掲載日 : [2005-07-13] 照会数 : 5896
韓日の過去と在日描く演劇「沈黙の海峡」
[ 品川能正さん ]
第2次世界大戦時、日本軍兵士として戦争にかり出された一人の在日同胞の生き様を描いた演劇「沈黙の海峡」が、16日の下関公演を皮切りにスタートする。5年前に亡くなった実在の人物をモデルに、東京ギンガ堂を主宰する劇作家の品川能正さん(48)が脚本・演出を手がけた。日韓友情年企画の本作品は、ソウル市劇団との共同制作。4月のソウル公演は、連日満員で好評を博した。
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脚本・演出の品川氏に聞く
「恨」に正面から…実在の人物を通じて
サッカーW杯の韓日共催や韓流の後押しなどで、韓国は「近くて遠い国」ではなくなった。しかし、足を踏まれた韓国が韓日間の歴史を風化させないのに比べ、踏んだ側の日本はすっかり歴史を忘れているのではないか、という危惧が品川さんにはある。
01年にも日韓共同で「火計り‐四百年の肖像」を制作した。400年前に日本に連行された薩摩焼の陶工の末裔を描いた作品は、岸田戯曲賞の最終候補作になり、「日韓の演劇文化交流の希望」と高く評価された。この作品を観たソウル市劇団の関係者と意気投合。両者は「沈黙の海峡」の共同制作を決め、歴史に翻弄された男の人生に光を当てた。舞台では両国の役者がそれぞれの言葉で演じ、字幕が表示される。
ストーリーは、戦争のショックで60年間記憶を喪失した主人公が、死の間際に徐々に記憶を取り戻し、韓国語まじりで人生を語り始めるというもの。00年2月に東京の病院で亡くなった元日本軍兵士の在日同胞の存在を新聞報道で知った品川さんが、「戦争の時代を生きた人間を切り口にして、日韓の問題を真正面から直視したい」と、作品に仕上げた。
一番苦労したのは台本作りだ。韓国人の根底にある恨(ハン)をどう描くか神経をすり減らした。昨年末に第1稿があがったが、韓国人スタッフとのミーティングで感情表現などの相違に改めて気づかされた。後学のために、ソウル・大学路の劇場に何度も通った。そこで目にしたのは、エネルギッシュな役者と客の姿だった。舞台と客席が一体となったバランスの良さを実感した。
紆余曲折を経ながらソウル公演の準備を進めていた矢先、島根県議会が「竹島の日」を制定した。韓国政府は韓日友情年企画の白紙化を発表、ソウル市からも公演中止をほのめかされた。しかし、文化交流の重要性と韓日演劇人の企画であることをしたためた手紙を盧武鉉大統領あてに出すなど、関係者が奔走したおかげで上演にこぎつけた。4月8日に世宗文化会館で幕をあけた舞台は、マスコミにも大々的に取り上げられ、インターネット上でも劇評が掲載された。24日まで21回演じられ、連日若い世代がつめかける活況を呈した。
品川さんの地元から始まる日本公演を前に、「日韓の文化交流は、ますます盛んになる。時代を吸収して生き続けるライブの演劇を通じて、ハンを超えたい」と意気込みを見せた。
《公演日程》
▽16日19時=下関市民会館
▽17日19時、18日15時=山口情報芸術センター(山口市)
▽20日19時=宇部市渡辺翁記念会館
▽22日19時=シンフォニア岩国
▽24日15時=大阪・吹田市文化会館
▽26日〜8月3日=東京・俳優座劇場(26日から29日は19時半、30日は15時と19時、31日は15時、8月1、2日は19時半、3日は19時開演。
問い合わせは、東京ギンガ堂(℡03・3352・6361)
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品川能正さん
山口県宇部市出身。同志社大学法学部卒。プロデュース形式の演劇企画集団「東京ギンガ堂」の代表。脚本家、演出家。「社会的テーマを織り込んだ骨太のストーリーで、人間の理性と狂気の間の微妙な均衡を描く」作風が身上。03年は3万5千人を動員した野外音楽コンサート「21世紀日本ロシア交流フェスティバル」の演出を担当。04年には代表作「KAZUKI〜ここが私の地球」をニューヨーク、ロサンゼルスで上演し、マスコミなどから高い評価を得た。
(2005.07.13 民団新聞)