掲載日 : [2020-01-16] 照会数 : 6098
時のかがみ「釜山で初詣」桃井のりこ(編集者・プロデューサー)
[ 海沿いに境内が広がる海東龍宮寺(鈴木圭撮影) ]
歴史と伝説の名刹に今年の目標を誓う
韓国では現在も旧暦で正月を祝う「ソルラル」が根付いているため、1月1日の新年から旧正月まで、新年モードが漂っている。それに加え、年末から新年の挨拶のメッセージを送り合うので、かなりの期間、新年の雰囲気を楽しんでいるように見える。また、クリスマスの装飾を11月から1月まで設置しているところも多い。そこに、雛人形を翌日すぐに片付ける日本との違いを見て、おもしろさを感じている。
私が毎年、釜山で初詣するのが、海雲台区に隣接する機張郡にある「海東龍宮寺」だ。ここは韓国3大観音聖地のひとつで、高麗王の師だった懶翁大師によって、1376年創建されたもの。境内が海沿いに広がり、大雄殿の背後に山、目の前に青い海が波打っているのが特徴だ。そのロケーションから日の出の地としても知られ、元日と旧正月の早朝には、初日の出を目的に訪れる参拝者でにぎわいをみせる。
ここは「心から祈ると、願いごとが必ずひとつ叶う」という霊験あらたかな寺院としても有名だ。そのため、地元の人たちは折にふれ、家族の幸せを願いに訪れる。私自身も悩みごとがあると、1人で足を運ぶ。とくに朝の参拝は、新鮮な空気と潮風が清々しく、気持ちよい1日の始まりとなる。
境内には海水観音大仏、薬師如来仏、四獅子三層石塔など、それぞれに意味を持つ見どころがあるほか、記念品や特産品を並べる門前町もにぎやかだ。海の街釜山らしい海の寺院は、観光客を惹きつける魅力にあふれている。
さて、海といえば山。市内で一番高い金井山(標高802m)の中腹にも、釜山が誇る名刹「梵魚寺」がある。ここは678年、海東華厳宗の祖の義湘大師によって創建された、曹渓宗の寺院。海印寺、通度寺と並ぶ韓国五大寺院のひとつである。
釜山最古の木造建造物といわれる大雄殿、4つの石を台座にした一柱門、新羅の仏教芸術を伝える三層石塔などは、国の重要文化財に指定されている。
荘厳な存在感を持つ大雄殿を参拝し、凛とした空気の境内を歩いていると、どこか背筋が伸びる気持ちになる。
金井山の山頂近くに、神秘の井戸「金泉」がある。その昔、この井戸は枯れることなく金色の水をたたえ、そこに天から5色の雲に乗った金色の魚が降りてきて遊んだという。その言い伝えが、梵魚寺の名の由来なのだとか。私はこの伝説を持つ井戸が好きで、金泉に到達するコースを何度か登山している。
2020年を迎え、私も新たな気持ちで1年の目標を掲げている。昨年は諸事情から例年の半分しか渡韓できなかった。不完全燃焼的な部分もあるが、おかげで、今後、どのように釜山、韓国と関わっていくべきか、見えてきたようだ。
近いうちに海東龍宮寺に参拝し、目標達成を願ってこよう。そして、私も旧正月までは「セヘ ボン マニ パドゥセヨ」の挨拶を楽しむつもりだ。
(2020.01.15 民団新聞)