「韓日パートナーシップ宣言」から20年を迎え、日韓親善協会中央会(河村建夫会長)と民団中央本部(呂健二団長)は10日、東京都内で「日韓パートナーシップ宣言・20周年記念セミナー」を共催した。基調講演を行った慶応大学の小此木政夫名誉教授と河村会長、呂団長は韓日関係の未来に向けて鼎談し、それぞれの立場から提言した。発言の要旨を紹介する。
「在日こそが懸け橋役に」呂団長
【呂】金大中大統領が日本を訪問する前日の98年10月7日に日本の憲政史上初めて国会に「地方選挙権法案」が提出された。翌日の8日に「パートナーシップ宣言」が発表され、その中に「在日韓国人が韓日両国民の相互交流・相互理解のための懸け橋としての役割を担い得るとの認識に立ち、その地位向上のため、引き続き両国間の協議を継続していくことで意見の一致をみた」と明記されていた。
地方選挙権のことが具体的に書かれておらず、残念に思ったが、金大統領は午後の国会演説で「70万在日韓国人の未来を考えないわけにはいかない。彼らは今後日本社会により多く貢献できる立派な構成員となれるよう制度的条件と社会的雰囲気がさらに改善されることを心より願ってやまない。特に、地方参政権の獲得が早期に実現できれば、在日韓国人だけでなく、韓国国民も大いに喜び、世界もまた日本のそのような開かれた政策を積極的に歓迎してやまないでしょう」と述べた。
民団は韓国に定住する日本人に地方選挙権を与えてほしいと金大統領にお願いした。当時、日本側は「相互主義」の理屈を持ち出しており、それを打破するには韓国で実施してもらおうということだったが、金大統領は実現してくれた。
【河村】韓国は一番近いところにあり、最も親しくすべき国だが、残念ながら日本の植民地政策があり、それに対する反省・お詫びについては、村山談話で「痛切な反省と心からのお詫び」を表明した。小渕総理はこれをそのまま受け止め、明確に「宣言」に取り入れた。金大統領も過去を直視し、未来志向でいこうと応じた。ややもすると、日本側は未来志向、韓国側は過去直視を焦点にしたい傾向があり、お互いにうまくいかなかった。今を生きるわれわれも新しい時代をつくる次の世代にもパートナーシップ宣言の精神が生かされることが大事だ。
地方参政権はわれわれと同じように、日本で暮らしている在日の皆さんには当然与えられる権利だと思っている。反対してきた人たちは、地方参政権を獲得することは地域によっては国政にも影響を与えるという理屈を持ち出す。しかし、最高裁は国会が決める問題だと判断した。国会議員の中での理解を深めていく課題が今残っている。
【呂】在日の存在は日本社会ではなくてはならない空気のようなもの。空気がないと窒息して死んでしまう。日本国籍を取得した在日の政治家、大学教員、医師、弁護士がいる。医師は在日だけでなく、多くの日本人の命を守っている。このように在日は一緒に暮らして空気のような存在になっている。
私には韓国も日本も同時に存在している。韓国は親の国、日本はふるさと。ところが、戦前から在日の歴史は110年にならんとしているのに、一部の日本人は私たちを何か特殊な存在のように扱っている。私の同胞友人には保護司もいる。自治会やPTA会長もいる。日常生活の中で地域社会のために貢献しているのが現実だ。
ところがここ数年来、極端な考え方の人が出て、私たちの生活を脅かす事象が起きている。私たちの実態をもっと見ていただき、韓日親善の生きたサンプルがあることを私たちも自覚すべきだし、日本人にも理解していただきたい。
【小此木】日本と韓国の望ましい関係として、日本人は過去を忘れない、日本人が忘れなければ韓国人は追及しないというくらいの形にできないものだろうか。「パートナーシップ宣言」はまさにそのような方向を示した気がする。
【河村】日韓交流1000万人時代を迎えるが、東京五輪に4000万人の外国人を迎えようとする。その中で25%を日韓が占めていることになる。ただ、3分の2が韓国から日本へ、3分の1が日本から韓国という現状だ。このアンバランスが気になる。一衣帯水という近さなのだから、往来の割合が日韓半々になればいい。
【小此木】最近また韓国人の若者が日本に留学するケースが増えてきている。日本の企業が積極的に韓国人留学生を受け入れており、そういう交流が必要だ。国境のハードルがどんどん低くなると、難しい議論よりも日韓の問題解決は早いかもしれない。
日韓の交流をさらに拡大し、お互いに相手の国に自由に往来し、留学やビジネス、会社勤めをすることで日韓関係の強まりが広がっていく。
【呂】教育が大きいと思う。私も日本の学校で教育を受けたが、両国間の不幸な時代のことを教えられたことがない。韓国や中国はそれをしっかり教える。このギャップがそのまま認識の差になっている。日本にとって都合の悪いことを、「自虐史観」という言葉一言で潰す風潮があった。もう少し日本の教育を歴史の事実にそったものにしないと根本的に解決しないと思う。
マンデラ氏の「忘れてはならないが、許すことはできる」という言葉がある。私たちの立場から言えば、日本側が少しはわかっていただければ、韓日関係は違ってくるんじゃないか。歴史を直視する姿勢が欠けてきたのが大きな問題だ。
「相互理解へ教育が重要」河村会長
【河村】日韓共同で教科書をつくろうと有識者が集まったこともあるが、これという動きがつくれなかった。日韓親善協会中央会と韓日親善協会中央会は、毎年日本と韓国交互で両国の若い世代を受け入れあい、ホームステイなどを実施している。
感想文を読むと、韓国人は「今まで聞いていた日本とは違っていた」と書き、日本人も「一緒にいて、とても理解が深まった」と言う。犬猿の仲だと言われたドイツとフランスが仲良くなったのは、毎年100万人の若い人たちが交流してきた結実だと思う。私は10年前から日中韓の小学生100人を1週間、童話を材料に交流させてきた。
「羽衣伝説」というのは、中国にも韓国にも同じような話がある。それを中心に話をしながら、1週間もすると子どもたちは大変仲良くなる。言葉が通じなくても、お別れ会ではお互いに抱き合って涙を流す。10年続いているので、すでに1000人の子どもが交わった。
このようなことを続けてきた結果、未来を担う子どもらの交流によって互いを理解しあうことが大事だと痛感する。
「過去を直視し未来を志向」という「パートナーシップ宣言」がどのようになされたか日本の教育の中で理解させる必要がある。
「人的交流さらに促進を」小此木名誉教授
【小此木】1000万人が両国を往来するというのは革命的なことではないかと思う。それだけ多くの人が日本に来て、日本の社会を観て国に帰る。数字の上では韓国人のほとんどがそのうちに日本を訪れる時代が来る。
もっと日本人の訪韓客を増やす必要があるが、日韓間に何か問題があると、日本人は訪韓に気が引ける。国全体が反日であるかのような誤解をしてしまう。人同士が顔を合わせるだけでも関係が違ってくる。若い世代が積極的に相手の国を訪問して、学んだり、働いたりするようになれば、もっと早く新しい時代が来るかもしれない。
【呂】静岡県立大の金両基教授が在日は「複眼思考」が財産と言った。私たち在日は韓日両国の文化を共有している。そんな財産を持つ在日を韓日友好親善活動にもっと活用すべきと思う。
(2018.09.26 民団新聞)