本書は1999年春、駅のホームで偶然知り合った、中国朝鮮族の女性と著者の約16年にわたる交友を記したノンフィクション。 恩恵は黒竜江省ハルビン出身の19歳。実家は政府非公認の地下教会を営み、自身もクリスチャンだった。日本語学校に通いながら、居酒屋やマクドナルドでのアルバイトで生計を立て、東京大学を目指していた。恩恵と出会ってから日本での身元保証人となった著者は、一時帰国する恩恵に同行し、その間の取材で、彼女の家庭環境や朝鮮族の置かれた状況などを理解する。 朝鮮人の中国への移住は16世紀に始まった。恩恵の両親は植民地時代の1940年、朝鮮総督府と「満州国」が共同で鴨緑江に築いた水豊ダムによって、移住を強いられ、開拓民として現在の北韓平安北道朔州郡からハルビンにやってきた。著者は、中国朝鮮族の歴史が日本と深く関わっていたことを、この取材で初めて知った。 恩恵が生まれ育った「地下教会」での抑圧された日々、日本で砕かれた夢と現実、韓国人の朝鮮族に対する差別、植民地支配によって移動を余技なくされたナグネ(旅人)としての朝鮮族の歴史を振り返り、東アジアをまたいで自立していく女性の姿が描かれる。日本で暮らす朝鮮族の人たちを理解する上で参考にしたい1冊だ。 最相葉月著 岩波書店 (780円+税) 03(5210)4000 (2015.4.29 民団新聞) |