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民族の真髄を「完奏」
40年間育んだ70分の大作
「私にとって伽倻琴とは、生きることそのもの」と話す伽倻琴演奏家で、作曲家でもある黄秉冀さん(74)。東京・千代田区の紀尾井小ホールで2、3の両日に開かれた公演「韓国の名匠・黄秉冀伽倻琴の真髄」(新日鐵文化財団主催)では、自らの作曲作品のほか、日本では初めてとなる「黄秉冀流伽倻琴散調」を完奏した。韓民族の魂を込めたという演奏で聴衆を魅了した。
完全版演奏は海外で2度目
「黄秉冀流伽倻琴散調」完全版は、全8楽章から構成される。楽章と楽章との間を全く休むことなく、70分間演奏するのが特徴の一つ。韓国でもなかなか演奏されない作品だ。
完全版を海外で初めて紹介したのは05年のドイツ公演の時だ。日本はこれに続く。散調とは器楽独奏曲のことで、「旋律を構成する際にリズムの密度を変化させ、緊張感を高めたり緩めたりする点が重要」だという。
もともとは伝説的な伽倻琴の名手、丁南希(1905〜1984年)が作った伽倻琴散調を、丁の一番弟子である金允徳(1918〜1978年)から黄さんが伝授された。当時は6楽章で演奏時間も約40分だった。
その後、約40年間かけて、手を加えながら98年に「黄秉冀流伽倻琴散調」を完成させた。伽倻琴散調はカラク(リズム)の構成や演奏技法などは流派により異なり、人名をつけて呼ばれる。「黄秉冀流伽倻琴散調」は現在、演奏される有名な散調約10種のうちで最も長時間になる。
韓国戦争で釜山に疎開した中学3年生の時、伽倻琴に出会った。韓国伝統舞踊研究所で、金哲玉というお年寄りが演奏する伽倻琴の音色に惹かれた。反対する両親を説得。金氏から指導を受け始めて数カ月後、同地に設立された国立国楽院に移り、51年から59年まで伽倻琴を習った。
同院では、黄さんの世代から、宮廷音楽の「正楽」と、大衆音楽の「民俗楽」の両方を習えることになったと話す。62年には、韓国で最初の現代伽倻琴曲を作曲。また90年代以降は、17弦の改良伽倻琴のための作曲も手がけた。
黄さんの演奏の特徴は、「正楽では正統な演奏方法で、民俗楽はこれにふさわしい技法を用いて、きちんと演奏する」こと。韓国の若手国楽演奏家たちの中には、多様な楽器を使った国楽フュージョンを試みる人たちも少なくないが、自身は、「正統的な音楽をやり続けたい」と思っている。
日本への紹介大いなる喜び
黄さんはこれまで、ソウル大学の国楽科や梨花女子大学の国楽科の教授などを務めた。今では多くの弟子たちが後進を教える。弟子に接するときには、演奏家にとって備えなければならない内面世界の大切さを説く。
今公演を前に民団新聞にコメントを寄せてもらった。「日本人はキムチを味わい、韓国のポップスやドラマを楽しんでいるが、韓民族の魂が込められた、精神文化の真髄といっても過言でない韓国の伝統音楽は、日本にあまり紹介されてこなかった」と指摘。
「今回の公演を通して、千年を超える悠久な歴史を持った韓国の伝統音楽と、そのような音楽の伝統に根を持ち、現代に新しく創作された音楽を幅広く紹介できることが嬉しい」と語った。
黄さんはこのたび、伽倻琴の伝統を継承しつつ、卓越した音楽的表現を生み出した業績が評価され、「第21回福岡アジア文化賞」の大賞に選ばれた。「伽倻琴は生きることそのもの」。伽倻琴に向き合ってきた真摯な姿勢は変わらない。
(2010.7.14 民団新聞)
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