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世界化めざす韓国の詩壇 在日文学に架け橋へ
ソウルで開かれた「韓日 詩の祝祭」のアトラクション
<寄稿>金一男 「在日時調の会」事務局幹事

韓流後のすう勢に
質の高さには折り紙つき

 日本の近代詩は、啓蒙主義・浪漫主義・象徴主義・新浪漫主義・モダニズムと、西欧の系譜を追いながら、往年の谷川俊太郎をもって巨匠の時代を終えた。韓国でもほぼ同様の軌跡をたどり、朴木月・朴斗鎮・趙芝薫ら青鹿派をピークとして今に至る。それでも、若い詩人の個人詩集がベストセラーになるといった現象が続いている。韓国は今、詩文学の時代の最後の残照に輝いているかのようである。

 社会が肥大化するにつれ、一人の孤独な語り部の心の営みが時代の悲しみと喜びとを一身に担ってその生を閉じる、というような現象は現れにくくなった。技術革新と生活の豊かさが情報文化の様式そのものを変質させた。それにつれて詩文学の市場価値も相対的にではあるが低下した。

 その意味では、人類の幼年時代にあってその最古の芸術様式の一つである詩文学というものは、いってみれば知的情報の乏しい時代を背景として、疎外と貧困とをその土壌とするものであったかもしれない。

 疎外状況は葛藤に満ちたドラマの連鎖を日々に支配し、人の実存を鋭角的に照明する。貧困には、人々の心のひだを赤裸々に映し出すプリズム効果がある。在日の文学が日本の文学世界に新たな養分として取り込まれてきたのもそのためであろう。このことは、疎外と貧困の中で発酵した在日の文学が、いつか韓国の文学世界に取り込まれていく可能性をも示唆している。

 今回のソウル交流会では、韓日対訳の「韓日合同詩集」や「韓国105人詩選」の他、3人の詩人が自分の詩集を韓日対訳で自費出版したことが目に付いた。韓国詩文学の、世界への進出が意識されているようだ。

 韓国伝統の定型詩である時調文壇でも、有力な3団体のうちの一つが、日本の歌壇との交流会を今年ソウルで行ったばかりである。ライト・ポエムとしてすでに国際的な土壌を広げてきた日本の俳句・短歌の動きに刺激され、文学における韓流として時調の国際化を目ざす動きもある。

言語の尊厳に誠実な姿勢も

 詩文学を含め、韓国文学の質の高さは疑いをいれない。しかし、メジャーなレベルでの国際的な評価としては、これまでのところフランスで李清俊の小説に対する評価が定着している程度である。日本でも韓国文学は読まれているが、在日知識人を除けば一部の日本人専門家に限られる。特定地域の文学の国際化が優れた翻訳の媒介を必須要件とする以上、このことは言語としての韓国語の影響力の限界を示してきた。

 しかし、韓国の文壇が世界を意識し始めたのはその間の韓国の国力の伸長と合わせ、韓流ドラマのブランド化につぐ自然なすう勢といえるだろう。確かに、韓国文学をよく知るものにとっては、ノーベル文学賞レベルの作品は韓国にはいくらでもあるように思える。

 詩の分野でも、1920年代アメリカの「イマジズム」によるモダニズム時代の開始以降、それを超えるべきポスト・モダニズムの長い混沌の中で、世界の詩文学の新しい地平開拓への期待がエスニックないしマイノリティーの詩文学に託されている。それを可能にしたのは、経済とともに進んだ文学世界における「グローバリズム」の潮流である。今日の詩文学の世界では、英語やフランス語などメジャー言語の地位は相対的にだが、低下しつつある。

 在日の文化は、韓国文化と従属的な相関関係に立っている。韓国文学の国際化の動きは、在日文学の評価にも肯定的な影響をあたえるであろう。在日の文学は、日本文学の飛び地であるばかりでなく、韓国文学の飛び地ともなり、文字通り「架け橋」の役割を完成しうる。

 ただし、そのためには、在日2世・3世の文学者が韓国語に対して誠実でなければならないと思う。韓国の知識人は、自らの言語の尊厳について極めて敏感であり、またそれは当然のことでもある。ただし、このことは、私たちの誰もがバイリンガルでなければならないということを主張しているのではないことを付け加えておきたい。

手段の日本語在日の利点に

 ところで、日本国籍取得者を含む在日の文学と韓国文学の連帯の問題は、アジア史の経緯とも合わせてもう少し複雑な内容を含んでいる。とりあえず今は、この問題における韓国語への誠実性の必要だけを述べておきたい。ごくごく単純化していえば、血を分けたもの同士の「情」の問題としてということである。

 在日の文学的営みは、過去60年のそれぞれの時期において、母国史への参与・社会的差別の告発・閉鎖状況における存在定立、と主題を変えてきたが、契機はいずれもその実存のマイノリティー性にあった。文学における近年の国際的潮流は、主として日本語を手段とする点で特異な在日の文学にも、さらに大きな可能性を与えているように見える。

■□
盛況だった「韓日 詩の祝祭」

 ソウルで4回目の「韓日 詩の祝祭」が開かれた(7月21、22日)。祝祭に合わせ、90人の作品を韓日対訳で収録した今年度の「韓日合同詩集」も刊行された。初日の夕方、ソウル広津区の広津文化院で行われた祝祭には、120人の詩人と詩愛好者が集まり、韓日両国の詩の朗読と創作歌曲やバイオリンの演奏を楽しんだ。

 日本側からは、秋田高敏・飯島武太郎・なべくらますみ・新井豊吉・水崎野里子・伊藤淳子・野々村日出子・楊原泰子ら12人が参加した。

 この催しは、韓国文学財団(理事長・成耆兆前韓国ペンクラブ会長)と日韓詩人文学交流協会(秋田高敏会長)の共催で毎年開かれている。来年度は日本で開催される予定だ。

 2日目の夕方には、姜敏・金光林・朴堤千・高貞愛ら韓国詩人たちによる歓迎会が開かれ、80人が参加して韓日の詩の対訳朗読が行われた。ここでも日本語と韓国語の対訳詩集「韓国105人詩選」が、「合同詩集」とは別に刊行されている。

 日本側の一行は、公式日程を終えたあと3日間、韓国の詩人たちとの親交を深めて帰国した。日本側の参加者は、韓国側の催しの規模と熱気に一様に驚いていた。来年はホストとなる秋田さんや飯島さんたちが、日本での企画をどうしようかと頭を抱えていたほどだった。

(2008.9.3 民団新聞)
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