今年、7回目を迎えた「韓食世界化専門人養成スクール」(主催・全州国際韓食調理学校、10月13日〜29日、東京・新宿区で開催)で、初めて韓国の精進料理を3日間にわたって指導した白羊寺(全羅南道長城郡)の正寛スニム(僧侶)。10年以上熟成させた醤油をはじめ、境内で栽培した食材などを持参し、丹精込めて料理の数々を完成させた。現在、仲間たちと代々伝わる精進料理のレシピ作りをはじめ、一般化されていない料理などの見直し作業にも取り組んでいる。伝統守り、知恵磨き 「韓国の寺の精進料理は、ご飯、スープ、チゲ、ジャンユ(醤油や味噌)、おかず、チャンアチ(野菜を醤油、味噌、酢などに漬けたもの)など、いろいろなものが出ます。一つの食材でも作り方によって多様性があるし、季節によっても違う」 韓国精進料理の調味料は醤油、味噌、塩がメーン。醤油は手作りで10年以上熟成したものを使う。日本の納豆よりも匂いが強く、独特のクセのあるチョングッチャンも欠かせない食材だ。 以前、東京と大阪の4カ所の寺を回り、精進料理を食べた。「そのときはどこも豆腐料理がメーンだった。日本は韓国に比べて味のインパクトがない」と感じたという。 スニムが料理に関心を持ったのは5歳から。料理上手だった父親の料理を食べてきた。7歳のとき、農作業に追われた両親に代わり、小麦粉ときな粉を入れたカルクッスを作った。「両親からおいしいと言われたのをきっかけに、もっと作りたいと思った」 父親から「一つの食材で7種類の料理ができれば最高」という話を聞いてきたスニムは、料理への関心を深めていく。 17歳で寺に入った。最初の1年はご飯炊きに専念した。白羊寺には各地からやってきた大勢の僧侶が暮らす。味の好みはばらばらで、文句が出たことも。 「料理に大事なものは知恵」。焚き火でご飯を炊いたとき「大きな釜に水を入れた後に米の高さを変えて堅い、柔らかい、普通の3つを同時に焚いた」。3種類のご飯を出された僧侶たちはびっくり。カクテギも大根の大きさや厚み、味付けを変えて7、8種類を出した。 「すごく褒められたのがきっかけ。精進料理を作りながら、釈迦の教えを知らせるのが私の役割ではないかと思い、料理を担当したいと思った」 2009年、李明博政府時代に「韓食の世界化」が提唱・推進された。同年5月には官民共同の「韓食世界化推進団」設立。10年に「世界韓食広報祭り」がニューヨーク、ワシントンD.C.、香港、仙台、東京で開催され、ワシントンD.C.を担当した。 翌11年には政府の政策により、精進料理を一般化させるための活動が始まる。ソウル・鍾路区の曹渓寺で、一般向け精進料理の講習を行った講師の第1号がスニムだ。その後、ソウルや釜山などで精進料理レストランが次々に開店した。 だがそれは、飾り付けが派手であったり、寺の精進料理とは異なるものが一般化されてしまったと話す。数年前から、伝統を守った精進料理を一般の人に紹介する運動を行っている。「寺ではこれしか食べないという正しいものを、誰が来ても作らないといけない」 正寛スニムが所属する大韓仏教曹渓宗の韓国仏教文化事業団(ソウル・鍾路区)は先月当地に文化センターを開いた。「海外の方に韓国の精進料理を見せることができる」と喜んでいる。さらに、今後機会があれば、日本の寺で見習いをしながら精進料理の違いを勉強したいと話した。 (2015.12.9 民団新聞) |