新型コロナウイルスの感染拡大に振り回されながらも、少しずつ日常を取り戻しているスポーツ界。昨年は東京五輪・パラリンピックをはじめ、サッカーのヨーロッパ選手権や女子ラグビ‐のワールドカップなど、さまざまな国際大会が行われたが、2022年もスポーツのビッグイベントが目白押しだ。
スポーツライター 愼武宏
北京冬季五輪 平昌での活躍再び
今年最初のビッグイベントとなるのは、2月4日に開幕する北京冬季五輪。ウインタースポーツの祭典がアジアで開催されるのは、1972年札幌大会、1998年長野大会、2018年平昌大会に続いて4度目となり、中国では初の開催となる。韓国は地元開催となった前回の平昌大会で金5、銀8、銅4と合計17個のメダルを獲得し総合7位の成績を残し、北京大会でもその存在感を発揮したいところだろう。
〝お家芸〟でメダル量産期待…ショートトラック
もっともメダル獲得が有力視されているのは、ショートトラックだ。同競技は韓国が自他ともに認める「お家芸」。これまで韓国が冬季五輪で獲得した31個の金メダルのうち、実に24個がショートトラックで勝ち取ったもので、前回の平昌五輪でも金3、銀1、銅2を獲得するメダル量産種目となっていた。
当然、今回の北京五輪でもメダル候補が多い。
女子では平昌五輪で1500mと3000mリレーで金を獲得した崔珉禎(チェ・ミンジョン=城南市庁)に連覇のチャンスがあり、男子では19歳で平昌五輪500m銀メダリストになった黄大憲(ファン・デホン)がその成長の証として金メダルを獲得することが期待されている。そのほかにも今季W杯で銅メダルを手にした女子1500mの李有彬(イ・ユビン=延世大学)、男子1500mのパク・チャンヒョク(スポーツtoto)などがメダルを狙っている。
〔ショートトラック〕左から崔珉禎、黄大憲、李有彬、女子リレーチーム
「女帝」李相花の後継者めざせ…スピードスケート
スピードスケートでもメダルを目指して多くの選手が北京のリンクに立つ。
平昌五輪男子500m銀の車旼奎(チャ・ミンギュ=議政府市庁)、平昌五輪男子1500m銅の金敏錫(キム・ミンソク=城南市庁)、スビードスケートW杯の男子マススタートで優勝経験もある鄭在源(チョン・ジェウォン=ソウル市庁)、男子500mの金俊昊(キム・ジュンホ=江原道庁)などがそうで、女子500mと1000mの金旼鮮(キム・ミンソン=議政府市庁)、女子1000mの金賢栄(キム・ヒョンヨン=城南市庁)なども北京五輪出場権を獲得した。
バンクーバー五輪とソチ五輪で2大会連続・金に輝き、平昌五輪でも日本の小平奈緒と名勝負を演じた女王、李相花(イ・サンファ=2019年引退)のような絶対的エースはいないが、平昌五輪で男子マススタート金の李承勲(イ・スンフン=IHQ)と女子マススタート銀の金ボルム(江原市町)など、不祥事で一時物議を呼んだメダリストたちも、北京を「汚名返上」の機会にしようと誓っているに違いない。
〔スピードスケート〕左から車旼奎、金賢栄、金旼鮮
復調へ意欲みせる尹誠彬…スケルトン
〔スケルトン〕尹誠彬
このように冬季五輪では韓国が伝統的に強いスケート種目からメダルが多く出そうだか、氷上競技は何もショートトラックやスピードスケートだけに限らない。
例えばスケルトンだ。ソリで全長1300~1500mのコースを滑走しそのタイムを競うスケルトンは伝統的にヨーロッパ勢が強いが、平昌五輪では韓国の尹誠彬(ユン・ソンビン=江原市庁)がアジア人として初の金メダルを獲得した。
新型コロナの影響で海外遠征が難しくなった2020年以降、尹誠彬はW杯などで優勝から遠ざかっているが、昨年10月に北京入りして本番コースを滑走し「北京で最善を尽くす。今回は五輪を楽しめるようにしたい」と意欲を見せている。
〝メガネ先輩〟復帰で再上昇…カーリング
〔カーリング〕チームキム
この尹誠彬が復調待ち遠しい「平昌のスター」だとすれば、いち早く復活の狼煙を挙げたのが女子カーリングだろう。
チーム全員が同郷で姓も「金(キム)」ということから「チーム・キム」と呼ばれた彼女たちが、ふたたび五輪の舞台に帰ってくるのだ。
平昌五輪で国民的アイドルになった「チーム・キム」だが、韓国カーリング協会内部のパワハラ告発問題や「メガネ先輩」こと金恩貞(キム・ウンジョン)が結婚・出産のためにチームを離れたこともあって、しばらくの間、韓国代表の座を国内のライバルたちに奪われていた。
しかし、2019年秋に金恩貞が「ママさんアスリート」として復帰すると、チーム・キムも復活。翌2020年11月には韓国代表に返り咲き、昨年12月の北京五輪最終予選も底力を見せ、プレーオフの末、北京行きのチケットを手にした。
平昌で銀メダルを獲得した彼女たちが目指すのは、悲願の金メダルであることは言うまでもないだろう。
〝ヨナ・キッズ〟劉永、急成長…フィギュアスケート
そして、やはりフィギュアスケートだ。ウインタースポーツの「華」と言えるフィギュアは韓国でも人気で、特に北京では男女ともに期待が大きい。
まずは男子シングル。北京では韓国男子フィギュア史上初となる2選手が出場する。ひとりは車俊煥(チャ・ジュンファン=高麗大学)だ。16歳で挑んだ前回の平昌五輪では15位に終わったが、王者・羽生結弦も師事するライアン・オーサー氏のもとで技術を磨き、2019年には韓国人初のグランプリファイナルに進出。昨年3月に行われた世界選手権では10位になった。
〔フィギュアスケート〕左から劉永、金イェリム、車俊煥
男子初の2選手出場
彼が世界選手権でトップ10入りしたおかげで、韓国男子フィギュアの北京五輪出場枠は「1+1」になり、昨年9月のISUネベルホン・トロフィーで李シヒョン(高麗大学)が5位入賞によって、2枠に正式決定。
その2枠をかけた第一次選考会が昨年12月5日に行われ、韓国選手権などで5連覇中のチャ・ジュンファンが1位に。2位はイ・シヒョンとなった。今年1月7日には第二次選考会が開催され、最終的にはその合計点数で決まるが、男子は車俊煥と李シヒョンでほぼ決まりだろう。
一方の女子は劉永(ユ・ヨン=スリ高校)と金イェリム(16歳=スリ高校)が有力だ。ともに、女王キム・ヨナに憧れてスケートを始めたという「ヨナ・キッズ」だ。
特に劉永は5年前から「韓国フィギュアの希望」と期待を寄せられた有望株だ。
生まれは2004年5月。東南アジアで事業を展開する父親の影響で1歳の頃からシンガポールで育ち、フィギュアをするために母とともに2013年に韓国に戻った彼女は、2016年韓国フィギュアスケート選手権で優勝。当時はまだ身長143センチの小学6年生だったこともあって「神童」と騒がれたが、2018年平昌五輪には出場はできなかった。オリンピック出場資格である満15歳に届かなかったためだ。
だが、その後も順調に成長し、シニア・デビュー戦となったGPシリーズ第2戦のスケート・カナダで、あのキム・ヨナも果たせなかった韓国人女子選手初のトリプルアクセルに成功。いきなり銅メダルに輝いた。
2020年にはソウルで行われた四大陸選手権でも優勝。今季はすでにGPシリーズで2度の銅メダルを獲得しており、ISU(国際スケート連盟)の世界ランキングでも韓国選手トップにある(5位)。国内選手権も3連覇しており、「ヨナ・キッズ」の中でも頭がひとつ抜けた印象だ。
それだけに韓国でも劉永にかかる期待は大きく、日本の紀平梨花をライバルとしてメディアが多いが、実は劉永と紀平梨花は、ともに濱田美栄氏に師事していたこともあり、劉永は「紀平選手とは同じチームで練習しながらたくさんのことを見て学んでいる」と明かしたこともある。
新型コロナのせいで韓日間の行き来が難しくなったため、劉永が濱田氏に直接会って指導を受ける機会が少なったようだが、韓日の才能たちが互いの技と演技を競い合う女子フィギュアは北京五輪最大の注目競技となるだろう。
復活へ意欲 平昌銀メダリスト…スノーボード
〔スノーボード〕李相昊
そうはいっても、北京五輪でも平昌五輪のような「メダル・ラッシュ」があるとは限らない。最新のアスリートデータ分析をもとした国別メダル獲得予想をする米国のデータ分析会社グレースノート社も「韓国は金メダル2、銀メダル4、銅メダル2」と、平昌五輪よりも少ないメダル数を予想している。
ただ、データや予想を裏切るのがスポーツの醍醐味だ。実際、平昌五輪でも韓国が苦手とする雪上競技でメダルを獲得したこともあった。
スノーボード男子パラレル大回転で銀メダルを手にした李相昊(イ・サンホ)だ。生まれ故郷が白菜の産地で知られる江原道の旌善郡で、幼年期に白菜畑で練習したエピソードもあることから「ペチュ(白菜)ボーイ」の愛称を持つ李相昊は、今年もFIS(国際スキー連盟)スノーボードW杯で韓国人として初めて優勝するなど、着実に調子を上げてきているだけに、北京でも十分に可能性があるだろう。
水陸で世界選手権 アジア大会も
男子走り幅跳びの禹相赫(左)と男子板飛び込みの禹ハラム
それに2022年に行われる国際大会は北京冬季五輪だけではない。来年は5月に世界水泳選手権、7月には世界陸上選手権が開催される。
ともに本来は2021年開催予定だったが、新型コロナの影響で東京五輪が1年延期されたことを受けて、開催時期が再調整されて今年開催となった世界水泳と世界陸上。
世界水泳は福岡で、世界陸上は米国オレゴン州で開催される。
振り返れば東京五輪では「天才高校生スイマー」黄善宇(ファン・ソンウ)が水泳男子100m自由型で準決勝進出を果たし、男子板飛び込みでは禹ハラムが韓国史上最高成績となる4位入賞。陸上競技では、男子走り高跳びの禹相赫(ウ・サンヒョク)は2m35を跳んで4位入賞も果たすなど、ハイライトも多かった。
今年行われる水泳と陸上の世界選手権でも、韓国選手団の中からあっと驚く記録や快挙が飛び出すかもしれない。
また、今年9月には中国の杭州で第19回アジア大会も予定されている(9月10日~9月25日)。韓国は前回のジャカルタ大会で49個の金メダルを獲得。全40種目が行われる予定で、その中には史上初めてeスポーツが正式なメダル競技として実施される。eスポーツは2018年のジャカルタ・アジア大会でもデモンストレーション競技として実施され、韓国は6種目中2種目でしかメダル獲得できなかった。正式種目となる杭州アジア大会ではメダルを独占し、「eスポーツ大国」としての存在感を示したいところだろう。
サッカーW杯'11回目の出場へ最終予選正念場
11回目の出場をめざす韓国代表チーム
そして、この杭州アジア大会が終わり、一段落着く頃に開幕するのがFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ(W杯)・カタール大会だ。パウロ・ベント監督率いる韓国代表はまだ本大会出場切符を手にしていないが、昨年から始まったW杯アジア最終予選では順調に勝ち点を重ねてグループ2位で前半を折り返した。
今後はレバノン戦(1月27日)、シリア戦(2月1日)といったアウェー2連戦や、強敵イラン戦(3月24日)や最終敵地戦となるUAE戦(3月29日)が待ち受けるが、キャプテンの孫興民(ソン・フンミン)を中心に乗り切り、10大会連続11回目のW杯出場切符を手にしてくれることだろう。
カタールW杯が開幕するのは11月21日。W杯史上初の冬開催となる大会は、12月18日に行われる決勝戦までの約1カ月間、世界中からの熱視線を集めることだろう。願わくはその頃には新型コロナも収束し、人々が心の底から「スポーツに熱狂できる日常」を楽しんでいることを期待したい。
(2022.01.01 民団新聞)