掲載日 : [2005-08-17] 照会数 : 5909
読書…Books
[ アントニオ・コレア ベニスの開城商人 ]
[ (右)朝鮮高校の青春、(左)声を刻む ]
アントニオ・コレア ベニスの開城商人…奴隷の身から才覚一つで
呉世永著、朴性守訳 碧天社 1500円+税 ℡03(5217)3171
壬辰倭乱(文禄・慶長の役)で日本軍に捕らわれた19歳の水軍兵士、柳承業の波乱に満ちた生涯の物語。
長崎で奴隷として売られる運命にあった承業は、その聡明と誠実を惜しむ庄屋の久衛門親娘の助けで解放され、宣教師ステファノとともにイタリア商船に乗ってベニスへと旅立つ。欧州では、宗教戦争の動乱を通じて近代欧州諸国家の枠組みが成立しようとしていた。十字軍の基地として商業的に発展したイタリアでは、やがてベニス、フィレンツェなど有力な商業都市の繁栄を見る。そのベニスで、朝鮮の商業都市・開城出身の承業は、努力と才覚により大商社カンパネラ社の最高経営者の地位に上りつめる。
ルーベンス作とされる「朝鮮服を着た男」という絵がある。また、記録によれば、あるフィレンツェ人が壬辰倭乱時に連行された朝鮮の若者「アントニオ・コレア」を長崎からイタリアに連れ帰っている。イタリア南部にコレアという姓を持つ人々が今も暮らしている。この3つの事実の組み合わせから構想された魅力的な小説。
作者呉世永の叙述はリアルで、ドラマチックな展開は読むものを飽きさせない。時代考証も確か。また、韓国と日本の両方の大学に通い、両方の言葉を熟知する朴性守氏の翻訳は格調高い日本文としてほぼ完璧な名訳である。
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声を刻む…蹂躙された尊厳の回復を
中村一成著 インパクト出版会 2000円+税 ℡03(3818)7576
在日無年金者をいまだに放置して恥じない日本の有り様を当事者の生の声で告発している。個々の証言者の内面に深く切り込み、引き出した肉声は、いずれも胸にずしりと響く。加えて渡日に至る経過と、その後の生活史全般に対して「なぜそうなったのか」と「歴史の内実を問う」丹念な裏付け取材も事実の重みを際だたせてくれる。
大阪高裁で障害無年金訴訟の原告団長を務める金洙栄さんは、はしかの予後で「障害者」となった。息子の将来を悲観した母親は、自らに保険をかけて自殺を図った。その母親も80歳をとうに超えていまだに無年金だ。
著者は国民年金法制定時、外国籍者の9割以上が在日同胞だったことを挙げ、「誰を対象に日本で暮らす生存権を否定したのかは明らかだ」という。在日3世の「障害者」金順喜さんは、「私たちは、植民地支配の結果として日本にいる。だから私たちの処遇改善は、戦後補償がちゃんとされない限りダメなんじゃないか」と語っている。
本書には主な証言者だけでも11人が登場するが、悲惨さだけに注目しているわけではない。解放前・後の困難だった時代をしたたかに生き抜いてきた1世のたくましさも同時に引き出している。証言者たちの共通の願いが「蹂躙された尊厳の回復」なのだということが読みとれるだろう。
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朝鮮高校の青春…なのになぜ?驚きの群像
金漢一著 光文社 1300円+税 ℡03(5395)8172
朝鮮学校と聞いて、一般の人はまず何を思うだろうか。金日成・金正日親子を礼賛し、南朝鮮(韓国)をこき下ろし、そして反日を旗印にした「教育」を進める拠点、それが大方のイメージだろう。
そういうダーティなイメージが固定化すれば、そこに通う学生は、できれば関わりたくない存在と映るかもしれない。さらに、ここ数年来の日本人拉致、核開発、ミサイルなど、危険極まりない事実の発覚による北朝鮮憎悪が追い討ちをかける。
本書は、東北にある朝鮮学校で小・中・高校生活を送った著者の青春グラフィティーだ。映画「パッチギ」で垣間見た朝鮮学校の青春が、活字の読み物になったというノリで書かれている。
同じ在日でも育った環境、受けた教育によって、ここまで違うものかと、少々驚かされた。学校の内外で日常化した暴力が時には警察沙汰になる。身柄を引き受けに行った朝鮮学校出身の先生は、その是非と効果はともかく、当局に対して決してひるまず、逆に過去の植民地支配と現在の民族差別の非を訴える。
彼らのほとんどは、世間から思われているような、かの暴君にしたがう無垢な群れでは決してない。親も先生も母体組織もそのことを知り抜いている。だのになぜ?「事実は小説よりも奇なり」の世界に導く一冊。
(2005.08.17 民団新聞)