18世紀後期の朝鮮王朝第22代王・正祖、名はイ・サン。NHKの韓流ドラマ「イ・サン」を通じて日本でもよく知られている。原題は『正祖と哲人政治の時代―正祖時代を読む18の視線1・2』。
『正祖実録』をはじめ、『日省録』『弘齋全書』『古芸堂筆記』『黄嗣永帛書』など、官纂史書だけでなく、個人や外国の文献まで網羅しながら、正祖の過酷な運命と激動の生涯に迫った。
彼の父・思悼世子(サドセジャ)は、陰謀により謀反の濡れ衣を着せられ、米びつに閉じ込められて死んだ。サンが11歳の時だった。王に即位するや、「余は思悼世子の息子」と宣布しながらも、その悲劇を繰り返さないため、過去ではなく未来を、憎悪ではなく愛をかかげた。
奎章閣を創設しての学術振興をはじめ、丁若や朴斉家ら実学者を登用して商業・流通・科学技術を発展させ、庶子(非嫡出子)出身者の登用や奴婢制度の廃止など、相次いで改革を断行した。天主教も容認し、文化を振興させるなど、主体的近代化へのダイナミズムが胎動していたといえよう。
その集大成が水原華城の建設と遷都であったが、実現できなかった。ひたすら民のための政治をめざし、抵抗勢力をも取り込む哲人政治に驚かされる。巻末の正祖語録から人柄を伺うことができる。
李徳一著、権容 訳
キネマ旬報社
(各1900円+税)
03(6439)6462
(2012.11.7 民団新聞)