「緊急事態宣言」下、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、巣ごもり生活を余儀なくされている人たちが、営業を続けたり再開したりするパチンコ店や飲食店に嫌がらせや中傷する事例が目立った。「自分は自粛要請に従って苦しい生活をしているのに、抜け駆けが許せない」とばかり、処罰感情から私的制限を求めるというもの。こうした排外的な風潮は戦時下の「隣組」を想起させ、危険極まりない。3人の同胞有識者はどう見るのか。意見を寄せていただいた。
魔女狩り生む憎悪の連鎖
光州市立美術館名誉館長 河 政 雄
病はただ「存在するだけ」であるというのに、人類はその「存在するだけ」のコロナウイルスに一方的に脅かされ、試される形になっている。コロナは人間の尊厳とは、人生とはと、災禍の中に生きる人類に警鐘を鳴らし、3省(自省、内省、反省)を促し、何かを学ばせようとしているのだろうか。台本のないウイルスの不条理と戦う人生とも言える。
‐ヘイトスピーチ‐
日本では潜在的に在日韓国・朝鮮人に向け、繰り返されるヘイトスピーチ。人をおとしめ、侮蔑する言動をはばからず、確信的差別を楽しむ一定数の言動が日常攻撃をして来る。
差別や偏見はネットや雑誌、テレビ、SNSに広がり、言いたい放題の風潮である。憎悪の言動が広がっている日常に身が縮む思いである。
普通の人々の正義感に訴え「不当な要求をする連中(在日韓国・朝鮮人の事)」と、誰が発言しているのか見えぬ世論の作為を以てイメージを造成した影が迫って来る。
作為された世論は容易に敵味方の彼我を変え、「敵」という認定に転ずることがままある。1%にも満たぬ、極端な意見でも、その極端さゆえに存在感があるから無視出来ない。
極端な主張、スキャンダル、ゴシップの記事を以てセンセーションを巻き起こし、一時的な熱狂を以て差別し、恣意的排外主義を煽る。それらが大数を占める様に見えてしまうのは恐ろしい。
‐デマ・魔女狩り‐
関東大震災の有事、デマや流言飛語による朝鮮人犠牲者は数千名とも言われている。デマの性質について、「社会という生体の健康が一番その抵抗力を失っている時に爆発する」とオルポート・ポストマン著「デマの心理学」で学んだ。デマが広がる条件は、その事柄が人々にとって如何に重要であるか、そして世に出ている公式情報の根拠がない曖昧であるという2つの条件の掛け算で決まるという。情報がまったくなかったり、あっても不完全あればフェイクニュースやデマ、流言飛語の燃料となる。
世界的なコロナ拡散によるパンデミック「都市封鎖」は完全にこの2つの条件を満たしている。パンデミックになっていかがわしい噂や奇妙で不確かな情報のフェイクニュースが流れて来る。
SNSによる一つの噂話が街角で火が点くと、本質が判らない人は、そのデマを信じた炎に転じる。炎に焙られ、人は理性を失い、自嘲的被害者として加害者となっていく。
デマを拡散させる策略や目的にはウイルス=理不尽の意趣返しを受ける。ウイルスの鎮静後に、その罪は深刻な憎悪と嫌悪、分裂と差別となって恐ろしい社会現象となって表出する。この世にそもそも魔女など存在はしない。理性を重要視すれば魔女狩りなど成立し得ない。魔女狩りは理由などない理不尽な行いを匿名で隠れて行う仮面、仮想ゲームである。
人々は気に入らないと、自分の好みと勝手で批難、誹謗中傷し、社会的風評を増殖させて世論を煽り立て貶める。ウイルスは老若男女、善人や悪人も等しく伝染し平等であると言える点、差別がないのは皮肉である。
歴史は繰り返されるという。今世のコロナ終息後には様々な形で、無意味で無慈悲な魔女狩りが行われるのではないかと危惧する。共生するしかないウイルスは形を変えて第2、第3波と襲って来るだろう。連帯し、最善を尽くす試練に術あり、の日々である。
(2020.05.27 民団新聞)