地方本部 HP 記事検索
特集 | 社会・地域 | 同胞生活 | 本国関係 | スポーツ | 韓国エンタメ | 文化・芸能 | 生活相談Q&A | 本部・支部
Home > ニュース > 韓国ニュース
米議会で演説する安倍首相タイトロープどう渡る
複雑な3国関係(2014年3月25日、オランダ・ヘイグでの韓米日首脳会談)

■□
負担になる自国の空気
たとえば「八紘一宇」発言…怖い知覚なき独善

 「八紘一宇(はっこういちう)」は、肯定的なニュアンスで使われてはならない言葉である。それを、自民党の三原じゅん子参議院議員が予算委員会で、「日本が建国以来大切にしてきた価値観」だと得意げに持ち出した。経済のグローバル化にともなう租税回避問題についての質問だった。

 「税の歪みは国家の歪み、世界の歪みにつながる。八紘一宇の理念の下に、世界がひとつの家族のように睦み合い、助け合えるように、そんな経済、および税の仕組みを運用することを確認する崇高な政治的合意文書のようなものを、安倍総理こそがイニシアチブを取って世界に提案していくべきだ」(要約)

 「八紘一宇」とはそもそも「建国以来大切にしてきた価値観」などではなく、大正時代のある国家主義的な宗教家による造語だ。天皇を家長に「全世界(八紘)」を「一つの家(一宇)」にまとめようとの意を込めたとされる。

 大陸戦線を泥沼化させていた日本が太平洋戦争に突入する前年の40年、第2次近衛文麿内閣は「八紘を一宇とする」精神にもとづき「先づ皇国を核心とし、日満支の強固なる結合を根幹とする大東亜の新秩序を建設する」とうたう「基本国策要綱」を決定した。

 「八紘一宇」は、アジア侵略を美しく正当化するために、「大東亜共栄圏」とならんで流布されたキーワードである。来歴からして、崇高な理念として世界に提案しようなどと口が裂けても言える代物ではない。

 三原議員に深謀遠慮があったわけではあるまい。ウヨク系からインプットされたものを単に生かじりしただけであろう。それでも聞き流せないのは、思い上がりが度を超す日本の風潮を象徴するからだ。

 歴史の「負」から目を遠ざける一方、テレビ番組などで日本の特殊性をやたらと強調し、あれがすごい、これが素晴らしいと称賛する現在の空気をはからずも映し出した。

「アンブロークン」上映阻止する動き

 「負」を見ようとしないどころか、なかったことにしようとする動きにも、ますます自制が働かなくなっている。日本にもファンの多い人気俳優アンジェリーナ・ジョリーさんが監督した「アンブロークン」が「反日映画」とされ、ボイコット運動にあおられて日本では公開のメドすらたっていない。

 この映画は全米ベストセラーのノンフィクションが原作で、日本軍の捕虜になった米国の元五輪陸上選手の半生を描いた。主人公は捕虜同士で殴り合いもさせるような激しい虐待を受け、戦後も心が癒えず復讐心に苛まれながらも、キリスト教の「赦し」の教えに救われていく。そして、1998年の長野冬季五輪に80歳の聖火ランナーとして訪れる。

 映画については、虐待場面が意味もなく執拗に描かれているとの見方もあれば、「赦し」に至る心の過程を主題にしており、人間の強さ、生命の尊さを考えさせられるとの受けとめ方もある。

 映画評はともかく、上映阻止運動はやはり異様と見なければならない。同じく日本軍の捕虜虐待を扱った「戦場にかける橋」(英米合作。57年)、「戦場のメリークリスマス」(大島渚監督。英米豪など合作。83年)が上映された時代に比べ、日本社会の空気はひどく汚染されてしまった。

■□
「70年談話」めぐる議論
同盟ゆえのリスクを共有…米国の視線も敏感

 こうした空気を背景に、その空気をつくり出した張本人でもある安倍晋三首相は、「戦後70年」の談話づくりに意欲を燃やしている。骨格は▽先の大戦への反省▽戦後の平和国家としての歩み▽アジア太平洋や世界への貢献の在り方になるという。

 「戦後日本」の還暦から10年という節目だけに、未来への決意を表明するのは当然としても、足場になるのはやはり過去との向き合い方だ。「村山談話」(戦後50年)や「小泉談話」(同60年)にある「植民地支配と侵略」「痛切な反省」「心からのおわび」の文言は踏襲されるのか、早くから注目を集めてきた。

 しかし、過去への姿勢が危ぶまれている。「ぶれない」と言いながらぶれてきたからだ。たとえば、13年4月の参院予算委員会で「安倍内閣として、(村山談話を)そのまま継承しているわけではない」と述べて批判されると、その後は「全体としては受け継いでいく」に修正した。

 「侵略」の文言についてもそうだ。13年5月の政府答弁書で、「国際法上の侵略の定義については様々な議論が行われており、確立された定義があるとは承知していない」とし、国会でも同様の発言をした。その後はやはり、「安倍内閣として侵略や植民地支配を否定したことは一度もない」と改めている。

安倍首相の本音と批判かわしの煙幕

 安倍首相の信条からすれば、いずれにおいても前者が本音で後者は批判をかわすための「煙幕」だろう。「70年談話」がどのような内容になるのか、その輪郭は4月末に予定されている訪米で、ある程度明らかになるかもしれない。安部首相は、米議会上下両院の合同会議で日本の首相として初めて演説する方向だ。

 合同会議での演説者は両院議員の起立・拍手で迎えられる。「我々のもっとも親しい友人のためにある」(オバマ大統領)とも言われるほど格式が高い。ちなみに、各国要人による演説回数は最多の英・仏・イスラエルがそれぞれ8回で、韓国は13年5月の朴槿恵大統領を含め計6回。英仏に比べても遜色なくアジアではもっとも多い。

 安倍首相には、最近まで世界第2位の経済力をもった同盟国でありながら、その機会を与えられなかった国の首相として意地があろう。第2次世界大戦終結から70年という記念すべき年に、しかも戦勝国の総本山のふところで日本の決意を披瀝する高揚感もあろう。演説に向けた意欲には天を突くものがあるに違いない。

 しかし、相応のプレッシャーもかかる。内容は凡庸であってはならず、そうかと言って当の米国はもちろん、韓中などの新たな反発を招いてはならないからだ。軍事法制を着々と整えていることを手土産に、日米同盟のいっそうの強化をうたい上げるとしても、その強化と密接にかかわる韓国との関係改善を担保する歴史認識も問われるほかない。

 ホワイトハウスのライス国家安全保障担当補佐官はそれを念頭に、安倍首相の露払いとして訪米した谷内国家安全保障局長と会談(今月17日)した場で、「冷え込んでいる韓国との関係を強固にすることが重要だ」と念を押した。オバマ大統領をはじめ米国要人による同趣旨の発言は、これまでも繰り返されてきた。

 米国各界の空気も敏感になりつつある。太平洋戦争時にフィリピンで捕虜になった元米兵らで構成され、議会にも大きな影響力をもつ有力団体が声明で、安倍首相の演説に条件をつけたのがその一例だ。韓国各紙によれば、同団体の代表は要旨次のように強調している。

 「09年にようやく元米兵捕虜に公式謝罪した日本が、東京裁判を否定する安倍首相になり、これを覆す動きを見せている。演説するなら歴史的な和解の演説でなければならず、その第一段階は過去の過ちを認めることだ。米議会はオバマ政権とともに、日本が責任を負い続けるようにしなければならない。議会の演壇は(真珠湾攻撃を受けて対日宣戦布告を行った)ルーズベルト大統領、(ナチスに毅然と対抗した)チャーチル英首相が演説した所でもある」

大戦後の世界秩序崩そうとするのか

 下院外交委員長の専門委員をながく務めた東アジア問題の専門家、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院のデニス・ハルピン招聘研究員も今月、外交安保問題の専門誌への寄稿でこう警鐘を鳴らした。

 「日本には社会の指導層、政治家、ジャーナリストのなかにも歴史修正主義者がいる。従軍慰安婦や南京大虐殺のような太平洋戦争当時に犯された日本の犯罪に沈黙すれば、結局は第2次世界大戦以降の連合国がつくり上げた世界秩序はまるごと崩壊してしまう」

 韓中両国と日本の角逐が持ち込まれていることもあり、米国社会の従軍慰安婦問題への関心は高い。米有力メディアも安倍訪米を前に論陣を張る可能性がある。昨年末の総選挙前にも、各紙がこの問題で日本を相次いで批判した。

 タイトルはロサンゼルス・タイムズが「歴史を否定する日本」(社説)、ワシントン・ポストが「歴史書き換え癖と日本の未来」(コラム)、ニューヨーク・タイムズが「日本の歴史洗浄」(社説)だった。WP紙は「日本の主流メディアが政府と組み、第2次世界大戦時の性奴隷動員について『歴史洗浄』をしようとしている」と書いた。

 米国の歴史学者20人が米歴史協会の会報3月号に連名で、「歴史教科書の記述を抑圧しようとする日本政府の最近の試みへの失望」を表明し、「我々は事実を明らかにしようと取り組んできた日本や他国の多くの歴史学者とともに立ち上がる」との声明を発表した。昨年12月、米国の公立高向け教科書に載った従軍慰安婦の記述に訂正を求めた日本政府への批判である。

 安倍首相による演説へのハードルはかなり高く、それを超えてもいくつもの落とし穴が待ち受けている。当然、米国にもリスクがともなう。安倍首相の歴史観にお墨付きや免罪符を与えるようなことになってはならないからだ。

■□
避け難いドイツとの比較
過去への姿勢、世界の範に…逃げず 向き合い

 過去に、日本の首相による合同会議での演説が実現する可能性もなかったわけではない。小泉純一郎首相が06年6月の訪米を前に、真剣に模索したことがある。しかし、小泉首相が演説後に靖国神社を参拝することが懸念され立ち消えになった。

 当時の米下院外交委員長が下院議長にあてた書簡は、靖国神社に合祀されているA級戦犯に首相が敬意を示せば、真珠湾攻撃の直後にルーズベルト大統領が演説した議会のメンツをつぶすことになるとも言及していた。小泉首相が靖国を参拝したのはその年の8月15日である。

 安倍首相も13年2月の訪米に際して、合同会議での演説をめざしたという。実現しなかったのはやはり、露骨な歴史修正主義のためだとされる。安倍首相が靖国を電撃参拝したのは、同年12月の就任1周年を期してのことだった。米政府が「失望」の意を強く表明したことはよく知られるところだ。

 外交委員長の書簡にはもうひとつ重要な内容があった。真珠湾攻撃を記憶する世代にとって、首相の議会演説と靖国参拝が連続するのは懸念にとどまらず、侮辱されたことを意味するとし、演説後に参拝はしないと議会側が理解し、納得できるような何らかの措置をとるよう求めるものだった。

 この書簡からすでに9年が過ぎた。しかし、それが示した精神は今も生きている。元捕虜らの有力な団体が安倍演説に条件をつけたのがその証だ。第2次大戦時に枢軸国を構成したドイツが5回(西ドイツと統一ドイツの合計)、イタリアが6回も合同会議で演説している。日本にはなぜその機会が与えられなかったのか、安倍首相はとくと考えるべきだろう。

 オバマ大統領は昨年11月に安倍首相と会談(G20・オーストラリア)した席で、ドイツが近隣諸国と和解を推進した事例をあげ、韓日関係の修復に向け日本側が積極的に局面打開をはかるよう強く求めたと共同通信(12月13日)が伝えた。日本はどうしてもドイツと比較される。メルケル首相の来日で注目されたのも、歴史認識・和解をめぐる発言だった。

 「ナチスによる虐殺にもかかわらず、ドイツが再び尊敬を受けることができたのは、過去と正面から向き合ったからだ」(朝日新聞主催の講演会)。「過去を総括することが和解の前提だ」(首脳会談後の記者会見)。「日本と韓国は価値観を共有している。慰安婦問題をきちんと解決することが望ましい」(岡田民主党代表との会談)。

メルケル独首相はやんわりと厳しく

 ドイツの主要メディアは、安倍首相の歴史修正主義的な動向に厳しい態度を見せてきた。読売新聞(20日付)は、「南ドイツ新聞(電子版)は相変わらず『ドイツと違い今日に至るまで近隣諸国に与えた災禍に対する責任をとろうとしない』日本に対し、メルケル氏は『綿にくるんだような間接的な批判』を行ったと報じている」と論評した。メルケル首相は岡田代表との会談で「性奴隷」との表現まで用いて従軍慰安婦問題に踏み込んだほかは、日本を直接批判することなくドイツの経験を語って聞かせるスタイルをとった。それでも歴史修正主義を牽引するメディアの耳には痛かったようだ。

 読売新聞の先の論評は、「ドイツメディアや知識層の対日イメージが偏ったまま」だと嘆き、産経新聞(11日付)は、「戦前・戦中の日本では、兵士らの暴走による戦争犯罪はあっても、ナチス・ドイツのような組織的な特定人種の迫害・抹殺行為など全く行っていない」とし、日本とナチスとの「混同とも受けとれ、問題」だと非難した。メルケル発言をくさそうとするあまり、戦争指導者を守って兵士に罪を着せていることにすら気づかないらしい。

 メルケル首相の真骨頂は、朝日新聞主催の講演会にこだわったことであろう。同紙の従軍慰安婦問題での誤報を叩きつつ徹底利用することで、慰安婦たちの悲劇そのものをなかったかのようにしようとする歴史修正主義勢力に対して、彼女の明確な意思が示されたと言えるからだ。

 米国はアジア重視戦略にもとづき、朴槿恵大統領、習近平国家主席のほかアジア各国首脳の年内訪米を招請している。安倍首相の訪米時の言動が、米国のアジア戦略に大きな影響をもたらすのは必至だ。安倍首相は自らの支持基盤をもにらみつつ、米国をはじめ韓中両国にいかなるメッセージを発するのか。タイトロープを渡る思いであろう。

(2015.3.25 民団新聞)
 

最も多く読まれているニュース
差別禁止条例制定をめざす…在日...
 在日韓国人法曹フォーラム(李宇海会長)は7日、都内のホテルで第6回定時会員総会を開いた。会員21人の出席で成立。17年度の報告があ...
偏見と蔑視に抗って…高麗博物館...
 韓日交流史をテーマとする高麗博物館(東京・新宿区大久保)で企画展「在日韓国・朝鮮人の戦後」が始まった。厳しい偏見と蔑視に負けず、今...
韓商連統合2年、安定軌道に…新...
金光一氏は名誉会長に 一般社団法人在日韓国商工会議所(金光一会長)の第56期定期総会が13日、都内で開かれた。定数156人全員(委任...
その他の韓国ニュース
韓国伝統の4山寺…世界文化...
3寺は見送り 韓国が世界文化遺産への登録を申請していた「韓国の伝統山寺」7寺について、登録の可否を事前審査する国連教育科学文化機...
<訪ねてみたい韓国の駅29...
開業100年、世界遺産の玄関 歴史ある古都の玄関には、それにふさわしい風格が備わる。韓国の古都と言えば、新羅の都、慶州だ。その玄...
◆スーパージュニア 中南米...
 4月20日から27日にかけてアルゼンチン、ペルー、チリ、メキシコで行われた韓国の人気ボーイズグループ、SUPER JUNIOR...

MINDAN All Rights Reserved.