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「在日」でよかった 「チベットチベット」監督 金昇龍さん |
世界ひとり旅で確立したアイデンティティー
在日3世の映画監督、金昇龍さん(40)が来年には、自らの目で見た日系ペルー人社会を描く。歴史的な背景こそ異なるものの、異国で祖国を思う心情は共通しているからだ。デビュー作となったドキュメンタリーロードムービー「チベットチベット」の完成から8年。ここには揺らぐアイデンティティーを胸に自分探しの旅を続けてきた金監督が、自らの体験に根ざした次世代に託すメッセージが込められている。
来年は南米日系人社会描く
映画では金監督自らナレーションを担当し、南米日系人を通じて在日韓国人を語る。「在日だからこそ、立体的な視点を持てる。在日でほんとうによかったと思う」。金監督は映画に共感をもってもらえれば、在日韓国人に対する一部嫌韓派の誤解も解けるのではと期待している。作品としてはこれが5作目。
この確固たる自我は、97年春からビデオカメラを手に始めた自分探しの旅で確立された。当時は韓国と日本の二つの国のはざまでどう生きるべきか、思い悩んでいたときだった。「中国で本格的に鍼灸の勉強をしたいから」との口実で両親からせしめた200万円を手に世界一人旅に出た。 最初の訪問地は韓国・釜山を選んだ。先祖に別れを告げるためだった。だが、偶然、本貫を同じくする同胞と出会い、金海金家のお墓にも一緒に参拝するなどして、同族としての機微に触れ、「なあんだ韓国ええ国やん!」と知った。当時を振り返り金さんは、「金森太郎が先祖と和解したような気持ち」と語った。
韓国にルーツを持つもう一人の自己を素直に受け入れるようになった金さんは、自分たちの過去と現在のチベットの共通性に気づき、チベット亡命政府の外務省長官を通じてダライ・ラマ14世への取材を申し入れたところ、10日間にわたる同行を認められた。
滞在中、金さんはダライ・ラマ14世やチベット仏教の高位僧と接していくうち、民族や国籍の問題を相対化して考えられるようになった。帰日した時には、日本国籍を取得しようとの考えはいつのまにか消えていた。
01年に完成した映画は各地で草の根上映され、すでに8万人の観客動員数を記録。07年には米国のオレゴンTAC映画映像祭で観客賞(最高賞)を受賞した。アメリカでは多くの観客が在日韓国人の立場にシンパシーを表してくれたという。金さんは「アメリカも移民の国。国や民族は違っても移民社会には似た苦労や楽しみがあることを知っているからだろう」と推測している。
「チベットチベット」は「在日韓国人の旅人が見た二つのチベット」がテーマだったが、来年の作品も、南米日系人を通して移民社会を描くことでは共通している。金さんは日系ペルー人コミュニティに入り、親しくなったペルー人と一緒にペルーに飛ぶ予定。
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プロフィール
キム・スンヨン
68年福井県生まれ、滋賀県育ち。明治東洋医学院鍼灸科・柔道整復科卒業。01年3月、『チベットチベット』完成。07年、『雲南COLORFREE』完成。BNN新社刊『映像作家100人』に選ばれる。6月に河出書房から書籍版『チベットチベット』を出版。現在、インド放浪の魅力を伝える新作に取り組む。
(2009.4.1 民団新聞)
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