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サラムサラン<17> クレクレ(そうかい)
 1995年、NHKとKBSが共同で制作した尹東柱の特集番組を演出したことは、私の放送局人生を画する記念碑的な出来事だったが、この人がいなかったなら番組は成立しなかったろう。当時、KBSの制作局長だった李興柱氏である。

 初めて会ったのは1985年の正月、知人の紹介を得て汝矣島のKBSを訪ねたのだが、その夜開かれた制作部門の新年会に私を連れて行ってくれた。おおらかで、気さくな人柄は、初対面の時から顕著だった。

 李さんは足が悪い。歩く時に右足を引きずり、肩を揺らす。幼い頃からの障害らしい。しかし、その精神に、挫けたようなところは微塵もない。無論、他人には見せない人一倍の努力があったに違いない。若い頃には、「テレビ文学館」というシリーズの演出で、随分と鳴らしたそうだ。

 勤勉はこの人の生来の徳である。何事にも一生懸命に情熱を傾ける。NHKにOA化の視察に訪れた際にも、新しいシステムを吸収しようと意欲的だった。それでいて、馴染みの渋谷のスナックに私を案内するという懐の深さをも見せる。包容力があってユーモアに富み、笑うと、少年のような顔になる。

 努力の人は、一生懸命な姿を見るのも好きらしい。私が企画の話など熱っぽく語ると、いつも「クレ、クレ(そうかい、そうかい)」と、肯きながら耳を傾けてくれた。尹東柱の特集も、NHK内では容易に企画が通らなかったのを、李局長の後押しでKBS側が共同制作番組として積極的に声をあげてくれたことで、GOになったのだった。

 その後、私はロンドンに勤務するようになったが、わざわざソウルから国際電話をかけてくれたことがある。「英国には美人が多いだろう?」「韓国のほうが美人は多いですよ」「淋しくはないかね?」「孤独もまた栄養です。そこから何かが生まれる気がします」「ああ、クレ、クレ」……。

 英国で年を重ねるにつれ、しばらくは韓国と疎遠になってしまったが、8年ぶりに韓国を訪ねるや、この人との縁も復活した。既に現役は引退していたが、大山勝美のテレビドラマ論を翻訳していた。

 NHKを辞め、英国に留まって文筆の道に進んだことなど、こちらの事情も話すこととなったが、相変わらず「クレ、クレ」と、普通ではない選択をした隣国の後輩の身の上話を、疎んじることなく聴いてくれた。

 アンコウ鍋をご馳走になった。「ここが美味いんだ」と、私の皿に身を取り分けながら、にっこりと微笑んだ。昔に変わらぬ、少年のような笑顔がひろがった。

多胡 吉郎

(2010.2.10 民団新聞)
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