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サラムサラン<15> エンジュの木の下に<上>
 北京はエンジュの並木が美しい町だった。1990年にこの町で開かれたアジア大会の報道陣の一員として、私はひと月あまり秋の北京に滞在した。宿は郊外の外資系ホテルだったが、近くに庶民的な食堂を見つけたので、足を運ぶようになった。エンジュの木陰に建つ15人も客が入れば満員になる小さな店で、60に手が届くかという母親と、その息子と嫁らしい女性が働いていた。初めは漢字のメニューを頼りに注文したが、何度目かに寄った時、家族の交わす会話が中国語でないように感じた。耳をそばだてると、訛りはきついが韓国語である。それならと私は韓国語で挨拶し、話をするようになった。

 彼らは延辺朝鮮族自治州の出身で、北京で食堂を始めて間もないとのことだった。母親は数カ月前に韓国を旅行したばかりで、初めての「祖国」訪問の印象を熱っぽく語った。ソウルの発展ぶりが自慢らしかった。やがて私は、朴龍變という名の息子と親しくなった。私より数歳年下だった。

 ある晩のこと、朴君と話し込んでいると、突然、怒鳴り声とともにドアが乱暴に開けられた。泥酔した男が、包丁を手に立っている。テーブルと椅子を男は足蹴にし、ビール瓶が床に落ちて、派手に砕け散った。実は男は飲み屋を営む隣家の若主人で、朝鮮族の一家が店を出して以来、客の入りが悪くなったと逆恨みをして、時々喧嘩を売りに現れるのだという。

 朴君は激することなく、落ち着いて応対した。私のほうが慌ててしまって、男の前に立ちはだかり、アジア大会のプレス章をかざしながら、日本語や英語、知っている限りの中国語で、男を制止しようと言葉を重ねた。妙な外国人の出現に勝手が違ったのか、男の怒りは矛先が鈍くなり、その隙に、主人を追ってきた隣家の女店員が2人がかりで男を後ろから抱きとめ、朴君は包丁を奪った。男は罵詈雑言を吐きながら、女たちに抱えられるように店を出て行った。

 その晩は店を早仕舞いした。いったんは退却したものの、男が仲間を得て再び襲ってくる可能性があるとのことだった。ドアに鍵をかけ、電気を消して、ロウソクの暗い光の中で話を続けた。「延辺ならば、あんなやつ、許しはしないのだけど」‐、朴君は悔しそうに唇を噛んだ。中国人民の義務として兵役にもつき、潜水艦でのつらい軍務にも耐えた。だが、自分らのような少数民族は永遠に国の主役になれない…、朴君は言葉を詰まらせた。

 騒ぎの間は終始落ち着いていた彼の目から、涙がこぼれた。私は返す言葉もなく、朴君の肩を抱くしかなかった。

多胡 吉郎

(2009.12.23 民団新聞)
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