2021年の夏を熱くした東京五輪。連日のメダルラッシュが続いた日本では大いに沸いたが、韓国も数多くのメダルを手にした夏だった。目標としていた金7個以上、総合10位以内には届かなかったが、これまで韓国の「不毛地帯」といわれた競技や「Z世代」といわれる新世代たちが大健闘を見せるなど、「メダル以上の感動をもらった」と賞賛された。そんな、未来への希望を見せた韓国選手たちの活躍ぶりをふり返ってみたい。
(スポーツライター 慎武宏)
アーチェリー、金4個…フェンシング男子金、女子銀
(写真:アーチェリー女子団体で優勝し金メダルを手にした左から安山、張珉喜、姜彩栄)
最初に口火を切ったのは、アーチェリーだ。多くのメダルをもたらし国に孝行するという意味を込めて「孝子(ヒョジャ)種目」と呼ばれ続けてきたアーチェリーは、東京五輪から採用された男女混合団体、女子団体、男子団体、女子個人と合計4つの金メダルを獲得。東京五輪でも「孝子種目」の代表格であることを証明した。
(写真:アーチェリー団体戦で一投ごとに雄たけびをあげる金済徳)
アーチェリーと同じ「孝子種目」のひとつとされるフェンシングも大健闘。個人は男子サーブルの金政煥(キム・ジョンファン)が獲得した銅メダルだけに留まったが、団体では男子サーブルで金、女子エペで銀、男子エペと女子サブールで銅と、合計5つのメダルを獲得した。
(写真:フェンシング男子サーブル団体で金メダル=左とフェンシング女子はエペ団体で銀メダル=右)
在日の星、安昌林「銅」 呂書晶、初の親子メダリスト
体操では申在煥(シン・ジェファン)が男子跳馬で金メダル、呂書晶(ヨ・ソジョン)が女子跳馬で銅メダルを獲得。
父の呂洪哲(ヨ・ホンチョル)も1996年アトランタ五輪・男子跳馬の銀メダリストである呂書晶は、韓国女子体操選手初のメダリストにして韓国初の親子メダリストにもなっている。
(写真:左=柔道男子73キロ級で銅メダルを獲得、祝福される安昌林/右=体操男子跳馬金の申在煥(左)と女子跳馬銅の呂書晶)
また、安昌林(アン・チャンリム)も男子柔道73キロ級で銅メダルを獲得。在日韓国人3世ながら単身で韓国に飛び込み、前回リオデジャネイロ大会に続いて韓国代表として五輪の畳の上に立った安にとっては悲願のメダルであり、その快挙に韓国、日本、在日同胞社会が沸いた。
さらにバドミントン女子ダブルスでは金昭映(キム・ソヨン)&孔煕容(コン・ヒヨン)組が銅メダルを獲得。大会最終日には全雄太(チョン・ウンテ)が近代5種で韓国初の銅メダルを獲得して有終の美を飾っている。
(写真:近代5種で韓国初の銅メダルを獲得した全雄太)
最終的に韓国が東京五輪で手にしたメダルは金6、銀4、銅10の総合順位16位。新型コロナ感染症も影響で大会が1年延期されたことで、様々な変更を強いられ、その期間に国際大会で研鑽を積むことはもちろん、日々のトレーニングにも支障があったことを踏まえれば健闘したと言える。
ただ、悪条件下での五輪は他国も同様。まして大韓体育会が目標にしていたのは「金メダル7個以上を獲得して3大会連続して総合10位以内入り」だったことを踏まえると、少なからず物足りなさがあったことも否めなかった。
テコンドーなどお家芸が金ゼロ
サッカー、野球、ゴルフも不振
実際、金メダルが期待されながらノーゴールドに終わった種目は多い。
例えば柔道だ。前述した安昌林だけではなく、男子66キロ級で安バウルが銅、男子100キロ級で趙グハムが銀メダルを獲得したが、金メダルはなし。前回リオデジャネイロ大会(銀2、銅1)に続くノーゴールドに終わった。
(写真:左=男子90キロ級でウルフアロン選手に敗れたあと勝者を祝福して称賛された趙グハム/右=バドミントン女子ダブルスの3位決定戦は韓国ペア同士の対戦に)
11種目15人が出場した射撃もノーゴールド。メダルは女子25mエアピストルで金珉静(キム・ミンジョン)が手にした銀のみで、2008年北京大会から前回リオデジャネイロ大会まで3大会連続金メダルの「皇帝」秦鍾午(チン・ジョンオ)はメダルなし。韓国射撃がノーゴールドに終わったのは2004年アテネ大会以来、17年ぶりのことだった。
何よりも衝撃的だったのは「お家芸」のテコンドーがノーゴールドに終わったことだろう。
韓国は男女合わせて6階級に選手を送り出したが、銀メダル1(女子67キロ級の李多嬪=イ・ダビン)、銅メダル2個(男子58キロ級の張準=チャン・ジュン、男子80キロ級の印教敦=イン・ギョドン)に終わった。テコンドーが五輪正式種目に採択された2000年シドニー大会から前回のリオ大会まで通算12個の金メダルを獲得してきた韓国が、まさかのノーゴールドに終わったのだ。
しかも、卓球、レスリングに至っては金メダルどころかノーメダルに終わっている。柔道、射撃、テコンドー、卓球、レスリング。いずれもかつては「孝子種目」と言われてきた種目だけに衝撃は大きい。
「没落した孝子種目」(『スポーツ東亜』)とメディアもファンも肩を落とすが、残念な結果に終わったのは「孝子種目」だけでもない。3戦全敗で終わった女子バスケットボール、準々決勝で散った女子ハンドボールと男子サッカー、金メダルどころか銅メダルにも届かなかった野球など花形スポーツとされる球技種目も不調だった。球技唯一の個人種目と言えるゴルフでも、男女ともに米国で活躍するトッププロを送り込んだがメダルには届かなかった。
メダル以上の4位…女子バレー健闘に拍手
禹相赫、走高跳2メートル35
板飛込の禹ハラム、体操床の柳成賢
球技種目の中で女子バレーボールの躍進は爽快で頼もしかった。世界が認めるスーパーエースである金軟景(キム・ヨンギョン)を中心とするチームは下馬評を覆して一次リーグを突破しただけではなく、王者ブラジルが待つ準決勝まで進出。その対決は韓国の地上波3局で同時生中継され、合計視聴率は38・1%にもなったという。
(写真:女子バレーボールで健闘、闘志あふれるプレーで4位入賞の韓国チーム)
惜しくも敗れ、セルビアとの3位決定戦も落としたためメダル獲得はならなかったが、女子バレーボールの躍進は「希望と感動を与えたワンチーム精神」(『KBSニュース』)、「美しく熾烈だった挑戦」(『MBCニュース』)と絶賛され、「感動的な4位」(『聯合ニュース』)と評価されたほどだ。
今回のオリンピックで特筆すべきは「感動の4位」がバレーボールだけではなかったことだ。
例えば男子走り高跳びで2m35を跳んだ禹相赫(ウ・サンヒョク)。惜しくとも4位に終わったが、五輪の象徴競技と言えるトラック&フィールドでは韓国歴代最高成績であり、その跳躍記録は韓国新記録。笑顔を絶やさず限界に挑む姿は「スマイルマン」と呼ばれ愛されるようになった。
(写真:左=男子走高跳で2メートル35センチをクリア、4位に入賞した禹相赫/右上=板飛込4位の禹ハラム/右下=男子自由形100メートル、200メートルともに決勝進出を果たした黄宣優)
男子板飛び込みでは禹ハラムが韓国史上最高成績となる4位入賞。前出した近代5種で全雄太に次ぐ4位でフィニッシュしたのは韓国の鄭振和(チョン・ジンファ)であり、バドミントンの女子ダブルスで金昭映(キム・ソヨン)&孔煕容(コン・ヒヨン)組に敗れて4位になったのは李昭希(イ・ソヒ)&申昇瓉(シン・スンチャン組だった。
最後まで全力を尽くし、敗れても腐らず、勝者を称えて互いの健闘を労う彼ら彼女たちの姿は、「メダルよりも価値ある4位」として話題になっている。
それはかつてメダル至上主義に酔いしれ熱狂していた韓国人のスポーツ観が大きく変化したことの表れだったと、分析するメディアが多い。結果よりも過程を重視し、そこにある人間ドラマに共感と価値を見出すようになったと言えるだろう。敗北の悔しさや苦みも、経験と明日への糧として受け入れる成熟さが、今の韓国にはある。それが証明された東京五輪でもあった。
感動呼んだ「Z世代」の活躍…3冠の安山は20歳
しかも、ありがたいことにその成熟したスポーツ観をさらに刺激して楽しませてくれる、頼もしい逸材たちも出現した。いわゆる「Z世代」の台頭だ。
(写真左から:女子アーチェリーで3冠の安山はまだ20歳/卓球神童と呼ばれる申裕斌は17歳/スポーツクライミング女子複合8位の徐採鉉は17歳/
在日3世の柔道女子57キロ級、金知秀も20歳)
1990年代中盤から2000年代序盤に生まれた若者たちを欧米では「ジェネレーションZ」と呼び、韓国でも「Z世代」と総称することが多いが、東京ではその「Z世代」たちが躍動した。
例えばアーチェリーの混合団体と男子団体メンバーとして韓国史上最年少の金メダリストとなった17歳の金済徳(キム・ジェドク)、その金済徳とコンビで混合団体、女子団体、女子個人も制して3冠に輝いた20歳の安山(アン・サン)、体操でメダルを獲得した23歳の申在煥と19歳の呂書晶などがそうだ。
メダル獲得はなかったが17歳の卓球神童、申裕斌(シン・ユビン)は女子シングルと女子団体戦の両方で存在感を示し、水泳ではソウル体育高校3年生の18歳、黄宣優(ファン・ソヌ)がその可能性をアピール。男子自由形200mでは韓国記録を塗り替えて決進出を果たし、自由形100mではアジア記録も更新し、アジア人としては69年ぶりとなる決勝進出もなし遂げた。
また、男子体操・床4位の19歳、柳成賢(リュ・ソンヒョン)、女子ウェイトリフティング87キロ級4位の21歳李善美(イ・ソンミ)など「感動の4位」にも「Z世代」は多かった。
在日女子柔道選手として初めて五輪出場した20歳の金知秀(キム・ジス)も「Z世代」のひとりだろう。
「東京五輪では若い選手たちが堂々と大舞台で国民を魅了した。『Z世代』が韓国スポーツの希望と未来を作っている。今大会の最高の結実だ」と大韓体育会も大会総括した通り、東京五輪では韓国スポーツの若い力に大きな可能性を見出すことができた大会でもあった。
◆パリ大会に期待
だからこそ次のパリ大会が今から楽しみでならない。前述した「Z世代」たちがさらなる成長を遂げた姿を見せてくるだろうし、まだ見ぬ新たな「Z世代」が飛び出すこともあるだろう。東京五輪では18歳の徐採鉉(ソ・チェヒョン)がスポーツクライミング女子複合で8位入賞したが、パリ大会ではブレイキン(ブレイクダンス)が新種目として採用される。
アーバンスポーツ(都市型スポーツ)の中から新たな「孝子種目」が誕生するかもしれない。
パリ五輪が開催されるのは2024年7月。長いようで短いこれから3年の月日を韓国スポーツ界はどう活用していくのか。選手たちはどんなドラマを描いていくだろうか。
常に勇気と感動を与えてくれる韓国スポーツのチカラを信じて、熱視線を送っていきたい。
韓国のメダリスト
◆金(6)
▽アーチェリー混合団体(金済徳、安山)
▽同女子団体(安山、張珉喜、姜彩栄)
▽同男子団体(金優鎮、呉真爀、金済徳)
▽同女子個人(安山)
▽フェンシング男子サーブル団体(金政煥、具本佶、呉尚旭、金準鎬)
▽体操男子種目別跳馬(申在煥)
◆銀(4)
▽フェンシング女子エペ団体(崔仁貞、姜栄美、李慧仁、宋セラ)
▽テコンドー女子67キロ級(李多嬪)
▽柔道男子90キロ級(趙グハム)
▽射撃女子25mピストル(金珉静)
◆銅(10)
▽柔道男子66キロ級(安バウル)
▽柔道男子73キロ級(安昌林)
▽体操女子種目別跳馬(呂書晶)
▽テコンドー男子80キロ級(印教敦)
▽テコンドー男子58キロ級(張準)
▽フェンシング男子サーブル個人(金政煥)
▽フェンシング男子エペ団体(権永晙、馬世健、朴相永、宋在淏)
▽フェンシング女子サーブル団体(金智妍、尹智秀、崔スヨン、徐志演)
▽バトミントン女子ダブルス(金昭映、孔煕容)
▽近代五種男子個人総合(全雄太)
(2021.08.13 民団新聞)