掲載日 : [2020-09-09] 照会数 : 6075
<寄稿>沈黙する韓国の「統一運動団体」に問う(下)
[ 東京での「6・15共同宣言発表20周年記念共同討論会」をハングル面および日本語面トップで報道した6月26日付「朝鮮新報」 ]
[ ハングル面の見出し(上)は「民族自主の旗掲げ反統一策動を排撃」だが、日本語面の見出しは「局面打開の方途を考察」に変えている ]
反動的「統一論」無批判・同調はなぜ
寄稿 朴 容 正(元民団新聞編集委員)
北側と積極共同歩調
現代国際社会において民族の名称を、特定の人物の名前をもって呼んでいる国家はない。稀代の独裁者スターリンも、ロシア民族を「スターリン民族」と呼ばせるようなことはしなかった。ちなみに、民族の解放・独立・統一を成し遂げたベトナムにおいて、建国の父、国民の父として親しまれる指導者、ホー・チ・ミン(胡志明)にちなんで「ホー・チ・ミン民族」と宣言するようなことはしていない。
それにもかかわらず、韓国の「進歩・統一運動団体」は、「わが民族」について、北側が「金日成民族」だと宣言し、主張し続けていることに対して、これまで一度も異議を唱えることなく、許容している。ばかりか、北側の反動的な「金日成王朝下統一論」に対しても批判することなく、北側と「6・15共同宣言実践」の名のもとに常設的な運動体を構成、「統一推進への参与・結集」を内外同胞に促す共同宣言などを発表してきた。
6・15共同宣言実践南側委員会は、6・15共同宣言実践北側委員会、同海外側委員会とともに2005年12月に常設的な「6・15共同宣言実践民族共同委員会」(6・15実践共同委)を構成している。「6・15実践共同委」は「6・15南北共同宣言を実践して民族の和解と団結、平和と統一を成し遂げることを使命とする全民族的な統一運動連帯組織であり、統一運動の先鋒組織」だとし、同共同委への南・北・海外同胞の結集を呼びかけている。
北側委員会は、もともと北韓当局を忠実に代弁する官製組織だ。そして海外側委員会の中心をなす「日本地域委員会」は、朝総連と、その別働隊である韓統連(在日韓国民主統一連合)によって運営されている。日本地域委員会の議長は孫亨根韓統連議長で、副議長は総連中央の徐忠彦国際統一局長ら。孫亨根議長は海外側委員会の委員長となっている。つまり、海外側委員会もまた、北韓当局の忠実な代弁組織にほかならない。
南側委員会は、「6・15宣言発表7周年記念民族統一大祝典」(平壌、07年)では、「総連に対する支持と声援は民族統一運動の重要課題のひとつ」との認識で一致(「朝鮮新報」07年6月27日)。「金日成王朝による南地域解放統一」の実現のための闘いの先頭に立つことを公言している朝総連の大会・関連行事などに連帯の祝電を送ってきた。
これまで来日した南側委員会の常任代表らは、「金日成民族教育」が実施されている朝鮮学校について「民族の国宝1号は朝鮮学校だ」などと称賛している。そして、日本地域委員会など主催の講演・討論会などで、「韓半島の緊張を高めているのは常に米国だ」と主張。北韓の核・ミサイル開発・実験を擁護するとともに、韓国の民主化推進の継続必要性を強調しながら、「北の民主化」の必要性には一言も発していない。
「朝総連」擁護の意味
さる6月20日に東京で開かれた6・15共同宣言発表20周年記念共同討論会(主催=日本地域委員会)には南側委員会の常任代表2人(金敬敏韓国YMCA全国連盟事務総長と韓忠穆韓国進歩連帯常任代表)が報告者としてオンライン参加した。孫亨根海外側委員長があいさつで「今こそ全民族の挙族的な反米自主化闘争が切に求められている」と力説。韓忠穆常任代表も「民族自主、統一を実現するために、南北宣言履行を妨げている米国と分断積弊勢力を反対・排撃し、文在寅政府が南北宣言の当事者として合意履行に積極的になることを促すと同時に南、北、海外の各界各層の連帯連合運動を強力に推進することによって自主統一運動の力量を強化することが何よりも重要」だと強調した(6月26日付「朝鮮新報」)。
朝鮮労働党の指導下にある朝総連の唱える「自主統一」は「金日成王朝下統一」を最終目標としている。「わが民族」を「金日成民族」と呼び、金日成・金正日・金正恩を「民族の最高尊厳」と強調してやまない朝総連への「支持・声援」が、どうして「民族統一運動の重要課題」になるのか。南側委員会は、金日成王朝の存続を最優先課題とする北韓独裁政権の「民族・統一」論を容認しているとみなされてもやむをえないだろう。そうでないのであれば、これ以上沈黙せず積極的・明示的に態度を表明してしかるべきだ。
在日同胞は民団、朝総連系を問わず、韓半島の平和確保と南北の対話・交流・協力・発展を通じての民主的統一を願っている。在日同胞が切望する祖国の統一は、これ以上先送りにできないわが民族最大の人道・人権問題である南北離散家族問題の解決に尽力し、南北の自由往来を漸次実現・拡大、「南北社会の等質化」(経済発展と平和・民主・人権・法治などの価値観共有)を推進するものである。「民主的先進国家への発展的統一」であり、朝総連が使命としている反動的な「金日成王朝の南地域への拡延統一」ではない。平和・民主統一の実現には、非核化を通じた南北間平和体制の制度化に加えて、北韓自身の改革・開放を通じた経済の再建・発展と民主化推進が不可欠である。
南側委員会が、韓国内の真に自立した進歩・統一運動団体であるならば、わが民族、同胞、国民を愚弄してやまぬ北側の「金日成民族」主張、および民主的先進化統一とは真逆の「金日成王朝下統一路線」に対して真っ先に反対を表明し、その撤回を北側に対して強く要求してしかるべきである。だが、これまでに撤回を促したとの発表も報道もない。
速やかな応答を期待
なぜ、南北融和・民族団結・統一推進の大きな障害となる北側の「金日成民族」宣言・主張に反対せず、その即時撤回を求めないのか。そして北韓の朝鮮労働党規約や憲法などに明示されている「南地域解放・吸収統一論」、つまり「金日成王朝下統一論」に反対せず沈黙しているのか。周知のように北韓同胞は、「最高尊厳」への無条件絶対忠誠・奉仕を強要する全体主義・世襲独裁体制のもと世界最悪の人権状況にある。いまだに南北離散家族の自由な再会はもとより書信の交換すらできない。韓国の民主化推進・拡大を主張する南側委員会が、北側に対して人権状況の即刻改善をはじめ民主化を促さないのはなぜか。
韓国の「民間統一運動団体の結集体」は、南北統一に関連したこのような基本・根本的問題に関する疑問について、これ以上沈黙することなく、全同胞に対して早急かつ誠実にきちんと説明すべきである。
なお、北韓政権は「金日成民族」宣言・主張を撤回することなく、「6・15共同宣言」「10・4首脳宣言」(07年、盧武鉉・金正日「南北関係発展と平和繁栄に向けた宣言」)、「板門店宣言」など、これまでの南北首脳会談で発表された合意の「誠実な履行」を韓国政府に一方的に要求している。
これに対して韓国政府は、南北首脳宣言の基本精神に反するものとして「金日成民族」主張の中止なり撤回を求めてきたのだろうか。要求してきたならば、その結果を、返答の有無を含めて知りたい。要求していないならば、その理由を知りたい。
南北の対話・交流・協力を通じた平和的・民主的統一を挙族的に推進するうえで譲れるものと、絶対に譲ってはならないものがあるはずだ。韓国の主要政党にも説明を求めたい。なぜ、これまで北側に対して、明示的・積極的に「金日成民族」主張の中止なり撤回を促してこなかったのか。
(2020.09.09 民団新聞)