「閉塞感打開」に期待
北韓・安保への危機感も
「保守陣営」と「進歩陣営」による総力戦となった第18代大統領選挙(昨年12月19日)では、投票率が70%以上なら野党圏単一候補の文在寅氏(最大野党・民主統合党)が有利だと言われていた。だが、野党の盧武鉉候補が当選した前々回02年の第16代大統領選挙時の70・8%を上回る75・8%という高い投票率にもかかわらず、与党セヌリ党候補の朴槿惠氏が108万票も多く獲得し、勝利した。大きな変化を望む20代・30代の若者層よりも、安定と漸進的な変化を望み保守傾向の強い50代・60代以上の有権者の積極的な投票参加が、勝敗を分けた大きな要因とされている。
高かった投票率
75・8%の投票率は、金大中氏が野党候補として出馬して勝利を収めた97年の第15代大統領選挙(80・7%)以降では最高値となる。李明博大統領が当選した前回07年の第17代大統領選挙の投票率は63・0%だった。
当初予想を上回る高い投票率は、事実上の保守・進歩候補の一騎打ちとなった今回の大統領選挙に対する有権者の高い関心を示すものであった。民主統合党だけでなく、専門家らも75%以上なら文候補が絶対有利とみていた。
だが、朴当選人が、過去の大統領選を通じ歴代最多得票となる1577万3128票(得票率51・55%)を獲得。文候補は1469万2632票(得票率48・02%)にとどまった。
朴当選人は、17市・道のうち、野党性向の強いソウルと伝統的に野党の地盤である湖南地方(光州、全羅南道、全羅北道)を除いた、全地域で文候補に勝利した。
有権者の49・1%を占める最大の激戦地であり、劣勢とされていた首都圏(ソウル、仁川、京畿道)で、朴当選人は善戦し勝利につなげた。ソウルでは48・18%対51・42%で文候補に約20万票及ばなかったものの、仁川で51・58%、京畿で50・43%を獲得。首都圏全体での票差は約6万票にとどまった。
最大の勝負どころでの朴当選人の善戦には、「経済民主化」と「民生安定」「福祉拡大」を最大の公約として前面に打ち出したことがあげられている。
一方、湖南地方は反セヌリ党感情が強く、朴当選人の得票率は初めて「2ケタの壁」を破ったものの、平均10・5%(光州7・76%、全羅南道10%、全羅北道13・22%)にとどまった。ちなみに光州の投票率は全国最高の80・37%だった。これは前回の大統領選挙の時より17・3ポイントも高い。
光州に次ぐ高い投票率を記録したのは、朴当選人の政治的地盤である大邱だった。79・66%で、やはり前回より12・9ポイント上昇。3番目に高かったのも朴当選人の地盤である慶尚北道の78・23%。大邱、慶尚北道での朴当選人の得票率は80・14%、80・82%と圧倒的だった。
世代で割れる
この間の少子高齢化の進展に伴う人口構成の変化により、今回の大統領選挙では50代以上の有権者(1618万2017人)が、初めて30代以下の有権者(1547万8199人)を上まった(70万人余り)。
10年前の第16代大統領選挙に比べると50代以上の有権者の割合は29・3%から40・0%に増加、人数では505万人も増えた。逆に、30代以下は48・3%から38・2%となり、151万人減少した。このような年代ごとの有権者の比率の変化が、朴当選人に有利に作用した。
朴当選人の勝因として、50代、60代以上の有権者の圧倒的な支持が指摘されている。地上波3社(KBS、MBC、SBS)の出口調査によると、50代の投票率は89・9%、60代以上は78・8%で、平均投票率を上回った。一方、20代(65・2%)、30代(72・5%)は平均投票率より低い。
しかも50代の投票者の62・5%、60代以上の投票者の72・3%が朴当選人を支持した。ちなみに20代の投票者の65・8%、30代の投票者の66・5%は文候補を支持した。
なお、40代では朴当選人支持55・6%、文候補支持44・1%となっている。世論調査によると45歳以上は朴当選人支持、44歳以下は文候補支持の性向が顕著だった。
高い投票率に見られる50代、60代以上の保守層の結集の背景として、対北韓・安全保障問題に対する不安および危機感が指摘されている。
「50・60代」結集
選挙戦では、文候補が秘書室長を務めた盧武鉉大統領が金正日総書記との南北首脳会談(07年)で、海上での事実上の軍事境界線である西海北方限界線(NLL)を放棄するとの発言を行ったとの疑惑が提起された。
また、若者や無党派層の支持を集める無所属の安哲秀候補が、野党圏候補一本化のために途中下車して「天安艦撃沈事件」・「延坪無差別砲撃事件」などでも対北融和姿勢の強い文候補支援に回ったこと。さらに大統領候補者による第1回テレビ討論で、駐韓米軍撤退や国家保安法の撤廃など掲げる統合進歩党の李正姫候補が「朴候補を落とすために来た」と公言、その後に文候補に票を集めるために途中辞退し、朴候補への攻撃を続けたことで保守層の不安が高まった。
のみならず、国連安保理決議に反する北韓による長距離弾道ミサイルの発射強行、さらに選挙戦終盤で文候補側が確実な根拠もなく国家情報院による違法選挙運動疑惑を提起して女性職員を監禁し、国家情報院や警察など国家機関を攻撃したことが、不安を一層高め結集を促した。
特に、6・25韓国戦争(50〜53年)をはじめ、1・21青瓦台襲撃事件(68年)、ラングーン爆弾テロ事件(83年)、大韓航空機爆破事件(87年)など北韓による対南テロ・挑発の歴史に鮮明な記憶をもつ、50代、60代以上の高い投票率と朴当選人支持になったとみられている。
「着実な改革」求める
来年2月25日から5年間の国政を担う朴槿惠当選人には課題が山積している。選挙戦では「国民大統合」と合わせて「中産層の拡大」と「国民生活の改善」を国政の最優先課題として強調してきた。
12月18日の選挙戦最終日の遊説でも、「崩壊した中産層と国民生活を立て直す大統領になる」と支持を訴えた。
19日夜、ソウル光化門広場での当選祝賀行事に参加した朴当選人は「国民の皆さんが夢をかなえられる『国民幸福時代』を開く」と述べ、「選挙過程で大きく3つの約束をした。民生大統領、約束大統領、大統合大統領になるという約束は必ず守る」と再強調した。
朴当選人は選挙期間中、「国民を分裂させたり扇動することなく、国民のために全てを捧げる」と訴え、国民和合を通じた国民大統合を約束してきた。具体的な方向としては①公正な人事と地域均衡発展による地域対立の解消②財閥や大企業偏重の経済構造を是正する「経済民主化」による階層間の対立解消③世代に合った福祉を提供しての世代間対立の解消などを掲げている。
韓国社会の極端な分裂現象を解決しなければ、経済危機の克服はもちろん、先進国入りも厳しいという危機意識を持っている。このため「経済民主化」をセヌリ党の綱領に明示して、福祉政策も大幅な拡大導入を公約するとともに中産層の復元を主張してきた。
「国民大統合」の推進は、これまでの大統領も、選挙選で公約し、当選直後の第一声で改めて約束したが、失敗している。朴当選人には自らを支持した1577万人の有権者と共に、文候補に票を投じた1469万人の有権者の思いも正確に把握して国政に反映させるよう求められている。
経済の再生と雇用創出に全力を図り、社会の両極化解消と世代・地域間の融和推進を通じた「国民大統合」の実現に向け、着実に改革を進めることが期待されている。
(2013.1.1 民団新聞)