掲載日 : [2005-09-14] 照会数 : 3869
読書…Books
[ 女優 新屋英子 ]
[ (左)在日コリアン文化と日本の国際化。
(右)ある弁護士のユーモア
]
女優 新屋英子‐私の履歴書…独り芝居2000回の軌跡
新屋英子著…解放出版社 1600円+税 ℡06(6561)5273
新屋英子のひとり芝居「身世打鈴」が、73年4月29日の初演から32年の歳月を経た今年4月24日、ついに2000回上演という快挙を成し遂げた。
当初上演時間は28分だったが、数多くのオモニたちからの聞き取りと韓国の風習や言葉などを学んだことで内容が膨らみ、今では1時間20分の作品になった。
その「身世打鈴」は、済州道から渡ってきた在日1世のハルモニの苦難の人生を演じたものだ。迫真の演技に公演会場になった学校の校長が、実際のハルモニと混同したというエピソードもある。映画「学校」の山田洋次監督に「女優ではなく、労働者の手だ」と言わせた女優を、全国津々浦々の公演会場に向かわせ、舞台に立たせ続けた原動力は何か。
不戦の誓いが芝居の原点だと、本書はいう。45年8月15日の敗戦の日、皇国少女だった新屋の考えは180度変わり、人間らしく生きるという意識に目覚めた。マインドコントロールされていた没個性から自分の目で見て考える人間への転換である。徹底して暴力を否定し、人間を差別する不合理に立ち向かっていく情念と理念が、「身世打鈴」によって育てられるのではないか、と自身は分析する。
生い立ちからこれまでの役者人生を、自ら語り部になって記した一冊。
■□■□■□
ある弁護士のユーモア…権力の姿を風刺交えて
韓勝憲著、舘野訳…東方出版 2000円+税 ℡06(6779)9571
韓国の民主化運動や労働運動で犠牲になった人々の弁護を数多く手がけてきた人権擁護派弁護士のエッセイ集である。自身も時の権力に逮捕・起訴され、弁護士資格を剥奪されたことがある。
本書は68年から04年3月までの36年間に韓国で起きたさまざまな事件や事態について、風刺と諧謔をまぶして語っている。原文で読めば、同音異句の洒落のおもしろさがもっと伝わってくるだろうが、文中の解説がその味わいを十分生かしている。
時代を斬る一例として、80年代半ば、米不足のために政府がとった粉食(ファーストフード)奨励策を紹介している。ソウルに留学していた在日同胞学生が、夏休みに日本に戻り、そのことを友人に話した。すると国家機密をもらすスパイ行為の嫌疑がかけられた。担当判事に「それが有罪になるなら、それこそ国家の恥になる。判決文から省くように」と要請したが、聞き入れられなかったという。軍事政権時代の笑えない話だ。 その一方、「金大中内乱陰謀事件」で拘束・起訴された時の公訴状に「金大中を大統領に擁立すれば、自分も間違いなく出世するだろうと確信し」の部分は、要求通り削除された。後日、金大中大統領が誕生し、監査院長になった事実とからめ、「削除した部分は誤判」であると皮肉っている。
■□■□■□
在日コリアン文化と日本の国際化…文化交流の必要性提言
王清一編…財団法人王利鎬日本学研究所 15000円+税 ℡075(802)2331
編者は従来の反日感情が残っていた78年に、私財を投じて韓国初の財団法人日本学研究所を東国大学内に設置した。看板が壊されるなどの妨害もあったが、文化を切り口にした交流こそが韓日や在日の南北の壁を越えることができると確信し、まず韓国と日本でシンポジウムを開催するなど奔走してきた。
その後、90年から00年にかけて、欧米一辺倒ではなく、在日に機軸を置いた国際化をめざし、シンポジウム「日本の国際化と在日韓国・朝鮮人文化」を毎年日本で開催してきた。
本書はその10回の講演内容をまとめたものである。シンポの主催は、韓国の東国大学日本学研究所と本書の発行所である王利鎬日本学研究所、京都市国際交流課の3者が担った。
上田正昭、田中宏、川村湊氏など、韓日関係や在日問題に造詣の深い日本の学者や研究者のほか、梁石日、金守珍、金時鐘氏ら在日文化人が語る第1回の「在日文化の役割」をはじめ、朝鮮通信使や民族教育、韓日の儒教比較などが収められている。
また、故人となった姜永祐先生の民族教育への思いや女優の金久美子さんが語った「切るのではなく、抱え込んでいく発想の必要性」は、今目を通しても新鮮味を失っていない。学術書として広く読まれることを期待したい。
(2005.09.14 民団新聞)