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<国籍条項訴訟>時代にうろたえ、憲法判断避ける
最高裁判決の結果を聞く支援者たち(東京・弁護士会館)
自治体にゲタ預け 都主張の合理化に終始
公務員就任権は認定 光る2人の反対意見

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訴訟経過

 97年11月の東京高裁での違憲判決から7年目の04年6月、東京都からの上告を受けて審査してきた最高裁第3小法廷は、同年9月28日に双方の意見を聴く口頭弁論を開くと決め、関係者に通知していた。

 しかし、原告弁護団が小法廷に提出する意見陳述の準備をほぼ終えた9月1日、大法廷への回付が決まった。弁論期日を取り消しての大法廷への突然の回付は「異常な状態」(新美隆弁護士の話)だった。

 96年5月の一審、東京地裁は都の受験制限を合憲としたが、翌年11月の二審、東京高裁は「憲法の国民主権原理はすべての管理職について外国人の任用を禁じたものではない。外国籍の職員から受験の機会を奪うのは管理職就任の道を閉ざす行為で憲法違反に当たる」として都に慰謝料40万円を支払うよう命じた。

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判決文から何が見えるか 本紙記者座談会

 東京都の外国籍職員の管理職昇任試験拒否訴訟で、最高裁大法廷が言い渡した判決理由(多数意見)は、裁判官の〈意思〉を見せないまま、上告人(都)の言い分をよってたかって合理化したものだ。その論拠は法ではなく、1953年に内閣法制局が出した「当然の法理」(公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日本国籍を必要とする)と呼ばれるカビの生えた見解に過ぎない。しかも、拡大解釈だ。現実の変化に対応し切れない、後ろめたさがにじんでいる。

「想定外」連発 逃げる最高裁

 A 10年前の2月、最高裁小法廷は定住外国人に地方選挙権を付与することは憲法上禁じられていない、と権利性を認める判断を示し、付与の是非は立法政策にかかわる問題とまで踏み込んだ。これに比べるとかなり後退したというほかない。

 外国人に地方公務員の幹部就任権があるのか否か、正面から判断するのを避け、行政サイドの裁量にゲタを預けた格好だ。しかも、参政権のときのような立法を促す表現もない。

 B 憲法判断を避けるのは最近の傾向だね。最高裁は昨年11月の韓国太平洋戦争犠牲者遺族会訴訟でも、大戦や敗戦による犠牲・損害に対する補償を憲法はまったく予想していない、単に政策的な見地からの配慮如何が考えられるに過ぎないと逃げを打った。これでは「最低裁判所」との声が出るのも当然だ。

 C それでも、全国の自治体が進めてきた門戸開放が違憲とされたわけではない。「自治体が職員に外国人を任命することを禁止するものではない」として、最高裁が外国人の地方公務員就任権を認めたのは初めてだ。「入り口」では進一歩の部分がある。

 A 様子見だった自治体は判決を口実に開放から遠ざかるとの見方がある一方で、幹部就任権が否定されたわけではなく、門戸開放の流れに水をさすものではないとの見解もある。国籍条項を撤廃し、外国人を幹部にまで登用している自治体などでは、判決理由を精査したうえで、自分たちの任用制度に見直しを迫るものではない、との結論に達しているようだ。

 C 「当然の法理」は53年に持ち出されたもので、これは当初、国家公務員を対象にしたが、73年、旧自治省はこれを地方公務員にまで拡大した。しかし確かに、これを持って自治体は拘束されたわけではない。

 95年には高知県が「当然の法理は法規範性を持たない」として、国籍条項の全面撤廃を唱えて以降、管理職に昇進し得る一般職の国籍条項撤廃は全国化した。これは今年1月現在で1府10県に及び、市レベルだけでも政令市、県庁所在地、中核市の35を含む283にのぼっている。

実効持たない「当然の法理」

 B 「当然の法理」の「法理」とは「法律の原理」のことであり、「原理」とは「他のものを規定するが、それ自身は他に依存しない根本的、根源的なもの」ということだ。絶対性が想定されているはずの「当然の法理」に対して、自治体や最高裁裁判官どうしでも解釈が分かれている。それはもう「当然の法理」と言える代物ではない。

 A そもそもこの見解が示された53年当時は、在日韓国朝鮮人の法的地位は定まっていないし、その他の定住志向の外国人もわずかだった。

 C そこで面白いのは、この問題は政策的な当否のレベルで論議されるべきで、違憲・違法が生じる事柄ではないとして、多数意見に与したある裁判官の「意見」だ。

 彼はそこで、「公務員の職種には外国人が就任しても支障がないものがあり、国際化が進展する現代にあって、定住外国人に門戸を相当な範囲で開放していくことは時代の流れに沿うとも言える。特別永住者がいっそうの門戸開放を強く主張すること自体はよく理解できる」と述べている。

 B ちゃんと時代を見ているのに残念だ。多数意見を見ると、時代遅れの都の主張を救うには、古色蒼然とした「当然の法理」を持ち出すほかなかったことがよく分かる。石原都知事と彼に代表されるような、発言力を強める保守層におもねたのは歴然だよ。

 C それにしても、特別永住者をいとも簡単に「我が国以外の国家に帰属し、その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人」に放り込んでしまった。歴史的背景はもちろん、国籍国との実際の関係や生活実態を無視した、実に乱暴な論理というほかない。

 A 多数意見は、都の管理職でも公権力行使等地方公務員に当たらない職種が若干存在することを認めながらも、都の管理職任用制度を盾にしてその内側に隠れたようなものだ。

 都は管理職に昇任すると、人事異動でいずれは公権力を行使する職務に就くことが当然の前提にあると主張してきた。多数意見はこの論理に乗っかり、都がこれを合理的に運用するために管理職昇任に国籍要件を設けることまで違憲、違法とされないとした。

時代の流れに抗しきれない

 B しかし、都の管理職任用制度は、外国人に関して実証されたことはなく、合理的云々といっても検証しようがない。都は韓国一国なみの予算を持つ巨大な自治体だ。多くの機関を擁し、ポストも数えるのが困難なほどある。外国人がいると管理職の人事異動が合理的にできないとあれば、人事担当者はよほど無能ということになるね。

 C それとの関連で、不謹慎ながら思わず苦笑したのは、多数意見に賛成したある裁判官の「補足意見」だ。審理を尽くさせるために原判決を破棄して差し戻す選択もあったが、そう主張しなかったという。

 その理由は、外国人に管理職の道を開くか否かは独り被上告人(鄭香均さん)の問題だけでなく、将来において同様の希望を持つ外国人が多数出てきた場合は、そのすべてに同じ扱いをせざるを得ないから、と言うものだ。

 善意に解釈すれば率直と言えるが、泣く子も黙る最高裁の裁判官としてはいかにもお粗末だし、時代の変化にうろたえ、堰き止めようとする意図がありありとしているではないか。

後ろめたさと錯綜ありあり

 A この裁判は13対2で被上告人の敗訴だ。しかし中身は、そう単純なものではない。多数意見にひと括りされた裁判官でも、判断は混沌としていたと思う。法的にも明快で、時代の流れをきちんと掴んだ2人の反対意見だけでなく、先ほど言及された「補足意見」と「意見」だけでもそれが浮かび上がる。

 全体として、国際化にともなう門戸開放の流れは否定できない、だからこそ昇任には早い段階で歯止めをかけたい、そんな後ろめたい思いが錯綜しているね。

 C 多数意見に賛成したうえで、「意見」を書いたもう1人の裁判官は、その辺を吐露している。実に回りくどい論法だが、紹介する価値はある。その「意見」ではまず、自治体が解釈上、日本国籍を必要とされる職責に外国人の就任を認めた場合、つまり門戸を開放しすぎた場合、裁量の限界を超えると指摘した。

 逆に、外国人については特段の事情もないのに初任給程度に限定し、それ相当の職務にだけ位置づけて地方公務員への就任を認めた場合、つまり門戸の開放が極端に狭い場合、外国人を蔑視し、苦痛のみを与え、あるいは外国人の労働力を搾取する制度として、いわば公序良俗に反し、裁量の限界を超えると見なす。

 なかなか意味深な物言いだが、都はいずれの限界も超えていないから、違法性はないというのが結論なんだ。

 B 笑止と言うほかないね。この一件は明らかに、後者の門戸開放が極端に狭いケースじゃないか。合理的な根拠なく外国人を蔑視し、苦痛を与えているんだから。

 A 98年に提出した都の上告理由では、もし鄭さんが昇任した場合に就くポストとして、保健所の衛生課長を想定し、その事務の大半は公権力の行使である許可事務だと主張した。

 具体的に見ると、歯科技工士、マッサージ指圧師、柔道整復師、毒物及び劇物取締、有害物質を含有する家庭用品の規制、医薬品広告の適正化、理容師及び美容師、クリーニング業、墓地埋葬など各法律の施行に関することとなっている。首をかしげたね。

国際的傾向に逆行するもの

 B 公権力の行使とはいえ、民間でも代替できるものだし、外国人であれ日本人であれまったく関係のない事務行政だ。業界団体もあれば上司もいるし、監視団体もある。何より法規と事務規定がある。個人の思惑が入り込む余地などない。それとも都の行政は、情実が常識なのだろうか。要は適正な判断が求められているのであって、それは昇任試験の成績を含む実績で判断されるべきだ。

 C 滝井裁判官の反対意見からそれに関連する部分に注目したい。国際社会の動向、時代の流れをしっかり認知している。

 「地方公共団体の職務は私企業と差異のない給付行政的なものに拡大し、本来的には非権力的行政といわれるものが多くなり、職務全般の権力性は減少している。公務員職の概念にも変容が見られ、今日の国民の規範意識に照らせば、国民主権の見地からその能力を度外視して、外国人というだけでの理由で排除しなければならない職は限られている」。

 辞書によれば「給付行政」とは、「単なる社会公共秩序の保障にとどまらず、積極的に国民生活の向上を図るために、水道・医療・教育・公的扶助といった便益を供給する行政のあり方。現代的行政の特徴」とある。

 A 効率化を目指して国や自治体が業務の民営化、アウトソーシングを進めるのは世界的な傾向だ。環境保護や文化教育、麻薬・貧困の撲滅など自治体を超え、さらに国を超えなければ対応できない問題が多い。だからこそNGOやNPOが重要な存在になり、こうした組織は安全保障問題でも大きな役割を担いつつある。

 今回の判決は、東アジアのリーダーだの、国連の安保理常任理事国だのを目指す国の最高裁としては、ぶざまと言うほかない。判決後の記者会見でも言われたことらしいが、世界の笑いものだろう。かえって、国籍要件撤廃運動に発奮材料を提供したようなものだ。

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支援者 怒りの会見

 判決後、記者会見に臨んだ訴訟代理人弁護士と支援者の発言要旨は次の通り(発言順)。

運動圧殺を企図 新美隆弁護士

 反対意見では私たちの主張が正確に理解された。それがわずかな救いだ。多数意見には在日韓国・朝鮮人のような植民地出身者に対する歴史認識とか、情の通じた理解ある判断は見られない。大法廷の権威を利用して、この種の運動を終わらせようとする意図があるのではないか。

 ただし、この判決が長年、各自治体で積み上げてきた在日外国人に対する門戸開放の流れを後戻りさせることはあり得ない。これを別な意味で物語ってもいる。この判決は時代の流れの中で、取り残されていくだろう。

人権の砦たらず 金敬得弁護士

 人権の砦たるべき最高裁はまたしても、在日の案件ではその役割を果たし得なかった。何が公権力の行使に当たるのか憲法審査のメスを入れ、憲法に違反するのかしないのか、判断をしなければならないのに、この判決はそれをしていない。行政のいう当然の法理に便乗するような、法の厳格な審査を放棄したような判断を出すとは。これはなんだろうか。

 要するに行政の判断でどうにでもなると言ったに過ぎない。司法部に任せていたら何もできないことを再認識した。これからも運動を続ける。

拘束性は皆無だ 岡崎勝彦教授(島根大学大学院法務研究科)

 高裁判決を認めざるを得ないところまできていた第3小法廷が大法廷に回付したのは、司法の独立性を守ろうとしたのだろうが、法学会では笑いものになるだろう。規範的な意味での大法廷の役割をまったく果たしていない。最高裁の権威を利用して政治的な思惑を述べたに過ぎない。

 逆に言えば、判例的な拘束性はゼロと言える。タブーであるところの裁量性を使うことで逃げ、判例をつくる役割を放棄した。運動にとってはマイナスにならない。理解ある自治体を増やすべく拍車をかけよう。

法治主義を放棄 田中宏教授(龍谷大学)

 当然の法理とは、誰もが疑問の余地なく受け入れるもの。この問題で議論の余地があるということは、もはや当然の法理ではなくなっている。法律ではない得体の知れない当然の法理で排除する、差別する。法治主義の原則を離れた裁判所は腐っていると思った。ちゃんと考えている人が2人いたのは救いだ。

 「裁量」と言ったからには、論理的には今後にとってあまりマイナスにはならない。外国人がどんどん増えて現実は動いている。大法廷という舞台装置を使った割には、大した影響はないと思う。

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判決文(要旨)

【多数意見】

 地方公務員法は、一般職の地方公務員に在留外国人を任命することができるかどうかについて明文の規定を置いていないが、地方公共団体が法による制限の下で、条例、人事委員会規則等の定めるところにより在留外国人を任命することを禁止するものではない。職員に採用された在留外国人について、国籍を理由として、給与、勤務時間その他の勤務条件につき差別的取扱いをしてはならないものとされている。しかし、採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取り扱いをすることまで許されないとするものではない。

 原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員(住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは地方公共団体の重要施策に関する決定を行い、またはこれに参画することを職務とするもの)に就任することが想定されているとみるべきで、我が国以外の国家に帰属し、その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、本来我が国の法体系の想定するところではない。

 地方公共団体が、公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができるものというべきだ。地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができるとする措置を執ることは、合理的理由に基づいて日本国民である職員と外国人である職員とを区別するものであり、労働基準法にも憲法にも違反するものではないと解するのが相当である。

【滝井繁男裁判官の反対意見】

 国籍のみによって昇任に道を閉ざすのは、憲法14条に由来する労働基準法3条に違反。日本国籍に限定されるのは、地方行政機関についてはその首長など機関責任者に限られる。その他の公務員に憲法上の制約はなく、性質上当然のこととして日本国籍に制限されると解すべき根拠はない。

 地方公共団体では、外国籍者もその社会の一員として責務を果たしている以上、国民と同等に扱うことに理解は広がりつつある。公務員としての適性は国籍ではなく、住民全体の奉仕者として公共の利益のために職務を遂行しているか否かが重要性を持つ。

【泉徳治裁判官の反対意見】

 「住民」が地方自治の運営主体であり、住民には日本国民でない者も含まれ、当該地方公共団体との結び付きでは、他の在留外国人より特別永住者の方がはるかに強い。生涯所属する共同社会のなかで自己実現を求める意思は十分に尊重されるべく、特別永住者の権利制限はより厳格な合理性が要求される。

 上告人は多数の機関と課長級の職を設けており、特別永住者を課長級に昇任させたうえ、自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員に任用しても、人事政策にさほど支障が生じるとは考えられない。したがって、以上と同旨の原審の判断は正当であり、本件上告は棄却すべきと考える。

(2005.2.2 民団新聞)
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