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<生活>お墓に見る時の流れ たずさわる人に聞く
在日安らぎの場も様変わり

 時代の流れとともに、在日韓国人の墓に対する認識の変化が加速している。多くの1世たちは墓石に刻む名前にも、一族のルーツを示す本貫にこだわった。だが2世、3世世代になると、通名で彫るケースも増えている。なかでも本貫や、墓参に対する思い入れは、同胞社会の中でも両極化しているようだ。在日同胞の墓にたずさわる関係者を訪ねた。

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橿原市の老舗・石材店

「薄れる本貫意識」
意匠こらしたオリジナル墓石も

同胞が多い地埋葬文化独学

打谷久義さん
 奈良県橿原市に石碑、墓石製造、販売などを手がける創業191年の老舗「打谷石材」がある。

 代表取締役会長の打谷久義さん(69)は大学中退後、婿養子に入った1965年から、石工見習いとして修行を積み技能を磨いた。

 現在は長男が6代目社長として、現場を指揮する。

 打谷さんが「先祖の墓を正しく供養することが家族円満と金運上昇の鍵」をテーマに、長年にわたって行っているのが全国各地での講演活動だ。同社内の一角には「先祖学研究所」が開設され、墓相学や正しいお墓の建て方・祀り方についての講座を開くほか、相談にも応じている。

 打谷さんが在日韓国人の墓石の建立に関わるようになったのは、30年前からだ。

 橿原市は奈良盆地の桜井市、高田市、大阪市内にも近い。特に桜井市は、県では奈良市に次ぎ、2番目に同胞が多く暮らす地区でもある。

 75年の5代目社長就任当時にはそんな土地柄もあり、10数基を手がけた。だが、最初は韓国の墓に対する知識はなく、「韓国の埋葬文化を独学」し、韓国を訪ねて石材の研究もしたと話す。その過程で知ったのが、「本貫」の存在だ。

 日本には家系の由来や由緒、家紋、歴代家長閲歴などの記録を書き残し、後世に残していく『永代家系記録帳』がある。「この記録帳があれば何も調べることがなく墓石が作れるが、在日韓国人の方の場合は本貫によって書式も違ってくる。間違った本貫を入れることはできない」

 1世が一族の発祥地とルーツを示す本貫を大切にしてきたように、打谷さん自身も、先祖のルーツを大切にしてもらいたいとの思いは強い。通名を名乗り、自分の本貫を知らない2世、3世の同胞に対しては、本貫の大切さを説明し墓石や墓誌に刻んできた。その姿勢は今も変わらない。

 だが、時代の移り変わりの中で日本社会同様、同胞社会も様変わりしてきた。日本で一般的な墓石の文字は「○○家之墓」「○○家先祖代々之墓」だが、近年、文字や彫刻などを重視するオリジナルの墓が増えている。

 当時の1世たちは「墓作りにも自分の本貫にこだわった」ものだが、「墓石の正面に本貫を彫りたくとも、次世代のことを考えて正面は○○家之墓とし、墓石側面に本貫を入れる人」をはじめ、墓石正面に本名、側面には本籍地、通名は花台に彫った1世もいたと墓碑銘の例を説明する。

 長年にわたり同胞の墓石建立に関わってきたが、この10年で増加している日本籍取得者に対する複雑な思いを吐露した。

奈良県橿原市の打谷石材
「儒教の文化忘れぬよう」 「日本国籍を取られた方たちの中には、日本人と同じように墓石に家紋を入れる人もいます。1万4500もの家紋図柄から選んでくる人、自分で図案を制作した家紋を入れる人などさまざまです。そういう方たちの墓石からは、先祖のことは分からなくなってしまう」

 先祖を篤く供養することは、先祖と家族が会うことによって元気をもらい、さらに家業繁栄、人の運も開けるといわれる。

 「在日韓国人の方たちは、儒教のなかで培われた多くの文化を持っている。日本籍を取得した方も若い世代の方も、韓国から渡来した子孫として、その先人の足跡を残すためにも本貫を大切にして、先祖のことを忘れないでほしい」

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東京あきるの市・大行寺

石碑に通名、本名は墓誌
「日本暮らしで思い多様に」
東京あきるの市の大行寺
 3年余も続いた韓国戦争(1950年6月25日〜53年7月27日)で、祖国を救おうと自ら出陣した在日学徒義勇軍の、犠牲英霊の遺骨奉安のための納骨堂と忠魂碑が設けられている大行寺(東京・あきる野市)。

 在日同胞の受け入れは戦後からはじまった。解放後、さまざまな事情から祖国に戻らず、日本に留まった同胞は多い。当時、「墓地をどうするか」という同胞の声を聞きつけた、山城清邦住職(62)の韓国人の父親である先代が、大行寺を紹介したことから、個人的なつながりで墓を求めにくるようになった。

 「うちは国籍は関係なく、全く平等です。そのかわり公営墓地ではないので、檀家としてのお勤めはあります」

 現在、墓碑は約250基。その4割を同胞の墓が占める。檀家は1年に1回集まり、先祖の総供養を行うことになっている。

1世が彫った「恨」の文字

 「戦後、1世の方たちは本名」で名前を彫り刻んだが、寺側で石碑と墓誌の名前に関して要求することはない。だが以前、山城住職自身も驚く場面に出くわしたことがあった。1世のハルモニの気持ちを表した文字だ。  「『恨』という言葉を彫られましたが、強烈です。韓国でいう、恨という言葉を理解する方ばかりではありません。でもご本人が亡くなられる直前に、ご親族が韓国名の墓石に取り替えたケースがあります。文字に関しては周りとの調和もあるため、皆さんが驚くような言葉は刻まないようにお願いしています」。このようなケースは、後にも先にもこの1例だけだったそうだ。

 同胞の場合、石碑が通名であっても、墓誌には本名を刻んでいるケースは多い。ただ、確実に墓のあり方や、名前に対する考え方は変わってきていると話す。「日本人の場合、○○家という、家意識が希薄になっています。日本に暮らす在日の方もそういう意識の変化はあるのでは」。1世が家族で入れる墓を望んでも、子どもたちはそれを望まないという同胞家族も目にしてきた。

 多くの人たちにとって墓の存在とは、故人と対話をする場、思いをはせる場、気持ちの交流の場になっているはずだ。だが、そう言ってられない事態も起きている。

 「永代使用権を買った後、行方不明になってしまう人や、面倒を見る人が誰もいないという状況があります。先代のときは数限りなくあったようですが、何十年も誰もお見えにならない方もいます。気の毒でもあるし、寺としては本当に困っています」

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奈良の公園墓地・王寺霊園

家族墓参の伝統は続く
「人が集まることこそ供養」
事務所の前から見た奈良県王寺町の王寺霊園
 1965年、奈良県北葛城郡王寺町に公園墓地として開園した財団法人・王寺霊園。管理している7500基中、在日韓国人の墓石は1000基になる。

 開園当初、「外国の方も受け入れていく」ことを視野に造られたので、宗旨・宗派は問わないと同園の渋谷俊一専務理事は話す。

墓がなかった戦後の一時期

 戦後、この土地には自治会が管理運営する村墓地(町営墓地)しかなく、在日韓国人の場合、同じ敷地内に墓を建てることができなかった。そのために遺骨を地元の寺に納めたり、自宅に安置するしかなかったという。

 同園は、長年にわたってその状況をみてきた地元の谷酒造(現在廃業)の谷義一社長が、グループ企業の一つとして設立したもの。谷さんは79年に奈良県日韓親善協会を立ち上げ、初代会長も務めた人だ。

 同園の営業を担当する石材店「石のいがや」の大西正広さんは墓碑銘についての変遷を語った。「65年から70年ごろは、石碑の表面には本名、側面には本貫を入れていた。また85年ころから側面に日本の住所と本貫を刻む方たちが出てきました。その後、日本籍を取得された方は日本名で彫られたり、本名と通名と一緒に家紋を入れる方もいます」。その中に、どこからか持ってきた砂を、石碑の下の遺骨を納めるカロートに入れる在日韓国人もいたという。

 「在日韓国人の方たちは日本人と違って、家族そろって墓参りに見えます」と話す大西さんの目に焼きついている光景がある。

 「以前大勢でみえたご家族ですが、車イスに乗った高齢のおばあさんを4、5人の若者たちが持ち上げて階段を上っていました。日本の場合、階段は無理だと判断すると、階段の下で待たせています。家長が女性であっても威厳を持って、若い方たちにいろいろと教えている。日本でもかつてはあったのに、今では見られませんし、日本人は少人数でみえます。日本人と在日韓国人の方たちの祖先に対する思いが違うのでしょう」

 同園には1年に1、2度、韓国の僧侶を呼んでお経を唱える家族の姿があると話す。

 「墓を見るとその家族の様子が分かります。墓が汚れているところは家族が笑わないし、親戚が絶えていきます。墓地の規模は関係ありません。家族そろってお参りして、笑いのある参拝がいい墓。墓に人が集まることが供養なのです」

(2009.4.29 民団新聞)
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