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民衆の〈泣き声〉が聞こえる 脱北者家族描いた「クロッシング」
貧しいながら幸せに生活していたヨンス一家
一人息子は父とサッカーボールを蹴りあうのが唯一の楽しみだった
あまりに無慈悲な地
「何もできぬ自分が悔しい」

 脱北者とその家族を描いた韓国映画「クロッシング」(キム・テギュン監督)の反響がじわじわ広がっている。配給元の太秦(株)によれば、プリント3本で単館系の映画館から公開を始めたが、現在は12本まで増え、しかも11月いっぱいまでフル稼働という。メジャー系の映画館での公開も始まった。敬遠されがちな重いテーマでありながら、人々を引き寄せる理由は何か。

反響広がり上映全国化

 全国上映は4月17日、東京のミニシアター、渋谷ユーロスペース1から始まった。土曜日ともあって初回は定員20%超、翌日の4回公開も3回目までほぼ満席だった。その後も、初日を上回る日が相次いだ。

 ユーロスペース1では、6週の予定を8週に延長している。5月1日から公開を始めた大阪のシネマート心斎橋でも、同館の週計新記録を樹立、銀座シネパトス、名古屋シネマスコーレでは現在もロングラン中だ。

 本年最高を記録した劇場が多く、業界でも「クロッシング」の観客動員が話題になっている。異例なことに、メジャー系劇場であるワーナー・マイカル・シネマズが6月19日から公開に踏み切り、109シネマズ(東急)での公開も決まった。

 上映中はあちこちですすり泣きが聞こえ、エンドロールでは拍手も起きる。こうした現象は各地、各会場で当たり前になった。全国に先駆けた宮城本部の民団限定上映会(5月15日=青葉区・仙台フォーラム)でもそうだった。

 「脱北者の悲惨さはニュースで知っている。目を背けまいと決めてきたが、見るのが辛かった。ジュニがアボジとやっと電話で話ができたとき、最初に言ったのが『約束を守れなくて(オモニを守れなくて)ごめんなさい』だった。これに一番、胸を揺さぶられた」(60代・男性)

 「見終わって、真っ先に思い浮かべたのは自分の家族だった。我が子を抱ける喜び、妻がいる喜び、文句ばかり言いながら仕事をしていたが、職のある喜び、たくさんの喜びを強く感じた。何日が過ぎてもシーンの一つひとつが目に焼きついている」(30代・男性)

 「今、自分に何かできることがないのか、問いかけられた」(20代・女性)。「想像を絶する現実でも、直視し、関心を持たなければならない」(40代・男性)。「傍観することしかできない自分に、消化し切れないものが残る」(30代・男性)。もどかしい思いを募らせた人は多い。

苦闘する人この瞬間も

 「クロッシング」が発信するメッセージは、映画を見た人たちの口コミやブログなどを通じて急速に広がった。

 多民族・多文化共生社会の実現に取り組む埼玉の鈴木啓介さんは、自身のブログ《川越だより》で「泣くことしかできない悔しさ」と題してこう記している。

 この映画のビラにペ・ドゥナという女優の言葉が載っている。「知っていながら知らんぷり、目をふさいで、ごめんなさい。一緒に泣いてあげるしかなくて、本当に本当にごめんなさい」。目をふさいでいるつもりはない。でも僕はこの父の思い、この子の思いを想って泣くことしかできない。それが悔しくてならない。この映画は物語に違いないが、想像を絶する独裁体制のもとで、今この瞬間も、無数のヨンスとジュニ、そしてヨンハが互いを思いながら苦闘を続けているのだ。

 鈴木さんはまた、「しかし、不思議なことに僕に元気がわいてきた。一人でも多くの友人たちにこの映画のことを知らせようと思う」と語っている。

左派系にも衝撃大きく

 「クロッシング」は日本の左派系の人たちにも鋭い問いかけとなったようだ。《立川反戦ビラ弾圧事件の元被告のブログ》はこう書いている。

 北朝鮮内の人権抑圧状況を問うことも重要だ。残念ながら朝鮮半島への軍事的な緊張関係をあおったりする勢力に、日本人拉致問題同様にこの問題は政治利用され、それへの反発・批判から左派でそうした問題を扱う集会は皆無に近い。(中略)だが「臭いものに蓋をする」ように目を背けることは許されるのか。私たちはあらゆる人権侵害、抑圧にも厳しい批判の目を向けていくべきではないのか。そうでなければ左翼の「ご都合主義」と批判されるだけだろう。

 このブログは最後を、「この映画はあえて政治的なメッセージを強く載せることを避け、淡々と庶民の生活と悲劇を描く手法で作られている。そのことがこの作品を秀作としているのではないか。(中略)映画は普遍的な人権というものを私たちに対して鋭く問い続けているように思う」と締め括った。

 キム・テギュン監督は、本紙とのインタビュー(3月31日付6面)で「クロッシング」について語った。「新しい感情が生まれるようにしたかった。(映画を見て)涙が出たとすれば、そういう感情が生まれたことになる。脱北者や北韓に対する視線が変わるはずだ」「すぐには解決できないとしても、酷い思いをしている人たちの泣き声を聞いて欲しい」。

 映画に込めたこのメッセージは見事に伝わったと言えよう。100人以上の脱北者から実際に取材しただけでなく、メーンスタッフにも複数参画させた監督が最初に驚いたのは、「北韓の体制のなかで生活し、大変な思いをするなかでも、家族は壊せないという現実」だったとも述べた。まさに、生きる力、それを支える家族や愛を描いたからこそ、見る人たちをして、それを奪う無慈悲な「体制」への憤りを誘い、何ら手を差しのべることのできない悲哀を募らせるのだ。

【ストーリー】

 舞台は2007年の北韓・咸鏡南道から、中国、モンゴルに及ぶ。元サッカー選手で炭鉱夫のヨンス一家は、貧しいながらも幸せに暮らしていた。11歳の一人息子ジュニは父を尊敬し、ヨンスも息子を愛している。唯一の楽しみは、サッカーボールを蹴りあうことだった。そんな家族の運命が暗転していく。ある日、妊娠中の妻ヨンハが結核に倒れる。風邪薬さえ手に入らない片田舎では打つ手がない。ヨンスは薬を手に入れるために意を決し脱北、中国で懸命に働くが不法就労が発覚、追われる身に。そのころ、病状が悪化した妻は息を引き取っていた。孤児となったジュニは国境の川を目指すが逮捕され、強制収容所へ送られてしまう。


(2010.6.30 民団新聞)
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