地方本部 HP 記事検索
特集 | 社会・地域 | 同胞生活 | 本国関係 | スポーツ | 韓国エンタメ | 文化・芸能 | 生活相談Q&A | 本部・支部
Home > ニュース > コラム
サラムサラン<14> ふたりのネーリー<2>
 ソウル・オリンピックで知ったもうひとりのネーリーとは、やはりソ連から訪れたネーリー・リーというソプラノ歌手だった。平和の祭典を謳うオリンピックでは、スポーツ競技以外にも多くの文化行事が催される。「壁」を越えてソ連から派遣された文化使節のなかに、このネーリーもいたのである。世界的に名の知られた歌手ではなかったが、帝政ロシア時代からの伝統を誇るレニングラード音楽院の教授をつとめる実力派だった。 姓のリーは言うまでもなく「李」で、両親ともに韓国人のため、ネーリーという名前こそ西洋風でも、顔立ちは韓国人そのものだった。当時既に40代に達しているように見えたが、ロシア生まれのために韓国語は全く話せず、それでも初めて接した「祖国」の風俗、人情など、すべてが胸に響くらしい様子は、彼女の動静を伝える報道からも伝わってきた。水原の民俗村を訪ねて伝統の暮らしに触れた折の表情など、活き活きして、いかにも「壁」を越えて現れた彗星のように見えた。自分の体に流れる血のルーツを手探りで確かめ、政治によって断ち切られてきた絆を取り戻そうとする姿は、文化使節ということを超えて、ひとりの人間ドラマを目の当たりにする気がした。

 ネーリー・リーの独唱会は世宗文化会館で行われた。曲はチャイコフスキーやラフマニノフなど、ロシアを代表する作曲家の歌曲で占められた。北国特有の繊細な抒情とロマンティシズムを湛えて、憂いを含んだソプラノの美声が流れた。高い芸術性に聴衆は酔い、文化使節としての正業を彼女は見事に果たした。

 音楽が音楽を超えたのは、アンコールの時だった。チマ・チョゴリに着替えてステージに現れた彼女は、韓国歌曲の「懐かしの金剛山」を歌った。ピアノ前奏が始まった時には、聴衆はその曲が何かを瞬時に解し、溜息とともに熱い感情が爆発したようになった。

 韓国語で歌われたその歌は、とても涙なくしては聴けるものではなかった。ロシア歌曲はすべて暗譜で歌ったネーリーだったが、このアンコール曲ばかりは、楽譜を見ながら歌った。それは文化使節のご当地サービスなどではなく、祖国の歌を祖国の言葉で歌いたいとする、彼女自身の魂の叫びだった。

 歌は「壁」を越えた。会場を埋めた聴衆の多くが泣いていた。熱唱する本人の目にも、涙が溢れていた。歌が終わるとともに、わあーっという大歓声が会場を包んだ。あの年の秋、ソウルという町が抱いた理想とその熱気の、最も美しく感動的な結晶であった。

多胡 吉郎

(2009.12.9 民団新聞)
最も多く読まれているニュース
差別禁止条例制定をめざす…在日...
 在日韓国人法曹フォーラム(李宇海会長)は7日、都内のホテルで第6回定時会員総会を開いた。会員21人の出席で成立。17年度の報告があ...
偏見と蔑視に抗って…高麗博物館...
 韓日交流史をテーマとする高麗博物館(東京・新宿区大久保)で企画展「在日韓国・朝鮮人の戦後」が始まった。厳しい偏見と蔑視に負けず、今...
韓商連統合2年、安定軌道に…新...
金光一氏は名誉会長に 一般社団法人在日韓国商工会議所(金光一会長)の第56期定期総会が13日、都内で開かれた。定数156人全員(委任...
その他のコラムニュース
<訪ねてみたい韓国の駅30...
歴史伝える赤レンガ駅舎 赤レンガの駅舎が、行き交う人々を見守っている。 韓国の鉄道の玄関、ソウル駅。1925年に竣工した赤レンガ...
<訪ねてみたい韓国の駅29...
開業100年、世界遺産の玄関 歴史ある古都の玄関には、それにふさわしい風格が備わる。韓国の古都と言えば、新羅の都、慶州だ。その玄...
<訪ねてみたい韓国の駅28...
未来都市のユニークな駅 いかにも未来的な名前のこの駅は、なかなかユニークな存在だ。まず第一に、その立地。ソウルメトロ6号線、空港...

MINDAN All Rights Reserved.