| キム・ファン『こいぬのうんち』文 クォン・ジョンセン/絵 チョン・スンガク/訳 ピョン・キジャ/平凡社
| | 『こころの家』文 キム・ヒギョン/絵 イヴォナ・フミエレフスカ/訳 かみや にじ/岩波書店
| | |
個性豊かに作家育つ 国際図書展で連続大賞 豊かな民族性で国際的に高い評価を得てきた韓国絵本。しかし、今や世界をけん引する立場となった。日本の絵本を世界的なレベルに育てた福音館書店の相談役、松居直氏は、2005年のインタビューで、「私は世界的にみて、今の韓国絵本はもっとも充実していると思います」と語った。 それから6年が経った11年、心を家にたとえて語る文と、西洋と東洋が重なり合うような絵が深い感動を呼ぶ『こころの家』が、「絵本界のノーベル賞」といわれるボローニャ国際児童図書展の大賞、「ボローニャ・ラガッツィ賞」を受賞した。何と今年も大賞を受賞! 2度の大賞受賞という快挙を成し遂げたのだ。 振りかえれば90年代までは、韓国の書店に本格的な「単行本」絵本はなかった。絵本といえば「全集」のみ。世界名作シリーズのような翻訳絵本のセットが売られているだけで、気に入った絵本があっても1冊だけで購入できないというありさまだった。そんな現実を変えたのが、「韓国絵本の出発点」といわれる88年に出た単行本絵本『岩になった巨人』だ。白頭山に源を持つ民族の大叙事詩を、力感あふれる西洋画で表現した。 90年代に入ると流通にも新しい動きが起き、ようやく書店にも単行本絵本が並ぶようになった。それに呼応するかのように、伝統文化を大切にする民族性豊かな韓国オリジナル絵本が、どんどん生まれていったのである。 韓国絵本が日本で認められるようになったのは、00年に『こいぬのうんち』が出てからだろう。ぼくなんて、何の役にも立たない…。自らの存在価値を見い出せなかったうんちが、生きる意味を知る物語だ。「韓国の絵本なんて売れないよ」と冷ややかにみていた人たちの予想を裏切り、朗読CDやDVDが発売されるほどの大ヒットとなった。 成功の裏には、いくつもの出版社にお願いして回った人たちと、地道に手渡しで売った人たちの努力があったことを忘れてはいけない。01年には、ソリちゃん一家の里帰りの移動を描いた『ソリちゃんのチュソク』が、青少年読書感想文全国コンクールの課題図書となり、ますます翻訳出版されるようになっていったのだ。 近頃私は、今までにない光景を目にしている。ひと昔前までは韓国の出版関係者が東京・神田の古本屋を巡り、自国でまだ発売されていない日本や海外の絵本を購入し持ち帰って翻訳出版していた。ところが昨今は、海外の秀作絵本が日本よりも先に韓国で出ることが多くなっているのだ。 実は、「ボローニャ・ラガッツィ賞」を2度受賞した画家は、韓国人ではなく、ポーランドの画家、イヴォナ・フミエレフスカだ。 イヴォナはいう。 「韓国は作家としての私の人生がはじまった場所。ここは、私が求めている哲学的で多少難しいテーマを思いっきり描かせてくれるので、とてもいい」 海外からも出版希望者 そう、有名だから彼女に絵を依頼したのではなく、無名だった彼女を発掘して世界一にまで育てたのが、他でもない韓国なのだ。 しかし韓国は市場が小さい。それを補おうと、版権輸出にとても熱心だ。つまり韓国で出すと世界で読まれる。 第2、第3のイヴォナを夢みて、韓国での出版を希望する海外の作家も増えている。何を隠そう、私もそのうちのひとりだ。 韓国絵本は、ますます世界に広がっていくことだろう!
■□ プロフィール キム・ファン 1960年京都市生まれ。絵本作家、児童文学作家。06年に『Cサクラ‐日本から韓国へと渡ったゾウたちの物語‐』(学研教育出版)で、第1回子どものための感動ノンフィクション大賞最優秀作品。07年に韓国語版も。11年韓国で出した絵本『둥지상자』(巣箱)が、第4回CJJ絵本賞に選ばれる。紙芝居『とんだとんだ! コウノトリ』(童心社)が、福井県の道徳副読本(東京書籍)の原作となる。 |