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サラムサラン<21> その人の名を知らず
 その人について、私は何も知らない。それでも、その人の姿や態度、その人から受けた感動は、今でもはっきりと記憶している。2007年の秋、私は柳宗悦の夫人であり、アルト歌手だった柳兼子を主人公に歴史小説を執筆中で、資料調査のために韓国を訪れた。

 その日赴いたのは、ソウルの国会図書館。政治の中枢に近いため、警備がものものしい。完全武装の警察官から入念なパスポートチェックを受けて入り口をくぐる頃には不安がこみあげてきた。外国人が紹介状もなくふらりと訪れて、事がスムーズに進むか、自信がなくなってきたのである。

 その日の朝、私を送り出した知人の韓国人ですら、不安を口にした。心配の種の半分は私の語学力不足にあったろうが、もう半分は、地縁血縁など、すべてに人脈がものをいう韓国社会の精神風土にあった。儒教の影響からか、しかるべき「コネ」があれば大事に扱われる反面、いわゆる「いちげんさん」に対しては、丁寧な応対を期待しにくいのである。

 当時の私は、ハングルの打鍵もできなかったので、パソコンでの検索すら、自力ではまともにできない。仕方なく、レファランスのカウンターに行って、閲覧したい資料について案内を請うた。 応対してくれたのは、若い女性だった。妙な韓国語から外国人であると察したのか、私を率いてわざわざ閲覧用のパソコンコーナーまで足を運び、自らキーを叩いて、希望する資料にアクセスしてくれた。

 植民地時代の古い同人誌までが全ページ、データ化されていることに驚いた。さすがに世界に誇るデジタル大国である。だが、技術的革新性にも増して、女性係員の親切さに私は驚き、心打たれた。関係者の紹介などなくとも、実に懇切丁寧な応対なのである。韓国も変わったものだと、感心することしきりだった。 古い雑誌の発行先が、日本時代の町名で書かれており、今のソウルのどの地区に当たるのかがわからなかった。再び先の女性に尋ねた。女性は自席のパソコンで検索し、日本時代と現在の町名の対照表をプリントアウトしてくれた。

 予想外のサービスに、私はひたすら感謝するしかなかった。「私たちって、親切でしょ!」と、女性は瞳を輝かせて自画自賛した。満面の笑顔が美しかった。

 やっぱり韓国だなあと感心した。日本ならば、親切な係員でも、こういう物言いはしまい。韓国人気質むき出しの、茶目っ気に富んだ明るい自己主張がまぶしかった。こればかりは、私が知る昔ながらの韓国であった。

多胡 吉郎

(2010.4.14 民団新聞)
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