韓日発展の原動力
担って来た役割もっと学ぼう
今年で来日26年になる東京学芸大学(小金井市)の李修京准教授は、8月に国立教員養成大学では初の韓国学研究所を開設した。国際社会における韓国と日本の役割をはじめ、韓日の懸け橋を担う在日同胞の歴史の研究を行っている。研究所の役割、在日同胞への思いを聞いた。
大統領発言で拍車がかかり
韓国学研究所の設立は、韓国と日本の外交衝突を招いた李明博大統領(8月14日)の「天皇関連発言」が拍車をかけた。「大統領が対策も対案もなく言った一言が、在日同胞にどれだけ影響を与えるのか。そういうことが頭になかったのではないか。その時、在日は見捨てられたのかと思った」。それだけ大きな衝撃だった。
「これまで民団をはじめとする在日同胞は、韓国がまだ貧しいときに『祖国を何とかしたい』との思いから団結して惜しみない支援を行ってきた。在日同胞はある意味で韓国の成長の基盤となり、防波堤ともなってやってきたのに、そうした在日同胞の存在が指導たちの眼中になかったのではないか」
10月23日に韓国で開催された「僑胞政策フォーラム」で発題者となった。「韓日関係と在日同胞社会」をテーマに、韓国を離れざるを得なかった在外同胞の歴史を知るリーダーの必要性や在日同胞がいかに祖国に貢献したか、今後の民団の役割などについて発言した。
立命館大学大学院(社会学研究科博士後期修了)と山口県立大学国際文化部助教授を経て、05年から東京学芸大学で教壇に立ち、韓日近代史と国際人権問題を教えている。
この間、「尹東柱の集い」ほか多くのイベントを手がけてきた。これらの催しは韓国、日本、在日が集まる文化交流の場として李さんが数年をかけて土台を作った。
例えば「百済文化国際シンポジウム」では、両国の大学教授ら多数の韓日関係者を招いた。「これまで東京の教員養成大学で百済をテーマにしたシンポジウムを開くことなどあり得なかった。何でここでやるのかと聞かれて、韓日の未来のために必要だからやると答えた」。李さんだからこそ実現できた企画だ。
学生たちはこれまで多彩なイベントを通じて、在日の立場を理解してきた。「在日の苦痛を知らずに私たちが教師になるのは恥ずかしい」といった感想まで寄せられた。
韓国学研究所の取り組みは、例えば韓国が唱える韓国学は政治、歴史、文化などを通じて韓国の大切さをアピールしていくが、李さんはその優秀さだけを全面に押し出すのではなく、歴史であれば韓国の歴史だけを主張せずにその周辺国との比較を重視し、ほかの分野に関しても同様な手法で比較、発信、提案をしていくものだ。
人材の育成に民団への期待
この研究所が在日同胞や日本を活気づけ、「私たちの同胞である在日や韓国人留学生がもっと住み心地が良くなるための基盤になれば」と張り切っている。在日研究に取り組む学生が増えるなど、李さんの蒔いた種がようやく発芽しはじめた。
だが現実は、韓国も日本も在日を含む歴史を「知らなさすぎる」人たちで溢れかえっている。「子どもの未来を作り、平和的に生きようとしたら在日同胞の歴史も日本人の子どもたちは理解しないといけない」。李さんは在日同胞がいたから日本が国際化できたと思っている。
「とにかくがむしゃらに生きてきた歴史がある。それが在日同胞たちの思いを超えて、日本社会を成長させる動力の一つになったのは否定できません」
「在日は韓国だけに留まらず、日本やほかの国の文化が身につけられる環境にいる。恩恵を受けて生まれた方々」を話す。今後、民団はグローバル人材の育成を、在日の成功者には日本社会への還元と在日の子どものために投資を、と話す。「在日は未来です」。その未来を作るために今後の民団に期待している。
李修京 ソウル出身の歴史社会学者。立命館大学大学院社会学研究科博士後期修了。現在、東京学芸大学教育学部外国語・外国文化研究講座(アジア言語・文化研究分野)准教授。サイバー大学客員教授。専門は歴史社会学、国際人権教育、平和学、韓国朝鮮社会・文化論。日本社会文学会評議員。日本平和学学会企画委員、山口家庭教育学会理事などを歴任。韓流文化の春川市名誉広報大使。2005年度日本女性文化賞受賞。
(2012.11.7 民団新聞)