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<在外国民選挙>なにを託した初の1票…本紙記者座談会
子供連れで投票するお母さんも=東京の韓国大使館で

 民団の団員をはじめ、居住国で永住権を有する在外国民や海外に一時滞在中の国民が初めて、国政選挙で1票を投じた。在外選挙人登録・国外不在者申告を行い、有権者となったのは世界で12万3571人、実際に投票したのは45・7%の5万6456人。日本地域は有権者1万8628人のうち9793人で、投票率は平均を上回る52・6%だった。在日有権者はどんな思いで「初の1票」を投じたのか。また、12月の第18代大統領選挙に向けてどう動くのか。本紙記者が語り合った。

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万感こもごも 投票所
健気に、晴れやかに…「やっと国民になれた思い」

 A 日本全国10カ所の投票所に約9800人が足を運んだ。家族連れも随分と目立った。大阪では支部のデイサービスに通うお年寄りたちが誘い合って参加している。有権者たちは当然ながら、1世から4世まで、90代から20歳前後まで、年代も境遇も在日としての履歴も、本国への関心度も異なる。投票した同胞たちはどんな心境だったのか。

待ちに待った胸キュン組も

 B 登録と投票で2回も出向くのか、イヤだ、しんどい、と言っていた同胞でさえ投票の当日、子どもの遠足のようにうきうきしていた。ほとんどの投票者にとって、それぞれの人生の中でも充実した、意義ある1日になったのではないか。全国から寄せられた投票者のメッセージを読んでも、「この日を待ちに待った」「国民として、人間として認められた」と語る人が実に多い。

 C 「投票箱に近づくとドキドキが強くなって」とか、「ジーンときた」とか、ね。78歳になる民団中央本部の元幹部でさえ、「生まれて初めての1票。ちょっと変な気分だ」とはにかんでいた。年齢や経歴に関係なく、皆がみな新人のような健気さ、晴れやかさを見せていた。韓国の政界に顔が広く、事情通で知られる経済人も、どことなく舞い上がっていたのは、微笑ましかったな。

 D 山梨からは93歳の元本部団長、88歳の元婦人会長のご夫妻が駆けつけた。投票が楽しみで、前日、韓国から帰ってきたばかりとか。栃木からも93歳の民団顧問が息子さんに支えられ、5時間かけてきたという。「生まれて初めての投票だ。5時間かける価値は十分にある。韓国が祖国であることを再認識した」という言葉には、さすがに重みがあった。

 B 家族4人できた東京の支部幹部(58)は、「そろって投票できて嬉しい。この制度ができて本当によかった」とニコニコ顔だったけど、となりにいた奥さんは「何をいまさら。遅すぎる。1世がもっと多いときに始めるべきだった」と手厳しかったな。

亡き1世にも思いをはせて

 C 「苦労した1世にこそ、こういう機会を与えたかった」ということだろう。亡くなったアボジやオモニを思い出すのか、同じようなことを口にする人は珍しくなかったね。足を痛めてほとんど歩けない86歳のオモニと電車やタクシーを乗り継いできた2世(神奈川県・65)は、「交通費は高くついたが、オモニにとっては最初で最後の機会かも知れないから」と笑いながら、小声で話してくれた。

 D 「こんな日が来るとは」と感無量の面持ちを見せながらも、納税や兵役など国民の義務を果たしていないのに、「ちょっと複雑な気分」とか、「少々申し訳ない気持ち」とか語る民団幹部がちらほらいた。なんとなく照れもあるんだね。

 B 韓国で何度か投票経験のある新規定住者や留学生たちの何人かは、「日本でもできるのはいいことだ」と言いつつ、「格別なものはない。いつもの気持ちで」とあっさりしていた。でも、在日2世に嫁いだ女性(大阪市・39)は、「韓国で1回投票しただけ。在日韓国人として投票できる感激は大きい」と上機嫌だった。

一時滞在者と温度差大きく

 C 新規定住者でも温度差は大きい。「この制度を永住者にまで適用するのは疑問だ」。こう強調した東京の大学院留学生(25)がいた。韓国の実情も政治家も分からず、まして、在外同胞に対する公約を出している政党がないのに、政党を選ぶのは話にならない、と。

 A 冷ややかな目があるのも事実だ。そうした見解に反論するのは今回の趣旨ではないが、「祖国が国力を伸ばしてこそ、自分たちの浮かぶ瀬がある」との心情から、韓国の躍進に貢献してきたのが在日同胞だ。韓国の政治がよくなって欲しいという願いはどこにも負けない。しかも、国内居住者と違って直接的な利害から離れているだけに、自ずと中長期的な視点から客観的に判断する傾向が強い。このことは強調しておく必要がある。

 D 総じて、思い入れの強さは年配者に目立ったと思う。投票する際に涙を流す人を何人か見た。でも、大阪からは30代の3世が匿名を条件に、「投票箱に用紙を投函した瞬間、胸が熱くなった」と語り、目を潤ませていたという報告もある。投票行為は「半端者じゃない。大韓民国の国民なんだ」という思いの結晶とも言えるのではないか。

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在日は木よりも森を見る
「健全な国」へ願い強く…合議で政党選択した家族も

 A 韓国の政治事情に通じた在日同胞はそう多くない。しかも、選挙管理委員会から各党の政策についての広報があったわけでもない。同胞たちは1票にどんな願いを託したのか。

 B 知識も情報も不足していたのは間違いない。しかし、約9800人のほとんどは自分なりに情報と判断基準を持っていたと思う。だから投票所まで行った。出口調査をしたわけではないが、各投票所に張り付いた記者や通信員の報告によれば、どんな理由でどの政党に投票したのか、ほとんどの人が問わず語りに話してくれている。

 C 選択肢が与党と第一野党など主要政党に限られていたことは否定できないとしても、自身の信条に基づいてきちんと選んだ人は想像以上だったのではないか。「経済的ないっそうの躍進」や「堅固な安保体制の確立」などを最優先にした人がいれば、「格差是正」や「福祉の拡充」を第一に選択した人もいた。皆で話し合い、家族で政党を一本化したと明かす人もざらだった。

韓国の未来に希望を込めて

 D 「原発廃棄を掲げる新政党に入れた」人もいたね。青年会地方本部の会長の1人は、「自分の1票が少しでも、韓国の未来に役立ってもらえたら」と言いながら、「次期大統領に誰がなってもらいたいかを基準に投票した」と明確だった。

 C 「永住者に選挙権は必要なのか」と疑問を投げつけた大学院留学生は、在日を「木を見て森を見ない」存在とでも考えているのか。在日同胞社会の特性を知らないまま、そうした見方が韓国の若い世代に一般化しているとすれば、残念と言うほかない。

在日同胞こそ大所高所から

 B 実際は逆なのに、ね。在日同胞は国民の一部に過ぎない自分たちの、特定の利益などより、国と全民族のことを考えていると思う。植民地支配によって派生した特殊な歴史的背景から、より堂々と生きていきたいという切なる願いが根底にある。投票者が1万人以下なので、これが在日全体の意思であるかのような大言は吐けないが、在日こそ、国の健全な在り方を求める大所高所の見地から投票に臨む集団だよ。このことを改めて確信した。

 C 1万人に届かなかったのは確かに、自慢できる数字ではない。だが、全世界で永住者の選挙人は2万人ちょっとだ。このうち、在日が約1万2000人を占め、しかも、よそと違って4世、5世と代を継いでいる事実を軽く見るわけにはいかない。選挙人と国外不在者の投票比率は公表されないということだが、在日の投票率が相対的に高かったのは、永住者の投票意欲の強さの反映と見ていい。

かろうじての10大政策紹介

 A ここでやや長くなるが、楽屋裏の話をしておきたい。

 投票日が近づくにつれて、地方本部や団員読者から「日本語による政党の情報が一切ない。民団新聞で広報して欲しい」という要望や、「民団新聞がやらずにどこがやる! 時間がない。早くしろ」というお叱りが相次いだ。

 本紙編集部ももちろん、手をこまねいていたわけではない。各政党が任意で公表している政策なら、早めに案内することもできた。しかし、それぞれ個性があって同一基準で括るのは不可能だった。下手に紹介すれば公正・公平を欠いたと指摘される可能性は排除できない。各政党が中央選管委に、所定の要綱に基づいて公式に提出する「10大政策」を要約して紹介しよう。これが本紙の方針だった。

 当初は、3月23日に発表されるはずだった。28日からの投票に間に合わせるには、最悪でも日曜日25日までに降版し、26日には発送しなければならない。その体制をとっていたのに、1日延ばしになった。中央選管委にせっついてもらちがあかない。結局、「10大政策」を入手できたのは、日曜日の午後8時過ぎ、しかも5政党だけ。懸命に作業しても26日降版の27日発送になってしまった。

 それでも、27日にはHPに載せ、29日までには全読者に配達されたはずだ。団員はもちろん選管委からも感謝された。内心忸怩たるものがあるが、最低限の責任は果たせたかな、と思っている。これを反省材料に、大統領選挙には万全の姿勢で臨みたい。

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大統領選挙へ早くも関心
参与率大幅増を確信…民団の活性化にも手応え

 A 各投票所に20の政党名がハングルと日本語で掲示されていた。これを見て、「5、6政党だと思っていたのに、こんなにあるの?」と驚き、選挙管理委員会の人から「この他にもまだありますよ」と聞かされて、あきれた表情の選挙人も多かった。国会議員選挙を前に、政党の統合や離脱新党の結成、名称変更もあって分かりにくかったことが、投票意欲を一部で減退させたのは否めない。

 D 大統領選挙はまったく様相が異なる。誰が大統領になるべきかを基準に政党を選んだ、という青年会幹部がいたが、在日有権者の声を集約していると思う。話を聞いた投票者のほとんどが、「次の大統領選挙が楽しみだ。投票の感激を周囲にも伝え、参加を呼びかける」と話している。関心は今から高い。

 B 公館所在地から遠いある地方本部の事務局長は、「数値目標を掲げる問題ではない」と念を押しながらも、「うちの本部の投票者数は3倍になる」と自信たっぷりだった。

本国の政治が身近になった

 C 大幅に伸びるのは間違いない、というのが民団幹部らの一致した見解だ。なによりも、初の投票を機に韓国の政治に対する関心がものすごく高まった。今回の選挙は大統領選挙への助走だ。こうした手応えをひしひし感じたと口をそろえている。

 B 「投票権をもらえたことで、本国の政治ニュースを気にかけ、各政党の政策資料を見ながら、真剣に考えるようになった。より多くが選挙人登録するよう今から力を入れたい」(民団愛知支部幹部・72)とか、「本国への関心向上は民団への関心に転換する。組織の活性化につながるのは間違いない」(民団栃木幹部)などの意識が共有されたのではないか。

 D 青年会大阪の幹部は、「活動しながらも韓国を身近に感じることはなかった。今回の投票でがらり変わって、会員たちの本国への関心は確実に高まった。大統領選挙に向けて、青年会活動にも今から力が入る」と目を輝かせていた。

 A 今回の選挙ではまず、旅券所持が必須など選挙人登録の要件の厳しさや手続きの煩雑さ、投票所が少ないことにともなうアクセスの悪さ、各政党の政策広報の不手際など、いくつもの隘路があった。逆に、課題も鮮明になり、制度の一部改善も期待できる。政治的関心が増幅されていくのは必至だ。在日の存在感を示せるだろう。

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隘路克服へ制度改善急務…郵便受付や代理申請など

 海外各地で223万人余と推定された在外選挙の潜在的な有資格者のうち、選挙人登録申請もしくは国外不在者申告を行い、名実ともに有権者となったのは12万3571人。日本地域は1万8628人だった。日本地域を除けば一時滞在者がほとんどで、永住資格を有する在外選挙人は2万36人と極めて少ない。日本地域がその半分超の1万189人を占めた。

 今回の国会議員選挙で投票した在外有権者は5万6456人、投票率は45・7%だった。日本地域は9793人で、投票率は平均を上回る52・6%。ちなみに、在外選挙人と国外不在者の投票比率は公表されない。

予想下回った各国の投票率

 これらの数値は、韓国関係機関の当初予想をかなり下回った。大統領選挙に比べて国会議員選挙に対する関心が低かったのも一因とされる。しかし、主たる要因として制度上の障害をあげる声は大きい。

 まず、国内での選挙とは異なり、在外選挙では必ず事前に申請・申告をしなければならない。永住権者の場合は特に、投票だけでなく登録申請も本人が公館に直接出向かねばならない。しかも、登録申請の必須要件である旅券所持者が予想外に少ない事情もあった。

 このような指摘を受けた中央選挙管理委員会では、在外選挙の公正性を損なわない範囲内で、選挙参与率を高めるべく検討に入っている。

 具体的にはまず、在外選挙人として登録済みであれば、以後の選挙にも継続有効な永久名簿制度の導入がある。国外不在者申告と同じように、永住権者である在外選挙人の登録申請の郵便による受付のほか、在外投票管理官が指定する公館職員による巡回領事制度を活用して、公館外でも受付を可能にする。また、日本の在外選挙では同居家族の代理申請が可能なことを参考に、登録申請については直系家族に限り代理を認める。こうしたことが想定されているとのことだ。

 東京の投票所では、88歳の同胞が登録申請書を作成し、それを持参して訪れたものの、申請手続きをしていなかったため、投票できず憤慨する事例があった。選管委では、制度が改善されればこうした不幸な事態をなくせる、としている。

 今ひとつ、選挙人が投票用紙の交付を受けた後、受領確認機に指先を当てる手続きに一部で強い反発があった。選管委はこれについて、指紋押捺に拒否感を抱く在日同胞が多いことを踏まえ、拇印もしくはサインを選択できるよう改善することも必要としている。

 このほかにも、投票開始時間を遅らせてでも、午後8時くらいまでに延長すること、横浜や神戸では公館以外の施設が投票所になったことを前例に、民団会館などを活用し投票所を増やすことなど、民団や選挙人から多様な改善要求が出ている。

(2012.4.12 民団新聞)
 

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