掲載日 : [2020-07-15] 照会数 : 8817
<寄稿>韓国戦争から70年…朝鮮学校歴史教科書の記述を斬る<下>
[ 『知っていますか、朝鮮学校』(岩波ブックレット) ] [ 「朝鮮新報」2020年2月28日付 ]
韓国「進歩派」人士のトンデモ発言
誤った歴史刷り込む
朝総連の「民族教育」の頂点にある朝鮮大学校の朴三石教授は、『知っていますか、朝鮮学校』(岩波ブックレット、2012年)で朝鮮学校の朝鮮歴史教科書の特徴として、「日本にありながらも朝鮮半島の北と南、海外にいる朝鮮民族が読んでも理解できる『民族統一教科書』を目指して記述されていることである」「朝鮮学校の『民族統一教科書』を目指した記述は、南北の和解と民族統一へ向けた歴史認識の基礎と土台を固めていくことに貢献する可能性をもった教科書なのである」などと説明していた。
だが、当時も現在も、そのような教科書でないことは、現物を読んでみるならば明らかだ。朝鮮高級学校の教科書「現代朝鮮歴史高級1」、「現代朝鮮歴史高級2」、「現代朝鮮歴史高級3」の全訳日本語本(「星への歩み出版」発行)参照。
たとえば、「現代朝鮮歴史高級1」(1945年8月~53年7月)では、45年8月の北韓地域の解放がソ連の軍事力によってなされ、軍政が行われたこと、金日成はソ連(スターリン)のお眼鏡にかない指導者となったことなどを隠し、金日成が日本軍を降伏させ祖国を解放・凱旋したかのように教えている。そして、これまで見てきたように「朝鮮戦争」に関する責任転嫁と金日成神格化のための歴史歪曲とねつ造が行われている。
「高級2」(53年8月~80年)では、68年1月23日の元山沖での「米軍情報収集艦プエブロ号拿捕」を写真まで掲載して教えているが、その2日前の1月21日の「青瓦台襲撃ゲリラ事件」(北韓が朴正煕大統領暗殺のために特殊軍部隊31人を遊撃隊に仕立てて南派。大統領官邸・青瓦台の裏にある北漢山の麓の道まで侵入したところ、検問を受けて銃撃戦となった。2日間にわたる戦闘の結果、27人が死亡、1人が逮捕され、3人が逃走した。韓国側は民間人を含め68人が死亡、66人が負傷した)には頬かぶりを決めている。
事件当時、北韓は「南朝鮮武装人員の英雄的で愛国的革命闘争」だと主張していた。北韓は、この年の11月には韓国東海岸の蔚珍郡と三陟郡地域に120人をこえる武装ゲリラを浸透させ、活動拠点を設けようとして失敗(2人の捕虜を残し全滅)。この時も「南朝鮮武装遊撃隊の愛国的決起」だと喧伝し、ゲリラ隊員の遺体を引き取らなかった。
「高級3」(80年~2002年)では、金日成・金正日親子が83年10月にビルマを訪問中の全斗煥大統領を狙って決行したラングーン爆弾テロ事件(閣僚4人を含む韓国高官17人死亡、ビルマ人4人死亡・47人負傷)への言及はない。当時ビルマ政府は犯人として北韓軍人2人を逮捕。ビルマは北韓に抗議し外交関係を断絶した。
だが、北韓は、いまだに同事件を全斗煥大統領の自作自演だと強弁している。そして、「88年ソウル・オリンピック」妨害のために実行した、「朝鮮戦争」休戦以後最大の対南テロであり同胞虐殺事件である87年11月の大韓航空機爆破事件(乗客・乗員115人全員死亡)については「南朝鮮旅客機失踪事件」と称し、「南朝鮮当局」による「でっち上げ」で、「大々的な『反共和国』騒動を繰り広げた」などと記述し、まったく恥じるところがない。
金日成絶対化と金日成王朝体制無条件擁護のために、歴史を都合よく改ざんし嘘で塗り固めた朝鮮学校歴史教科書は、在日同胞にとってはもとより、南北の相互理解・融和を通じた民主・先進化統一推進にとっても百害無益であり、速やかに破棄されなければならない。民主体制と真逆な全体主義体制(金日成王朝)への無条件擁護・支持を促す教育に対しては、その廃止を求めこそすれ、礼賛して支えるようなことがあってはならない。
機関紙を通じて喧伝
朝総連の機関紙「朝鮮新報」(2月19日付)は「民族教育は真の統一教育/南地域教員たちが見たウリハッキョ」との大きな見出しで、2月6日から9日に日本を訪問し、関東の朝鮮学校を訪れた韓国の「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会第14回訪問団」の話を紹介した。その中でソウルの小学校教員の「子どもたちに自分たちがわが民族の一員であることを教えてあげる朝鮮学校の教育こそ真の統一教育だ」という言葉を伝えた。また3月4日付では「取材ノート」欄で「朝鮮学校の先生たちは、統一について堂々と教えていました。そして子どもたちも胸を張って学んでいました。統一祖国の主人公になると、思い切り歌っていました。本当にうらやましいです」との第14回訪問団の「とある南の教師の話」を紹介している。
「朝鮮新報」は、これまでも「ウリハッキョは、在日だけの宝物ではなく、南と北の宝物であり、世界の平和を愛する多くの人々の大切な宝物」(映画監督)、「民族の国宝1号は朝鮮学校だ」(6・15共同宣言実践南側委員会常任代表)などと、朝鮮学校を訪問した韓国の「進歩・統一運動」団体幹部・人士らの言葉を引用・紹介してきた。こうした人々は、朝総連の「民族教育」が北韓世襲独裁の指導のもとに進められている「金日成民族教育」であることを承知の上で、絶賛し、継続支援を呼びかけているのだろうか。
朝総連は、北韓を「南北すべての人民の総意によって建設された唯一正当な主権国家、唯一の祖国」と定め、「すべての同胞を『共和国』のまわりに総結集させる」ことを使命としている。朝総連の強調する「自主統一」とは「金日成王朝下統一」にほかならない。朝総連中央の許宗萬議長は、2018年5月の朝総連第24回全体大会(4年に1回開催)でも、「金正恩様を全同胞(民族)の希望の中心」として「天地の果てまで戴き仕え」「敬愛する元帥様(金正恩)だけを信じて従う」ことを呼びかけている。
許宗萬議長は、最近も「われわれ在日同胞は、祖国人民たちとまったく同じ金日成民族の一員だ」とあらためて表明している(5月24日付朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に掲載された許議長の長文「総連結成65周年 絶世の偉人たちと結んだ血縁の情は総連の永遠な生命線です」=5月29日付「朝鮮新報」)。また、南昇祐総連中央副議長は、6月10日発表の「談話」で「たとえ異国の地に暮らしても共和国の最高尊厳と体制を中傷冒涜する者たちを絶対に容赦しないというのが、白頭山偉人たちを民族の親として高く奉り、愛族愛国一筋に歩んできた総連の働き手と同胞たちの変わらない意志だ」と強調している。
ちなみに、北韓において憲法よりも上位にある「朝鮮労働党規約」はその「序文」で「当面の目的は共和国北半部で社会主義強盛大国を建設し、全国的な範囲で民族解放、民主主義革命を遂行するところにあり、最終的には全社会を主体思想(金日成・金正日主義)化するところにある」と明記。「南朝鮮で米帝の侵略武力を追い出し、あらゆる外部勢力の支配と干渉を終わらせ、(略)わが民族同士で力を合わせ、自主、平和統一、民族大団結の原則で祖国を統一し、国と民族の統一的発展を成し遂げるために闘争する」と、「南朝鮮解放=吸収統一」すなわち「金日成王朝下統一」の推進・実現をうたっている。
金正恩委員長は、2018年の文在寅大統領との南北首脳会談後も、このような対南統一路線を転換することなく堅持している。
絶賛「真の統一教育」
朝総連の推進している「金日成民族教育」を「在日同胞の望んでいる真の民族教育」であり、「南北の架け橋となり統一推進にも寄与しうる」「真の統一教育」などと、本当に信じて称賛しているのだろうか。そうであれば、その理由・根拠をぜひ聞きたい。そもそも、きたるべき「南北統一国家」の姿をどのように描いているのか、知りたい。
なお、「朝鮮新報」2月28日付日本語面トップ「朝鮮学校は日本の宝」によると、2月20日に群馬朝鮮初中級学校で行われた第21回日朝教育シンポジウムで藤野正和・日本朝鮮学術教育交流協会会長は、全体会あいさつで「日本に朝鮮学校が存在することは日本の宝。そのことをもっと広範な日本の人たちに訴えていかなければならない」と呼びかけた。
そして田中宏・一橋大学名誉教授は「民族教育を考える ー朝鮮学校は在日の宝、日本の宝ー」をテーマに講演した。
同シンポは日本教職員組合、在日本朝鮮人教職員同盟、日本朝鮮学術教育交流協会、現地実行委員会が共催した。
朴容正(元民団新聞編集委員)
(2020.07.15 民団新聞)