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歴史教科書採択問題−総括と展望
教科書問題共同記者会見
(上)東京・杉並区の採択当日、「つくる会」反対を訴える市民団体のメンバー=8月12日、区役所前で。 (下)「つくる会」教科書を採択した栃木県大田原市で、撤回を叫んで行進する民団デモ隊=7月22日
歴史教科書採択問題−総括と展望…本紙記者座談会

在日・日・韓「良識の勝利」支えた市民連携

 公立中学校で来年度から使われる教科書の一斉採択が8月末で終わった。焦点となっていた「新しい歴史教科書をつくる会」主導の扶桑社版歴史教科書の採択率は、0・4%水準にとどまった。採択をめぐる攻防は熾烈を極めたが、民団と日本市民団体の連携によって、「つくる会」の野望をほぼ完全に封じ込めたと言えるだろう。01年の前回に続いて、日本の良識が勝利したことになる。今年の攻防と結果が意味するものについて本紙記者が語り合った。

「つくる会」を惨敗させた力

早め・地道に啓発…紙一重の危うさ封じた

 −−ようやく熱く長い夏が終わったという感じだ。扶桑社版の採択率について韓国政府では、5%以下ならまずまず、3%以下なら大成功と見ていたようだ。外交通商部は「日本の良識の勝利」とするコメントを出したね。

 A 彼らを封じ込めたのは何と言っても、日本の市民団体と民団や在日韓国青年会が連携したねばり強い運動があったからと言っていい。

 「つくる会」の目標10%は、当初から大風呂敷だと思っていた。でも、政・官・財の強い後押しがあっただけに、5%程度に行く可能性は否定できない感じはあったし、その水準になると後々やりにくくなるとの不安もあった。

韓国や中国の世論も背に

 B 各地の教育委員会に出向いて、直接要望活動をした韓国の市民団体の力も無視できないんじゃないか。それと、韓国や中国の世論もね。

 5%を超えたら彼らに運動継続の勢いをつかせてしまうが、私も「つくる会」はせいぜい3%どまりと見ていた。

 C 日本の15の市民団体が1日に記者会見を開いて「勝利宣言」をした。その声明のなかに、「とりわけ在日韓国民団とその青年会の人々が、自らの問題として大きな力を発揮し」というくだりがある。確かに、在日同胞陣営もフル回転だった。

在日青年会の大胆な活動◆

 −−その会見には、民団も青年会も出ていないようだが。

 B 「日本の教科書問題に外国人の力を借りて圧力をかけている」というプロパガンダを、「つくる会」から流されるのを避けるためだろう。彼らの悪意にあえて乗る必要はないからね。

 C だけど、青年会は本当に頑張ったと言っていいのではないか。とくに、インターネットの連絡網を駆使した情報戦の処し方は見事だった。

 B 前回の運動と一番違う点がそこだ。情報を矢継ぎ早に回して、各団体に行動要請しただけでなく、韓国や日本で内外の記者を集めて何度も会見を開くなど、スケールも大きくなった。

 A 韓国での記者会見について、改めて確認しておくことがある。それは、本国の政治家やマスコミ、国民の力を借りるためのアピールの場ではなく、ナショナリズムを高揚させやすい韓日関係の本質を熟知した上で、教科書問題を材料に韓日の離間を策動する勢力と一般の日本人は違うということを、直接知らせようとする会見だったということだ。

 B リベラルなメディアでさえ、教科書問題についてなかなかものが言えなくなるほど、日本は国家主義的な傾向を強めている。そのテコに使われたのが、北韓による日本人拉致事件や核開発の問題だ。

 そのことを重く見た行動だった。韓国の国論が感情的になれば、それがプロパガンダに利用され、一般の日本人まで敵に回しかねない。そういった愚を避けようという訴えだ。

 C 東京・杉並区で「つくる会」の教科書が採択されたが、支団長の表情は苦渋に満ちていた。杉並区はソウルの自治体と姉妹関係にあるからなおさらだ。支団長は杉並区教委に審議やり直しを求める一方、これ以上都内での採択は許さないとの思いで、他地域の教委の審議を見守っていた。

 大田原市を管下に持つ栃木本部もそうだが、扶桑社版を採択した地域の民団幹部は悔しさに満ちていた。そういう思いが全国の民団に波及して、「つくる会」を食い止める決意を新たにさせたのは間違いない。

組織活性化で認識共通に◆

 −−民団は今回、01年に比べて相当組織的に動いたのではないか。

 A 実質的に動いたのは、去年9月の組織活性化集中活動からだ。秋田を皮切りに、歪曲歴史教科書問題に対する問題意識と運動方針について共通認識を深める研修を全国的に開催し、その足で各自治体に要望活動をすることを基本パターンにした。

 C 一部の地域ではそれまで、参政権獲得運動をはじめとして、要望活動をきちんとやってこなかったことも分かった。スタートが早かったからこそ、組織内部の弱点や問題点も早めに把握し、迅速な軌道修正が可能になった。

 状況に応じた対応を2カ月ごとに更新し、地方への指示も緻密、的確だったと思う。

 A 大田原市の採択を許したものの、7月13日という早い時点だったことも不幸中の幸いだった。今から思えばそれが、重要な契機になったのではないか。

 緊急事務局長会議を現地で招集し、ビラ配りやデモ行進、拒否し続ける教委との交渉を断行した。組織内部で危機感を共有し、集中力を一気に高めた。一連の行動がマスコミに注目され、採択の可能性があった県下の宇都宮市や小山市にブレーキをかけることにつながったと思う。

 C 小さな町に降ってわいたような、在日同胞のデモを目の当たりにして、各市教委も日本人の良識が内外から問われていると感じたんじゃないか。

反日に貶める作為を排し◆

 B 栃木にはフランスのメディアも来たが、欧米のメディアは当初、ナショナリズムに根ざした問題ととらえ、冷ややかだった印象がある。

 というのも、韓国や中国で歴史教科書問題に火がつき、特に中国で大々的な反日デモが繰り広げられた。「つくる会」はこれらを材料にして、日本人のナショナリズムをたきつけるネガティブキャンペーンに使った影響もある。

 C 青年会はその誤解を解くために、外国人記者クラブで「つくる会」と討論の場を設定し、彼らの主張の誤りを天下にさらした。

 B 扶桑社版に反対する勢力をすべて反日に貶めるやり方を告発したのが大きい。それが奏功して、イギリスの「タイムズ」の社説が、日本の教科書問題の異常さを書きたてた。ロシアや東南アジアのメディアもそれに続いた。


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地域とパイプ太く…民団の共生理念 前面に

4年後の採択への取り組み

 −−「つくる会」は2日の記者会見で事実上の敗北宣言をした。だが、その席で三度挑戦することも明らかにした。

他社教科書の記述も注視◆

 C 扶桑社版をほぼ完封できたと言っても、喜んではいられない。前回よりは伸びがあったのは事実だし、「つくる会」は、自分たちの教科書の登場によって、「他社の歴史教科書が改善された」と強調している。

 他社の教科書も侵略や加害の記述を後退させ、記述をあいまいにさせている。採択制度から現場教員を排除して、教委が採択するようになったからだ。子どもと教師の立場に立った採択制度への転換が必要になる。

 B 「日本の良識の勝利」とは言っても、実際は紙一重の差だったのではないか。扶桑社はいわば新規参入であり、彼らにとっては既存教科書会社の営業努力に加え、長年の付き合いという壁もあった。それと、各教委に事なかれ主義がなかったとは言えない。

 民団は今後のためにも各地教委の審議実態を調査しておくべきだ。「つくる会」は突然変異で生まれたものでなく、時代の申し子の面があることも忘れてはならない。

 A そうだ。アジア侵略の合理化は一時的なものではない。常に自治体との交渉窓口を確保しておく必要がある。同じ地域に暮らす住民として、在日が何を考え、何を求めているか、ちゃんと相手側に知らせなくてはだめだ。在日の顔や運動がない地域では、「つくる会」の横行を許すことにつながりかねない。

 C マンツーマンでお互い顔の見える関係にしないといけない。個人レベルでは行政の実務者とは対応できても、首長とはなかなか会えない。いつでも長に会えるくらいの関係、太いパイプをつくっていくことが4年後の担保になる。民団の役割はますます大きくなってくる。

 A 80年代の外国人登録法の闘い以降、自治体は在日を地域住民として認知した。民団も地域の在日を代表する顔になった。これからも民団の運動の基本である地方参政権や外国人教育の指針制定などの要望を訴え続けることが大事だ。

 B 別な問題もある。歴史歪曲の「民営化」が始まっているからだ。政界が右傾化しているだけでなく、書店に行けば「つくる会」の関連本が平積みにされ、売れているという状況がある。

 韓日友好を壊そうとしているのが「つくる会」だ。彼らにとって韓日の市民レベルの交流が一番ネックになっている。民団はこれからも韓日の架け橋という立場から、市民レベルで信頼関係をつくる基本運動をねばり強く進めなくてならない。

世情をにらみ、引き締めて◆

 A 今年が在日100年、解放60年、韓日国交正常化40年という節目であったこと、加えて韓流が定着しているという客観状況もこちらに味方した。韓国と交流関係にある自治体や学校では、「つくる会」の教科書を採択することでこれまでの関係をご破算にするのは得策ではないと判断したところもあった。

 4年後の09年は、特に客観状況がいいという保証はないのだから、今から気を引き締めてとりかからないといけない。

 −−教科書問題とその問題のありかを、同胞社会全体に熟知させ、一丸となって歴史歪曲の策動を封じたことは、民団の存在感を大いに高めることになったと思う。

 「韓日友情年」は終わっても、民団が主体的に「韓日未来月間」を設けて、両国の将来を担う青少年の交流の場を設けるという構想もある。日常的に運動を続けること、やはり「継続は力なり」ということだ。

(2005.09.14 民団新聞)
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