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北の生活もっと関心を 「クロッシング」のキム・テギュン監督 |
「泣き声に耳傾けて」
何も知らない自分恥じ制作
北韓炭鉱労働者家族の苛酷な脱北の実態を描いた、「クロッシング」(配給=太秦)。厳しい状況のなかで製作に4年の歳月を費やしたキム・テギュン監督(49)は、この映画を通じて、多くの人たちに「脱北者たちの泣き声を聞いて欲しい」と話す。
脅迫やテロ恐れもした
−−難しいテーマだけに制作過程で葛藤があった。
キム監督 この映画は北韓に対して、温かい目で見守るという盧武鉉政権の時代に制作した。取材開始が04年、完成したのが08年。企画段階から極秘裏に進行させ、政権が変わった後に公開した。こういう映画には政治的にも複雑な反応が予想されたし、中国やモンゴルなど撮影現場でもいろいろ困難があった。
脅迫されるのではないか、テロが起こるのではないかという恐怖心もあった。また、こういう内容に関して韓国の観客は関心が低く、資金集めも大変だった。
韓国国民のほとんどは北韓に対して、持続的な関心は持っていないと思う。北韓問題は政治的にいつも利用されてきたから、あまり考えたくないという面があるのではないか。
ただ、この映画の上映会などを通して日本の状況を知って感じたことだが、日本の方が脱北者や北韓の人権や状況について詳しく知っているし、関心は高いと思った。
−−厳しい状況のなかで、映画化に踏み切ったのは。
キム監督 脱北者たちに会って話を聞き、資料を集めていくうち、片一方の民族が大変な目にあっているのに、自分が何も知らなかったことに、恥ずかしいという気持ちが生まれたからだ。
−−家族の絆が色濃く描かれている。
キム監督 100人以上の脱北者から実際に取材した。最初に驚いたことは、北韓の体制のなかで生活し、大変な思いをするなかでも、家族は壊せないという現実だ。
韓国の国民は北韓について、政権と住民を一つのまとまりと考えているところがある。同じ言葉を話している同じ民族なのに、違う国のように考えてもいる。そういう意味で同じ民族がいる、同じ人間がいるということに、関心を持たせるように表現した。
−−映画で脱北者の悲劇性が痛いほど伝わったが。
キム監督 取材した脱北者一人ひとりの話をそのまま表現したら、あまりにも酷い状況だけに、観られる映画にはなっていない。自分が感じた十分の一でも表現できればいいと思った。何かを告発したかった訳ではないから。
映画を観た方たちに、新しい感情が生まれるようにしたかった。涙が出たとすれば、そういう感情が生まれたことになる。脱北者や北韓に対する視線が変わるはずだ。
−−9万人以上の在日同胞が北送事業によって北韓に渡った。
キム監督 在日のことは梁石日さんの小説や在日をテーマにした映画を観て知っている程度だった。韓国上映からこの2年間、「クロッシング」を通してたくさんの人と会い、話を聞くことができた。北送事業では同胞の皆さんが今も心を痛めていることや、拉致問題がここまで大きな問題なのかというのも知ることができた。
世界各地で上映の喜び
−−国際的にも大きな反響を呼んでいる。
キム監督 この映画ができて2年が経ったが、完成の喜びは今も新鮮だ。報道で知ったことだが、ワシントンの米議会図書館で試写会があったのをはじめ、カナダやヨーロッパでも議会や各映画祭、市民団体から上映の招請がある。
北韓に対する間違った情報も多い。今でも先生方が教材としてこの映画を使い、ローマでは人助けをする団体の会議でも上映された。いろいろな場所でこの映画が正しいことに使われていることが嬉しい。
危険の中で生きる人達
−−観る人々に特に強調したいことは。
キム監督 北韓の人々の窮状はもちろん、脱北者が中国とその周辺国に約30万人いて、彼らはどこにいても自分の身柄を保証されない危険な立場にいることを知ってほしい。彼らは助けがなければ、社会に適応することも生きて行くこともできない。
すぐには解決できないとしても、酷い思いをしている人たちの泣き声を聞いてほしい。
◇
「クロッシング」上映は4月17日、東京、名古屋を皮切りに、全国で順次公開される。
(2010.3.31 民団新聞)
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