掲載日 : [2020-02-27] 照会数 : 7824
時のかがみ「 BTS世界を席巻」 桑畑 優香(ライター・翻訳家)
[ 「BTS会議」の参加者たち ]
「新しい文化の誕生」
英国の研究会で実感
K‐POPの現場を取材する中で、不思議だったことがある。今年1月、アメリカで開催されたグラミー賞のステージで、韓国アーティストとして初めてパフォーマンスを披露し、昨年は全世界で206万人を動員したツアーを成功させたBTS。なぜ人々はアジアの、韓国のボーイバンドに熱狂するのだろうか。
各国のファンに会うべく、年明けイギリスに飛んだ。1月4日から2日間、ロンドンのキングストン大学で開かれた「BTS会議」に参加するためだ。BTSのファンを自称する映画・メディア学部教授のコレット・バルメイン教授が企画した学術会議で、大学教授や学部生など、140人以上がスピーカーとして登壇。ほとんどが女性で、男性は数人だけだった。
「ブランドを売るということ」「パフォーマンスとファンダム」「癒しとしての音楽」など、発表の切り口は様々。興味深かったのは、参加者の多くが本来の専門とは異なる分野とBTSを結び付けていたことだ。
例えば、アメリカから参加したアンドレアさんは、カリフォルニア大学の大学院で英文学を専攻している。19世紀後半の「文学における耽美主義」を研究する彼女がBTSに注目したきっかけは、ヘルマン・ヘッセの小説「デミアン」をモチーフにしたミュージックビデオを見たこと。会議では、「デジタル社会に形成されたファン文化」についての自主研究を発表した。
また、メキシコのサカテカス自治大学の学部生、リナさんとセレーネさんのテーマは、「男らしさとの決別」。「男性はマッチョなイメージが正しいとされるメキシコとは対照的な、化粧をしたキュートな男性に衝撃を受けた」と語った。
約30カ国からの参加者の中には、セルビア在住の人もいた。首都ベオグラードにある大学で音楽理論を教えるヴィオレッタさんによると、2年ぐらい前から若者の一部でBTSが流行りはじめ、ダンスパーティーなどで曲をかけているそうだ。きっかけは、YouTube。驚いたことに、現地のBTSファンの多くは、日本のアニメが好きな層だという。「アニメの歌をネットで聞くうちに『おすすめ機能』でK‐POPをクリックしてファンになる」という流れだ。
1990年代のユーゴ紛争の印象が残るセルビアだが、10年ぐらい前から生活が落ち着き、若者がサブカルチャーを楽しむ土壌と余裕が生まれた。はるか遠い東欧で、韓国と日本の文化が溶け合い、東洋文化に関心を持つ若者たちが育っていると聞き、私は希望を感じた。
会議で気づいたのは、BTSには世界の人を魅了する多角的な魅力があることのみならず、大衆文化には可能性があること。カルチャーは、時に制作者やメディアといった送り手の意図とは異なるところで発展し、新しい文化を創り出す。それは、時に政治や経済を越え、意外な形で実を結ぶ。そんな化学反応を、これからも見つめ、発信していきたいと思っている。
お知らせ 「時のかがみ」は4月8日号で終了します。
桑畑優香さんの「時のかがみ」は今回で終わります。
(2020.02.26 民団新聞)