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<生活>生きる力と自信与えて 在日ハルモニ支えた識字教室
朴富さん
李菊枝さん
「こんなにうまく書けました」と作品を手にするハルモニたち
広島「府中トンベックの会」の10年

 1999年9月、在日のハルモニたちを対象にした識字教室「府中トンべックの会」が、広島・府中町で産声をあげた。ハルモニたちは読み書きの勉強を通して学びの喜びを知り、生きる力と自信を育んできた。延べ1000余人が学んだ足かけ10年にわたる活動は、来月15日の修了式で幕を閉じる。「ハルモニたちの笑顔を一つでも多く見たかった」と発足当時の思いを語る同会代表の在日韓国人2世、朴富さん(56)に話を聞いた。

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学ぶ熱意に押され延べ1000人送り出す

 毎週土曜日、府中町のふれあい福祉センターで行われてきた日本語の読み書き教室。74歳から85歳までのハルモニたち4人が通ってくる。来月15日に行われる教室最後の第9期修了式には、卒業作品の展示、演劇発表もあるため、ハルモニたちは大忙しだ。

 おしゃれな朴仁鐘さん(74)は切り絵の作品を指さしながら、「細かいところが多いから難しい」と一生懸命、説明をしてくれた。教室には1回目から参加し、日本語の読み書きを覚え行動範囲が広がったと話す。

 孫且善さん(82)も最初から出ているメンバーだ。「日本に来て苦労ばかりしたよ。一番困ったのは字が書けないことだった。自分の名前も書けなくて情けない思いを何度もしたよ。でも今は字が書けるようになって嬉しい。先生たちが一生懸命だから、休まず来ました」と笑顔を見せる。

 ハルモニたちに名前を書いてもらった。ペンをしっかり握りしめながら、丁寧に一字一字を書き綴っていく。

 「あいうえお、かきくけこは、見たことも書いたこともなかった」という兪龍順さん(85)。「覚えるのに時間はかかったけど、一生懸命に書かなくちゃという気持ちがあった」と、はにかみながら「九九も覚えたよ」と付け加えた。

 そして1時間以上かけて廿日市から通ってくるのが河海洙さん(84)だ。以前、「そんな遠くからきてあんた偉いね」と言われたことがあった。河さんは「当たり前だ。私は毎回、千円を払ってきている。千円分勉強して帰らなければ」と答え、ボランティアたちを驚かせたほどの勉強家だ。

 朴富さんが「熱心で優等生ですね」と声をかけると笑い声が起こった。

差別事件を契機に設立

 98年、教室を立ち上げる契機となる事件が起きた。府中町内の中学校で朝鮮籍の女子生徒のカバンが切られるなどした。「中学校だけではなく、地域全体で考えなければならない問題として取り組みが始まりました」と朴さんは当時を振り返る。在日の父母たちによる広島在日コリアン保護者会が立ち上がった。朴さんは副代表2人の一人に就く。在日コリアン人権協会広島のメンバーと、差別を許さない教員らとともに、学校、教育委員会を相手に事実確認会の場を設けた。

 この一件を契機に、中学校の教員の呼びかけで「府中在日韓国朝鮮人の教育を考える会」が発足。99年3月には、同胞の子どもたちの集まれる場所にと「府中チャンゴクラブ」が発足するなど、人権学習の見直しなどがなされていった。

 ちょうどそのころ、義母から字が書けないという話を聞いていた朴さん。「日本のお年寄りたちはゲートボールとかの集まりに行くけど、同胞のお年寄りたちは働くだけ働いて、子育てをしてきました。どこにも行けないハルモニたちに誰が目を向けるのですか。一番分かっている私たち韓国人がやらなければならないと思いました」

町の教委も助成で応援

 その後、保護者会のメンバーをはじめ、在日コリアン人権協会広島、府中在日韓国朝鮮人の教育を考える会の教員らの賛同を得て、99年9月、「府中トンべックの会」を立ち上げた。さらに関係者たちを喜ばせたのは、府中町教育委員会が「生涯学習」の一環として教室に助成、ふれあい福祉センターの部屋も確保したことだ。朴さんらの働きかけが実を結んだ。

 助成金はノートや鉛筆、消しゴムなどの購入に充てた。また、教材は教科書会社から廃版になった小学校1年から6年生までの教科書を何組も寄付してもらった。

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「カラオケの歌詞が読めた!!」

 99年9月18日の発足時には毎回、ハルモニ、ハラボジ約20人が参加。中学生から70歳代までの同胞、日本人がボランティアを務めた。

 「孫に手紙を出したい」「レシートの見方が分からない」「バスに乗れない」。それぞれの思いを抱えながら学んできた。多くのボランティアはその置かれた厳しい現実を初めて知った。

 以前、ハルモニたちと一緒にカラオケに行ったときのことだ。画面に写った歌詞を見たハルモニが「センセー、字が読める」と叫んだ。「今までは耳だけで覚えてきたんです。その場にいた私たちは泣きました」

 これまでひらがな、カタカナ、漢字などの勉強以外にも、実践で役立つ学習として町役場の会報や病院で使う言葉、回覧板などを読む練習もしてきた。頑張ってきたハルモニたちの中には亡くなったり、病気などで来られなくなった人も多い。朴さん自身、年々、足腰の弱くなっていくハルモニたちの身体が気がかりだ。

 教室では送り迎えができない。数年前、同胞高齢者を受け入れるデイサービスができたことから朴さんは、ハルモニたちの安全面を考え教室を閉めることを決意した。だが、ハルモニたちから勉強を続けたいという声があがった。教育委員会からも人権教育の一環として教室を無くしてはいけないと背中を押されている。今、より良い方策を模索しながら、年内中の教室再開を目指す。

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取り戻した韓国人の誇り

 初めは鉛筆も持てない、まっすぐの線も書けなかったハルモニもいた。それでも皆、雨や雪が降っても通い続けた。 「読み書きができるということは生きる力、人生が変わるんです。だから文字は大事なんです」

 04年、トンベックの会はこの間の活動が認められ、「広島ユネスコ活動奨励賞」を受賞した。日本語の学習とともに、地域に暮らす在日として、日本人との内なる国際化を目指してきた。

 ハルモニたちと出会って韓国人の誇りをもらい、賢さと生きるたくましさを学んだと話す朴さん。そしてともに歩み、支えてくれた心優しい同胞と日本の人たちとの出会いが、この間の宝物だと何度も語った。

 10年かけて友だちになれたというハルモニたちのための、朴さんの新たな取り組みが始まる。

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仲間意識も芽生えて

 李菊枝さんは広島在日コリアン保護者会のメンバーでもあり、「府中トンべック会」のボランティアの参加を募るために03年、同会で開講したハングル講座で韓国語を教えてきた。ハルモニたちの日本人に対する変化が出てきたのは、開講2年目からと言う。

 「韓国語を日本の人に教えた後に、ハルモニたちの授業を行います。その入れ替わりのときにハルモニたちがすごく喜ぶんです。韓国語を日本の人に教えるということに誇りを取り戻すような感じですね」

 ハルモニたちは「生徒たちの肩を叩いて、『分かるか』と声をかけたりする。ハルモニたちも生徒たちも、ニコニコしながら話をしていました。お互いの存在があったから頑張ってきました。みんなで忘年会や新年会、遠足にも行く、同じ仲間なんです。この間の学習では、町役場の会報などの漢字にルビをふってくれたり、生徒たちはいろいろな場面で協力をしてくれました」

(2008.2.27 民団新聞)
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