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取材放棄はあり得ない 氷室興一(日本テレビ中国総局)
 「やられた」と思った。競合するフジテレビが横田さんの娘・金ヘギョンさんのインタビューに成功したことだ。

 金正日総書記の「自白」により拉致被害者の多くが死亡と説明される中、ヘギョンさんの肉声は是非とも聞いてみたかった。撮れたら第一級スクープと思っていた。

 その後「北朝鮮に政治利用されている」などと批判が高まった。フジ記者の親族が在日だったため取材が出来たと言わんばかりの雑誌記事もあった。取材自体が好くなかったとの雰囲気すら生まれた。「ウチは取材申請もしなかった」と胸を張る社もあったが、出遅れただけではないのか。

 私たちがインタビューを撮っていたら放送をしなかったか?

 国益を損ねたり集中的批判を受けたりする危険性と、伝えるべきことを伝えたいという気持ちの狭間で悩んだだろう。膨大な手間と経費をムダにしても放送を見送る可能性もあっただろう。放送見送りで生じるリスクだってあるだろう。

 それでも「最初から取材を放棄する」という選択はないはずだ。私は「取材してから悩めばよい」という立場だ。

 オンエア手法を工夫すれば批判は避けられたのか。泣き出す場面の繰り返しや、少女に日朝関係を問うた部分をそのまま流す方法は確かに適切ではない。これは後知恵か。

 弊社の先輩・同僚はリクルート事件やオウム真理教取材を通じて「扱いが非常に微妙なスクープ映像」を慎重ながら果敢に、かつ適切に伝えて来た経験がある。

 その点からも我が社がこのスクープを取れなかったことを悔しく思う。

(2002.11.27 民団新聞)
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