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サラムサラン<2> 詩人の誕生する時
 光復(終戦)50年にユン・ドンジュのドキュメンタリー番組を制作した折、詩人の甥にあたるユン・インソク(尹仁石)さんの家で、「空と風と星と詩」の詩稿を撮影させていただいた。出版を望みながら、内容が時局にそぐわないとして果たせず、やむなく手書きで残した「詩集」の生原稿を前に、身が震えた。

 そこで気がついたのは、表紙に「空と風と星と詩」とタイトルが書かれたその横に、「病院」という文字がいったんは記され、消された跡があることであった。コクヨの原稿用紙に、はっきりとその跡が刻されている。

 延禧専門学校(今の延世大学)在学中に書き溜めた詩を1冊の詩集にまとめる際、初めは「病院」と題するつもりであったのが、最終段階になって、「空と風と星と詩」と、タイトルを変更したものらしい。「序詩」はその変更に伴って書かれ、巻頭に付された。

 なるほど、植民地支配という歪んだ土台の上に、ファシズムの嵐が吹き荒れ、創氏改名など極端な日本化が強制された1940年頃の世の中は、まさに「病院」以外の何物でもなかったろう。社会も人も、すべてが病みに病んでいた。詩人の繊細な感性は、時代の病に特に敏感だったはずである。

 だが、ユンは「病院」というタイトルを捨て、「空と風と星と詩」と改めた。この変更の意義は、タイトルに留まるものではない。詩を軸にしたユンの世界観そのものが、翼を得てひときわ飛躍したことを物語る。絶望に打ちひしがれ、病院に閉じ込められた「患者」が、詩によっておぞましき閉塞の場を脱し、大きな生命の宇宙に身を解き放ったのである。この時、詩人は真の詩人になった。ユンの詩の文学的生命は、時を超え、民族も国境も越えた。

 時代は闇の坂を転落していく。太平洋戦争の勃発、戦時繰上げ卒業と慌しく世が動くなか、ユンは孤独の淵に思想を熟れさせ、「空と風と星と詩」の世界を開眼させていった。それは、単純に短調から長調へというようなことではなかったかもしれない。しかし、トンネルを抜けるように、暗闇の先に光を見出したことは間違いない。

 私は、奇跡の時を見るような思いに駆られる。20歳そこそこの青年が、暗黒の時代にたどり着いた境地の澄んだ高さを思うと、涙がとまらない。 生前、彼の詩集はついに世に出なかった。一学生として、彼は生き、死んだ。だが、ユン・ドンジュは間違いなく真の詩人だった。その詩は、宇宙の命と唱和するように、永遠の調べを詠い続ける。(作家)
多胡 吉郎

(2009.3.11 民団新聞)
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