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言論には「自由」も「良識」も欲しい…産経前支局長問題
「産経虚偽報道、5000万が憤怒する」産経新聞ソウル支局前で抗議する市民

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大統領の名誉を著しく毀損
「噂」を巧妙に活用…市民団体の告発受け捜査

 朴槿恵大統領の名誉を傷つけたとして韓国当局は8日、産経新聞前ソウル支局長の加藤達也氏を在宅起訴し、出国禁止措置も延長した。これに対する抗議・非難が内外で巻き起こっている。

 日本の菅義偉官房長官は「(出国禁止は)人道上大きな問題だ」とし、「(起訴は)国際社会の常識と大きくかけ離れている。民主国家としてあるまじきことと言わざるを得ない」と力んだ。閣僚、与野党からも同様の発言が相次ぎ、メディアには、嫌韓の流れを助長し、韓日関係の修復を一段と困難にするとの論調も目立つ。

 国連事務総長の報道官が「国連は『報道の自由』を尊重する側に立つ」と表明すれば、米国務省も「我々は言論の自由を支持する」とクギを刺した。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」や韓国に拠点を置く海外報道機関が構成する「ソウル外信記者クラブ」も、報道の自由侵害だとして強く抗議している。

 韓国では野党からの糾弾が激しく、セウォル号惨事の責任糾明とも絡んで政治問題化しつつある。「大統領の名誉を守ろうとして韓国の名誉を傷つけた」「大統領の過剰反応と検察の過剰忠誠が、一新聞社や記者の資質の問題で終わるはずだったことを、国の品格問題に発展させてしまった」「韓国の民主主義は再び国際社会の笑い物になる」といった具合だ。

 政府・与党はこれらに対し、「大統領は国家元首であり、日本における首相より大きな存在だ。根拠のないウワサを増幅し、その名誉を著しく毀損した。明確な責任をとるべきだ」「法の前には誰も例外ではない。外国メディアであっても韓国で法を犯せば、国内法が適用されるのは至極当然のこと」などと反論している。

 加藤氏を韓国当局が起訴するに至った経緯を確認しておこう。

 産経新聞のウェブサイトに8月3日付で加藤氏のコラム「朴槿恵大統領が旅客船セウォル号沈没の当日、行方不明に…誰と会っていた?」が掲載された。これが翌日、韓国の左派系ニュースサイトに翻訳転載されたことで韓国内にも広がった。

態度の軟化なく出国禁止・起訴

 大統領が沈没事故当日に7時間「所在不明」とされた問題について、大統領府秘書室長と最大野党の院内代表による質疑応答があった。加藤氏はこれを詳しく紹介した上で、朴大統領の「不通」(側近や閣僚との意思疎通不足のこと)ぶりと青瓦台の風通しの悪さが「あるウワサ」の拡散につながったとし、その「代表例」として「韓国最大部数の日刊紙、朝鮮日報の記者コラム」を持ち出した。

 加藤氏はそのコラム「大統領をめぐる風聞」(7月18日付。要約別掲)を巧みに引用・活用し、独自取材も交えて「<大統領とオトコ>の話」を仕立て上げた。「朴氏と緊密な関係がウワサになった」のは、朝鮮日報コラムが念頭に置いたと思われる人物ではなく、その岳父だとする説があるとし、「話は単純ではない」と引き取りながら「朴政権のレ‐ムダック(死に体)化は、着実に進んでいるようだ」と結んだ。

 韓国の市民団体がこれに反発、大統領の名誉を毀損したとして加藤氏を告発するところとなり、ソウル中央地検は加藤氏を出国禁止処分にした上で、8月18日から3回にわたる事情聴取を経て今月8日、情報通信網法違反の罪で在宅起訴した。加藤氏の態度軟化があれば別の展開もあったはずだ。

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「不問」範囲広い判例
悪意の立証は困難…国内メディアの責任は?

 読売新聞は加藤氏起訴に関する「韓国 日本の報道拡散」と題した記事(10月10日付)で、名誉毀損について「日本では、報道は『公益性』の高さが重視され、その内容が真実か、もしくは真実だと信じる相当の理由があれば、違法性はないとされる。たとえ報道の内容が真実でなくとも、刑事責任まで問われることはほとんどない。報道が、政治家のような公人に関するものであれば、なおさらだ」と押さえながらも、こう書いた。

 「法律家の間では、日本でも、仮に日本在住の外国人記者が外国語で、日本人の名誉を傷つけるような虚偽の記事をネットに乗せた場合、記者を名誉毀損罪で起訴することは可能だとの見方が強い。日本でネットの記事を閲覧できれば、日本国内で被害が生じたとみなせるためだ」

 つまり、法令そのものよりも日本(その他の先進国を含む)と韓国の法運用の違いが際立つということなのだろう。そこにある韓国社会の特殊性を念頭に置く必要がある。

 加藤氏に適用された情報通信網法の施行は01年。90年代からネット上で芸能人などへの名誉毀損が急増し、何人もの自殺者を出すなど深刻な社会問題になったほか、虚偽に基づく政治人への攻撃も度を超すことが多く、時には大規模なデモを引き起こすばかりか大統領選挙をも左右してきたことが背景にある。また、韓国社会の国内大手メディアに対する信頼度が日本のそれに比べてかなり低く、電子新聞が登録されたものだけでも4900余を数える状況も無視できない。

 同法の名誉棄損罪は7年以下の懲役か5000万ウォン以下の罰金で、刑法の名誉毀損罪(5年以下)より厳しくなっている。

 朴政府はセウォル号沈没惨事以降、大統領の名誉毀損に関する報道に対して少なくとも5件の民事訴訟を起こしているという。加藤氏の一件にしても、法令があり、それに基づく告発があった以上、検察が刑事立件し取り調べるのは当然のことだ。それでも、起訴したことにはいくつもの疑問符がつく。

 問題のコラムが虚偽事実の流布による名誉毀損罪の要件を満たすとはいえ、判例は報道の自由を幅広く認めており、たとえ虚偽報道であっても「事実と信じ得る相当の理由」があれば責任を問われない。この間の産経新聞の報道ぶりから、加藤氏が虚偽であることを知りながら書いた可能性は高いとしても、それを立証することは極めて困難であろう。

 産経新聞社長は、「日本の報道機関が日本の読者に向けて、日本語で執筆した記事を韓国が国内法で処罰することが許されるのかという疑問を禁じ得ない」とする声明を発表(8日)した。

 加藤氏コラムの引用元となった朝鮮日報コラムだけでなく、翻訳転載し国内に拡散させた韓国のニュースサイトへの対応も問われる。この二つがなければ問題が生まれなかったか、生まれても広がらない可能性があったにもかかわらず、朝鮮日報は不問に付され、翻訳担当者は家宅捜索を受けながらも起訴されていない。

事実無根の記事当然反動がある

 加藤氏は記者生活23年、ソウル特派員としても4年近いキャリアがあるとのことだ。日本メディアの報道を無断で即時翻訳して流す韓国メディアの実相を熟知していよう。しかしたとえ、計画的にこれを利用したとしても、韓国内で朴大統領の名誉をおとしめる意図があったとまで立証するのは難しい。

 起訴するからには有罪判決を獲得する自信がなければならない。しかし、有罪になればなったで、この間とは比較にならない抗議・非難を受けることになる。苦悶する当局が起訴に踏み切ったのは、9月19日の閣議などで朴大統領が「国民を代表する大統領に対する冒涜的な発言は度を超えている」と強く不快感を示したことが関係しているとされる。

 虚偽の流布は厳に戒められねばならず、代償としてきついお灸があることも示されねばならない。「所在不明」とされた時間も朴大統領が青瓦台にいたこと、さらに渦中の男性がその時間に他の人物と会っていたことが確認されている。加藤氏に対する制裁は基本的に、その事実によって本人に言論人としての恥をかかせることで果たせるはずだ。一国の大統領に対する事実無根の醜聞記事に反動がないわけがない。

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「記者の勲章」とは無縁
ともに「不本意」のはず

 「怒りの総力特集 韓国『無法国家』の証明 『韓国の理不尽には屈しない!』 起訴、産経加藤達也前ソウル支局長 独占直撃60分 韓国検察は朴槿恵政権のメンツのため、私を心理的圧迫で潰して、惨めに謝罪させようとした。ならば粛々と闘うだけだ。」

 「週刊文春」10月23日号の見出しにそうあった。これによれば、産経新聞の前ソウル支局長である加藤氏はかなり骨のある人物で、国家権力とも堂々渡り合う言論人の鑑とも言うべき存在ということになる。

 事実、加藤氏は一歩も引かず闘う姿勢を公言している。産経新聞も「公人中の公人である大統領に対する論評が名誉毀損に当たるなら、そこに民主主義の根幹をなす報道、表現の自由があるとはいえない」(17日付社説)、「決して屈することなく、『民主主義と自由のためにたたかう』という産経信条に立脚した報道を続けていく」(社長声明)と毅然としたものだ。

 しかしそうした主張は、守るべきものがまともであってこそ本来の意味を持つ。産経は「個性」が強いとはいえ有力紙の一角を占める存在だ。「言論・報道の自由」を大上段に振りかぶり、ウェブサイトに載せた著しく品性を欠くウワサ話記事を声高に正当化するのが産経信条にふさわしいのか、自尊心に基づいて一考する意味は小さくないだろう。

 加藤氏は執筆に当たって朝鮮日報のコラムに我が意を得、触発されたのか。あるいは、ウワサに接しながらも品性面から記事化をためらっていたところ、韓国最大手の朝鮮日報が言及したことで意を強くしたのか。

本分を逸脱する歴史の「当事者」

 いずれにせよ、朝鮮日報コラムは主として側近人事を問題にしながら、大統領に信頼回復を求める内容であり、力点と方向は叱咤激励にあると言っていい。加藤氏はそこから、自身に都合のいい記述だけを切り取り、<大統領とオトコ>の問題にデフォルメした。

 朴大統領にとって、男性スキャンダルのでっち上げほど耐え難い侮辱はあるまい。加藤氏は卑劣にも、そこをあえて衝いた。産経が好むサムライ精神は、反韓・嫌韓キャンペーンのためなら潰えてもいいものなのか。「闘う言論人」の加藤氏が「記者の勲章」を手にすることはない。ドジョウは龍になれないからだ。

 産経が韓日関係をさらにこじらせたいのであれば、「歴史の記録者」であるべき新聞社の範(のり)を逸脱し、「歴史の当事者」となる。それが韓日関係の重要性を主張してきた産経の本意だろうか。

 今回の事態は、産経にとっても、韓国当局にとっても「不本意」であると思いたい。

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別添資料

「大統領をめぐる風聞」
朝鮮日報7月18日付コラム要約

 青瓦台秘書室の国会業務報告が発端だった。セウォル号惨事が起きた日、大統領が書面で最初の報告を受けてから中央災害安全対策本部に入るまでの7時間、大統領への対面報告も大統領主宰の会議もなかったことが明らかになってからである。

 以下は最大野党の院内代表と秘書室長の質疑応答だ。「大統領は執務室にいらしたのか」「その位置に関しては、私は分かりません」、「秘書室長が分からないで誰が分かるのか」「秘書室長が一挙手一投足をすべて知るわけではない」。

 大統領のスケジュールはリアルタイムならともかく事後には知ることができる。室長が「私は分からない」と述べたのは、大統領を保護するためだったのだろうが、それは秘書室長にも隠すスケジュールが大統領にあったことをも意味する。

 「大統領はその日、某所で秘線と一緒だった」という風聞が生まれた。「大統領の所在に対する公開的言及は差し控えたい」とでも答弁すればこうはならない。風聞が<ニュース格>になった折もおり、渦中の人物の離婚事実まで確認され、いっそうドラマチックになった。その人物は7年間、政治人・朴槿恵の秘書室長だった。

 以前であれば、大統領支持勢力が激高し、支持者でない人々も「言及する価値もない」と背を向けるのに、現在はそうした常識や理性的判断が働かなくなったようだ。高い支持率を維持していれば、風聞など立つ余地もない。大統領個人に対する信頼が崩れたことで、あらゆる風聞が流布されるのだ。

 現政権ほど国政課題の多い時はなかった。使う人を選ぶ問題(国務総理以下閣僚などの任命にともなう国会手続)だけで時間と精力を使い果たしたかのようだ。

 大統領は「時代的要求にふさわしい方を探すのは決してやさしいことではなかった」と言ったが、人々は「そもそも、そのような候補者を<誰が>推薦したのか」と厳しい目で見つめた。積み重なった疑心が大統領の免疫力をこそぎ落としてきたのである。

 国家革新を遂げる「2期内閣の出帆」を掲げたが、誰もそうは受け取らないだろう。人事のたびに話題になる<青瓦台権力3人組>のような面々を見て、将来に期待をかけるのは難しい。国家を革新するなら大統領本人と周辺人物の革新からまずしなければならない。

 大統領は依然として旧時代の象徴のような秘書室長を抱えている。彼の忠誠心と秘書室の安定を放棄したくはあるまい。しかし、室長がそのままでは革新に対する大統領の意思を信じる人はいないだろう。

 長雨時のカビのように拡散する風聞を聞かないために、大統領は自身の耳だけをふさいではならない。カビは日差しの下で死ぬものだからだ。

(2014.10.22 民団新聞)
 

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