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<読書>光の帝国…工作員に届いた帰還命令
妻子とともにソウルで平凡な生活を送っている男のもとに、北韓から帰還命令が届いた。男は20年前に南に送り込まれた工作員だった。行方不明になった孤児の住民登録を偽装し、延世大学に入学。金日成主体思想に同調する学生らに紛れ込んで、そこで知り合った「主思派」の女子大生と卒業後に結婚し、映画輸入会社の仕事をそつなくこなしていた。
10年も連絡がなかった当局から、何の前触れもなく24時間以内の帰還が厳命された男の動揺とせわしない動き。狂おしく自問する男。果たして自分に落ち度があったのか。帰還すると、かつての上司のように粛清されるのか。
ソウルの雑踏をチョンシン(精神)なくさまよい、尾行されていると思い込んで必死に逃れ、没交渉だった工作員の同僚に会い、事態が急変していることを報告、お互いの情報交換に努める。障害児を抱えた同僚は、北に戻っての生活は無理だと激白し、見逃してくれと命乞いする。
スパイ小説の形をとりながら、倒錯した性や不倫など、現代の韓国社会の断面を描くエンターテインメントに徹した小説である。男を中心に家族らの時間の流れを描くタッチが、無駄な動きを排した映画を観ているようで実に小気味いい。著者は95年のデビュー以来、数々の賞に輝いた気鋭の作家である。
(キム・ヨンハ著、宋美沙訳、二見書房2000円+税)
TEL 03(3515)2311
(2009.2.4 民団新聞)
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