掲載日 : [2018-06-27] 照会数 : 7912
時のかがみ…「釜山の味 ミルミョン」桃井のりこ(編集者・プロデューサー)
[ (鈴木圭撮影) ]
夏はおいしさ倍増!二日酔いの妙薬?
春の南北首脳会談で一躍有名になった「平壌冷麺」。朝鮮半島で冷麺の本場といえば、平壌と咸鏡南道咸興で、韓国の冷麺専門店では、店名やメニューに咸興冷麺の文字を掲げるところも多い。
私が活動の拠点としている釜山には、冷麺に似た食べ物で「ミルミョン」がある。これは釜山人のソウルフードで、冷麺との違いは麺にある。冷麺はそば粉、サツマイモやジャガイモなどが主原料だが、ミルミョンは小麦粉を主原料に麺が作られている。ちなみに「テジクッパ」も釜山人のソウルフードで、豚骨をじっくり煮込み、味も匂いも濃厚なスープは、まさにクセになるおいしさ。どちらも庶民的なメニューだ。
このミルミョン。朝鮮戦争時、食糧不足にあえぐ釜山で、避難民が救援物資の小麦粉を代用し、麺を作ったのが始まりといわれる。弾力性がある冷麺と違い、そうめんのようなやわらかな麺が特徴。また、小麦粉の匂いを抑えるために、ヤンニョムも多めに入れるのだとか。それが釜山の味として、現在に続いている。 さて、釜山の人にミルミョンについて聞いてみた。「やっぱり、二日酔いの朝に食べるのが最高!」という男性たちの声が圧倒的に多かった。韓国では二日酔いの朝、ヘジャン(解酲、解腸)のため、ヘジャンクッと呼ばれるスープ系の料理を食べるが、釜山ではへジャンにミルミョンも一役買っている。
「ミルミョンを食べていると、子供の頃、夏に父親とおいしく食べていたことを思い出す」という友人の言葉には、家族でスイカを食べながら夕涼みする日本の夏のような、ほのぼのとした懐かしさを感じる。また、釜山で飲食店を数軒経営する知人は「ミルミョンは麺よりもスープが重要。なぜならば、麺自体はシンプルだから。コクの中に甘みを感じ、最後に爽涼感があるスープが好きだ」と力説する。ミルミョン専門店の多くは冷麺専門店同様に自家製麺を誇っているが、やはり要は麺よりもスープなのか。ミルミョンと出てくるユクス(肉水)をシメに飲むが、これがおいしいと満足度が倍増するので、スープ重要論も軽視はできない。
「ムルミルミョンを食べればビビンミルミョンが食べたくて、ビビンミルミョンを食べれば、ムルミルミョンが食べたくなる。結局、どちらも好きだから」と話す知人からは、生粋の釜山人の郷土愛を感じる。
私はといえば、ひどい二日酔いの朝、最寄りのミルミョン専門店に駆け込むこともある。また、かんたんに一人で食事をすませたいとき、さらりと味わうのも好きだ。気温が上がり始め、暑さを感じたとき「今年初のミルミョン!」といって一杯。酢をたっぷりかけたスープに喉ごしがよい麺を絡めて口にする。とたんに爽やかさが広がる。
「あ~シオナダ」とひと言。韓国の人がよく使うシオナダ(すっきり、涼しい、冷たいの意)を体感し、私も釜山人になった気になるのである。
ももい のりこ
編集者・プロデューサー。2008年より勝手に釜山PR大使として活動。2010年、釜山市より表彰を受ける。日本人観光客向けフリーマガジン「釜山びより」「大邱びより」発行人。編著に『食楽美磨 釜山の旅』(日本出版社)ほか、『わがまま歩き釜山』(実業之日本社)などを担当編集。初渡韓は1993年、現在は年間約25回、渡韓を継続中。
(2018.06.27 民団新聞)