審議会の答申 骨抜きに
【神奈川】相模原市が来年の3月議会に提出を予定している「人権尊重のまちづくり条例(案)の骨子」がこのほど明らかになり、波紋を呼んでいる。条例案には著しい差別的言動や犯罪煽動に対する包括的で実効性のある罰則規定はなく、市人権政策審議会が3月に出した「答申」がほぼ無視された形となったためだ。地元市民団体は22日、市内で「緊急集会」を開き、パブリックコメント(意見募集)を呼びかけた。締め切りは来年1月9日まで。
相模原市が11月17日、市議会・全員協議会で公表した条例の「素案」によれば、差別的言動や差別煽動の対象を「本邦外出身者」に限定。罰則規定も氏名の公表のみにとどめた。勧告・命令を経ても止めないときは、氏名公表にとどまらず、秩序罰または行政刑罰の対象とした「答申」からは大幅な後退となった。
市側は「表現の自由」に配慮したと説明する。しかし、憲法学者2人を含む審議会が3年以上かけて「罰則は可能」と最終的に判断したものだけに、「不合理」と指摘されている。審議会が市長に判断を求めていたのは対象範囲の拡大と罰則の強度(凍結案含む)の選択だけだったからだ。
「答申」は入居差別を含む差別事案が発生した時、「人権委員会」が実質的に市から独立した被害者救済機関として関係者への調査・調整、加害者への説示を行ったうえで市長に「声明」を出す責務があると進言できるとした。これは「差別全体に網をかける意味で重要なポイント」(人権団体の話)とされる。
だが、「骨子」は「調査」以外すべて抜け落ち、ただ、「声明」を出すことが「できる」にとどめた。「声明」は本来、啓発活動としていつでも出すことができる性格のものだけに、「条例に入れる意味はほとんどない」との声すら聞こえた。
緊急集会では参加者から「差別の現実に向き合おうとしない。『答申』の風化どころか、好き勝手に終わらせようとしている」と批判する声が相次いだ。憲法学者からはほかの自治体への影響を考えてか「こんな条例ならばつくらないほうがいい」といった声さえ出ているという。
相模原はこの間、「ヘイトの舞台」となってきた。市内「津久井やまゆり園」では2016年7月26日、入所者19人が刺殺され、職員も合わせて26人が重軽傷を負う戦後最悪のヘイトクライム事件が起きた。差別団体・日本第一党は市役所前などで街宣を行い、人権政策審議会の韓国籍委員を主なターゲットに執ような差別演説を繰り返してきた。
本村賢太郎市長は19年4月の就任直後からヘイトスピーチ規制の必要性を訴え、日本で初めて罰則付きの条例を制定して先進モデルともなった川崎市以上の条例をつくると意気込んできた。審議会からの先進的な答申は3月23日、本村市長に提出された。
これを受けて民団中央本部人権擁護委員会は8月21日、民団神奈川本部、民団相模原支部の代表とと共に相模原市役所を訪れ、審議会の答申を踏まえて川崎市以上の実効性のある罰則規定を盛り込むよう要望していた。
パブリックコメントに関する問い合わせは相模原市人権尊重のまちづくり条例専用電話(042‐707‐9260)