いたため、許氏は最後のイメタルを完成しないまま血を吐いて死んでしまった。その死に絶望した女性も後を追った。
村人はその魂を慰めるため、花山の中腹に祠(ほこら)を立てて村神として祀り、毎年小正月(陰暦1月15日)に洞祭(村の神に対する祭儀)を行い、10年に一度は別神クッを開いたというものだ。許氏が亡くなった時に作っていたタルは、顎の部分が未完成のイメタルで、そのタルが現在まで受け継がれているという。
河回別神クッタルノリは、花山中腹のソナンダン(城隍堂/村の守り神)から村神を迎える「降神」の儀式から始まり、舞童マダン、チュジマダン、白丁(身分の低い人)マダン、ハルミ(老婆)マダン、破戒僧マダン、両班・ソンビ(学者)マダンの6つのマダンで構成されている。そして最後に村神を元の住まいにお戻しする「送神」で終了する。6つのマダンには、豊作を願う内容や、支配層に対する痛烈な風刺が込められている。
ほとんどのタルは紙で出来ているが、河回タルチュムのタルは、木で出来ているのが特徴だ。
●鳳山タルチュム●
鳳山タルチュムは、19世紀末に現在の北韓の黄海道全域に分布した海西タルチュムの中で、最もよく知られている。踊りが激しく軽快で、ハンサム(両手で持つ長くて白い布)の動きが華麗だ。1967年6月に韓国無形文化財第17号に指定された。
マルトゥギ、センニム(慎ましくて賢い人間をからかう言い方)、ソバンニム(若い旦那)、トリョンニム(坊ちゃま)、チュィバリ(身分の低い酔っ払い)等の仮面をつけ、おどけと笑いを誘発させ現実を風刺する。
その根源は、山台都監劇(高山を舞台にした韓国の伝統的な民俗劇)の系統劇である海西タルチュムであり、鳳山地方は、黄州、平山と共に、南北直路上の主要な市場にあることから、経済的な条件がそろっていた。
鳳山タルチュムは名手たちの優れた演技で名声を上げ、江陵タルチュムと共に、黄海道でのタルノリ(仮面遊び)の最高峰に達した。
鳳山タルチュムは、ササンジャチュム(四上座舞)、パルモクチュン(八墨僧)、サダンチュム(寺党舞)、ノジャンチュム(老丈舞)、サジャチュム(獅子舞)、ヤンバンチュム(両班舞)、ミヤルハルミチュム(ミヤル老婆舞)の7つの科場から構成されており、打楽器を奏でながら公演場まで行列をするキルノリと祭事を行う。
鳳山タルチュムに登場する人物は、全部で36人で、仮面は27個使用される。庶民たちの貧しい生活や、両班や破戒僧に対する風刺、そして、一夫多妻制による男性の横暴も見せてくれる。
ピリ、チョッテ、ヘグム、プク、チャング等で構成された三弦六角で演奏する念仏と、タリョン、クッコリに合わせて踊る踊りが主で、他の仮面劇に比べ、漢詩の引用と模倣が多いのが特徴だ。
使用する仮面は、粘土で作った型の上に濡らした韓紙を貼っては乾かし、貼っては乾かす作業を繰り返し、乾いたら染料で顔を描く。
鳳山タルチュムは、一時壊滅の危機に瀕していたが、伝承者である故金辰玉氏と、故李杜鉉元ソウル大名誉教授らにより再生され、1958年に鳳山タルチュム保存会を結成した。
本来の発祥地である北韓にも鳳山タルチュムは残ってはいるものの、まるで大人数で行うマスゲームのようになっており、お世辞にもタルチュムとは言えない。
タルチュムは、高麗時代からはじまり、朝鮮時代には大衆娯楽として庶民から絶大な支持を受け発展を遂げ韓国全土に分布してきたが、日帝時代にその殆どが壊滅状態にまで追い詰められた。
しかし解放後、次々と再生され、1970年代から80年代には「ウリコッ(私たちの物)」を普及させる動きの中で、大きなブームを巻き起こした。現在は13のタルチュムが無形文化財に指定され韓国を代表する伝統大衆芸能として様々なイベントで演じられている。昨年12月、文化財委員会が、2022年にユネスコの無形文化財への登録候補として「タルチュム」を選定した。
(2020.01.29 民団新聞)