金容海さんと会ってみたい、直接、話を聞いてみたい―この半生記を読めば、誰もがそんな誘惑にかられることだろう。示唆に富む在日1世奮闘記といえる。済州島に寄せる尽きせぬ郷土愛からも学ぶべきものが多い。 金さんから直接・間接的に薫陶を受けた人たちが本書を発行するためだけに「イルムの会」をつくり、3年がかりで聞き取りを重ねた労作。金さんを照らす光の部分だけでなく、知られざる闇の部分まで余すところなく描ききった。金さん自身、相当な覚悟で語ったことだろう。 金さんは民族講師の先駆者であり、「本名を呼び、名乗る」という今日の民団大阪本部の文教施策の基礎を築いた功労者とのイメージばかりが先に立つ。だが、勤務先の学校や教育委員会、保護者との間のあつれきに挫折感を味わってきた。いらだちとやりばのない怒り、挫折感にさいなまれながらも民族教育への確固たる信念で乗り越えた。 自身が本書の巻頭で書き記した「人のいたみがわかる人に」が味わい深い。「よごれたり、汗をかいたり、重いものを持ったりすることをいやがるな」、「けわしい坂をのぼったり、遠まわりすることを損だと思うな」。これは金さん自身の体験から裏打ちされた言葉なのだろう。「この先生はすごい」という推奨の言葉に思わず納得させられた。 「イルムの会」編 新幹社 (2000円+税) TEL:03(5689)4070 (2011.6.22 民団新聞) |