掲載日 : [2006-09-27] 照会数 : 6082
読書



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歴史の狭間を生きる 社会の不条理と対峙
李さんは70年代、日立就職差別闘争支援に関わったことから「民族差別と闘う全国連絡会(民闘連)」を立ち上げた。在日同胞の戦傷元軍属からの訴えを受けて援護法の適用を求め、奔走してきた。これらの行動は皇民化教育の洗礼を受け、屈折の極みを突っ走ったとされる李さんの少年時代を知ることで初めて理解できる。
本書の極めつけは川崎市南部の地で社会福祉法人青丘社を創設し、いまでは考えられないようなあからさまな偏見と差別にもまれながら、川崎市ふれあい館の運営を任されるまでにふれたくだり。いまでこそ多文化共生社会の実現は市のキャッチフレーズとなっているが、担い手としての困難は想像を絶するものがあったのだ。
歴史教科書問題の講演で鹿児島県に立ち寄った際、自ら望んで知覧の特攻隊記念館を訪ねた。李さんは同姓の青年に我が身を重ね、歴史の不条理を覚えたことだろう。
社会の不条理と真っ正面から対峙するときの李さんはいつも毅然としていた。取材現場で李さんの発言をノートにメモをとるたび、含蓄あふれる言葉が心に突き刺さってきたものだ。それはなぜなのかが、本書を読んで初めて分かったような気がする。2、3世がこれからを生きる道しるべとなる多くのヒントがここにはある。
李仁夏著
日本キリスト教団出版局
2200円+税
電話03(3204)0422
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ルーンの子供たち 父と幼い剣士たちの運命
ファンタジー小説が売れないと言われていた韓国で、異例の30万部を記録した小説である。台湾、中国、香港でも出版されたのに続き、満を持して日本語版(全3巻)が登場した。不勉強のため、韓国にそういう分野の小説があることを知ったのは、本書を通してである。
ストーリーは「剣士の家柄に育った2人の兄弟は、日々修行に精進していた。幸せで平穏な日々に突如として災いが訪れる。一族から追放された父の弟が多数の兵隊を連れ、復讐を果たすと同時に、家宝の武具を奪おうとやってきたのだ。武具を身につけた兄弟は、一目散に追っ手から逃げ出すが、体と心に痛手を負ってしまう。父と幼い剣士たちの運命はいかに」というもの。
著者は99年に発表した『歳月の石』が、400万回のアクセス数を数え、一躍ブレイクした。ファンタジーにとどまらず、歴史・文学・神話・哲学にも造詣が深い。
訳者は第8回朝日新人文学賞を受賞している在日2世の金重明。作家として『幻の大国手』(新幹社)、『算学武芸術』などがある。本書ではペンネーム酒井君二を使っている。
『ハリー・ポッター』が爆発的なヒットを飛ばした日本で、果たして快進撃となるか。秋の夜長に紐解く1冊に加えてほしい。
ジョン・ミンヒ著、酒井君二訳
宙出版
1900円+税
電話03(5228)4060
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コリアン三国誌 3地域のコリアンの多様性
韓国に住む韓国人、日本に住む在日コリアン、中国に住む朝鮮族は、いかに世代が変わっても、そのルーツは韓半島にある。
現代の韓国では、普通に漢字を見かけることが少なくなり、国全体がハングルの洪水と言っても過言ではないが、韓国語の多くも漢字語で成り立っていることをみる時、漢字文化圏に属するこの3地域の文化には、共通点が多くある。主食が米、箸を使うという食文化などは、その典型である。
しかし、同時に相違点も多く、「似て非なるモノ」という前提で交流を続け、相互理解を深めていくべきだというのが本書の要旨である。
関西で生まれ育った著者は、百済と奈良の関係や大阪に数多く住む在日の存在などによって、韓半島や中国大陸に関心を抱き続けてきた。その思いが高じて90年8月から8年間をソウルで生活、その後の2年間を中国延辺朝鮮族が住む延吉で暮らすという経験をした。
その貴重な他郷暮らしを踏まえ、日本人から見た韓国と韓国人のあり方、民族文化を維持し続ける朝鮮族、そして隣人の在日の生き様を、温かく時には厳しく描いている。
「韓流は文化のつまみ食いではないか」と苦言を呈す一方、在日攻撃の「嫌韓流」本が売れる今日の日本社会の異常さにも警鐘を鳴らす。
綛谷智雄著
新幹社
1800+税
電話03(5689)4070
(2006.9.27 民団新聞)